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25:王宮の三王子-3

「ユグノーもお前のお守りなど飽き飽きだろうよ」

「ちょっと兄上、それ以上言うとアスターが泣きますから!」


 どんどん激昂する兄をユアンシェンが諫めれば、その矛先はユアンシェンにも向かった。


「大体お前も何を甘やかしているんだ! こいつが現実も見ないで我が儘ばっかり言ってるから、我が国の国防の要である剣聖がいなくなったのだぞ! こいつに責任を取らせるべき所を剣聖が一人で泥を被って……!」

「いや、それはみんなが同罪でしょう!!」


 そう。みんなが同罪だ。国王である父も、王妃である母も。かく言うエマシアスだって、今までは見て見ぬふりをしてきたのだ。可愛い末っ子の幼い初恋をずっと見守ってきた彼らは、きっとユグノーも同じようにアスターと想い合っているのだろうと思ってきたのだ。


 それがまさか、ユグノーが出奔しようとは。え? 恋人だったんじゃないの? それとも彼が身を引いた? いやいやいや、そんなくらいで国防の要である剣聖が出奔するか? まさかずっと、剣聖に対して自分の気持ちを押しつけていた? ユグノーも元々は平民の出だ。そりゃ第三王子を無碍にする事などできなかっただろう。だが、テレンス王国への婿入りの話が出てきて、さすがにやばいと思ったのか。これがチャンスと思ったのか……。


 二人の間に何があったかは知らないが、結果としてアスターのせいで剣聖がいなくなったのは事実だ。こんなことが国民や他国に知られたら大変な事になる。



 剣聖出奔からこっち、ずっとそう言ってアスターには剣聖を諦めるようにと説得を続けていた。もう口が酸っぱくなるほど。この話をするのがうんざりするほど。

 それでもアスターの考えは変わらなかった。自分の立場も剣聖の気持ちも考えずに、こいつはユグノーと話をすれば分かるとそればっかり。こんなことがテレンス王国に伝われば、二国間の仲もこじれる事も考えずに……!!


「アスター! もういい加減に現実を見ろ。お前にできる事と言えば、テレンス王国との同盟を強固にするために婿入りし、王配となって我が国との絆を深める事だ!」


 だがそれは、アスターには到底納得できない内容だった。


「私の価値はそんな物ではありません! 私は王立騎士団の……!」

「じゃあユグノーをお前の手で連れ戻してみろ! できないだろう!? できないのに、偉そうな事を言うな……!」

「兄上もアスターも落ち着いて! そんなできもしない事を言うからいつまでも話が前に進まないんです! っていうか、違いますよ! ユグノーはドルネール総長の密命で不在にしているだけですから! そういう事になってるんですから! その基本を忘れちゃダメですって!」


 間に立って何とか二人を宥めようとしているのだろうが、なんだかんだでユアンシェンの言っていることもそこそこひどい。


「せいぜいドルネール総長に泣きつく事だな。ユグノーを探すために、騎士団を貸してくれとな!」

「そ……それは、第一騎士団長を探すためなのですから、騎士団を動かすことは当然でしょう!」

「はっ! それで、どこの騎士団を借りるつもりだ? お前に動かせる騎士団があるとでも? 団長不在の第一騎士団だとて、お前の下には就かぬだろうよ。王立騎士団は実力主義だ。魔力に乏しいお前の言う事を聞く者などいるものか!」


 兄もアスターもどんどんヒートアップしていく。ここは回廊で、どこにどんな目があるかも分からないというのに。


「兄上! もう、いいかげんにして下さい! アスターが心配なのも、アスターの目を醒まさせてやりたい気持ちも分かりますが、思いっきり逆効果ですから!」

「お前だってあいつの脳みそぶん殴って現実見させてやりたいと思ってるんだろが!」

「あぁあぁぁあ! 良いからほら、兄上には王太子としての業務が他にもおありでしょう!? ほら、行きますよ!! アスター、とにかく! お前は出来もしないことばかり言ってないで、剣聖不在の騎士団がちゃんと回るように、ドルネール総長のそばでちゃんと裏方仕事をこなしておけ! そういう地道な仕事が騎士団内でのお前の評価を上げるんだから! 良いな!? ほら兄上! もう行きますよ!!」


 ユアンシェンに引きずられるようにしてエマシアスが退場すると、アスターは思わず回廊の壁に拳を叩きつけた。


「殿下! 大切な拳が傷みます! おやめ下さい!」

「うるさい!」


 すかさず侍従がアスターの腕を押さえるが、アスターは侍従の腕を振り払ってもう一度手を振り上げ……さすがにその手を振り下ろして代わりに足を踏みならした。


「くそ!! くそ、くそ!! バカにして! 俺は王立騎士団の副総長だ! 兄上達なんて俺よりも魔力が乏しいくせに……! ふざけやがって……!!」


「殿下……」


 侍従は困ったようにアスターに自分のハンカチを差し出した。拳に血が付いている。ここにエマシアスがいれば、壁を殴ったくらいで拳が破れるなど、修行が足りないと馬鹿にされたことだろう。……実際、王太子であるエマシアスや次兄であるユアンシェンの拳は硬く、何重にもタコができて、そのくらいで破けるような柔な拳ではないのが悔しい。自分は剣の訓練よりも魔法の訓練をしていたからだ、などと自分に言い訳をしながら、アスターは侍従のハンカチを奪い取るようにして血を拭った。

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