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14:大海賊デッセル-3

今回も残酷なシーンが出てきます。

人が死んだりしております (>д<;)

苦手な方は周れ右でお願いします m(_ _)m

海賊の背の上にいたのは、蹲るようにしゃがみ込んだヒューイだった。帆桁の上から飛び降りてきたのか。ダリルと同じ配給品の細い剣を海賊の背中に突き立て、着地の勢いを殺している。


「なっ!? ヒュ、ヒューイ!?」

「ダリル! 自分の身は自分で守るしかないんだ! 立て! しっかりしろよ!」


 言うなりヒューイは斃れた海賊の持っていた曲刀を奪い取ると、それを甲板すれすれに後ろへ振り回した。



「ぎゃぁあぁあぁぁぁ!!!」


 無防備に見えたのだろう、ヒューイとダリルに襲いかかろうとしていた海賊のふくらはぎを、ヒューイは無造作に斬りつけた。骨に迫るまで両足をえぐられた海賊は当然立つこともできず、床にへばりつき悲鳴を上げ続けている。


「ダリル! こいつ、任せても大丈夫か!?」

 それが何を意味するのか、ダリルには最初分からなかった。


 目の前で、動くこともできずに叫び続ける海賊。

 こいつを、任せる?


 ダリルは恐る恐る周りを見た。

 すぐそばで、イグニス艦長が海賊と鍔迫り合いをしている。その向こうには、同期で入った水兵仲間が必死に剣を振るい、海賊を追い払おうとしていた。


 ────ガッ!!


 低く腹の底に響くような音に目をやると、イグニス艦長が目の前の水兵の腹に剣を突き立てている。男はそのまま膝から崩れ落ち、イグニスが剣を引き抜くと、真っ赤な液体を辺りにぶちかました。


「あ……」


 人が、死ぬ。多くの人が。

 だがこで怯んでいれば、殺されるのは自分なのだ。


 ダリルは剣を握り直した。俺の子分のヒューイが一人を殺し、一人を戦闘不能にした。

 それならば、この男にとどめを刺すのは、俺の仕事だ……。


「クッソ~~~!!!」


 ダリルは剣を振り上げた。無抵抗な男に剣を振り下ろす。イヤな感触がした。断末魔の感触。命が消えていく感触だ。

 これが、戦という物だ。海賊と戦い、国境を守る。ひょっとしたら、ウォースの軍隊とだって戦うことになるのかもしれない。


 吐くな。馴れろ。これが戦だ。これが、人を殺すということだ……!!

 ダリルは肩で息をしながら、人を初めて殺した禁忌感を何とか飲み込もうとした。


 ヒューイはもうこちらを見てはいなかった。山の魔獣と幼い頃から戦っていたと言っていた。あいつは戦に馴れているのだ。

 クソッ! 俺の手下のくせに! 一番年下のくせに……!!


「ヒューイ! 俺に勝ったと思うなよ!!」

「もちろんだ、ダリル! 後は任せた!」


 そう言ってヒューイは男達の足下を、低い姿勢で駆け抜けていった。


 海賊達は皆体格に自信のある大男達で、彼らに比べればヒューイはまだまだ小さく、しかも低い体制で走ることに馴れていた。奴らの腰より低い位置を這うように走りながら、曲刀を右に左に振り回す。海賊達は目の前の敵に対峙しているのだ、低い位置を走るヒューイの姿は見えていないのだろう。突然死角から現れる曲刀に脚を斬られ、彼らは面白いほどに無力化されていく。


「ぎゃぁあぁ!?」

「な、なんだ!? どこから……っ!!」


 だが、ヒューイの姿が見えていないのは、味方にとっても同じ事だ。彼らは訳が分からず、それでも目の前の敵が動きを止めることに一瞬戸惑いながらも、次の瞬間にはすぐに対応していった。


 そう。突然脚の利かなくなった海賊共など、プリモナール海軍の敵ではないのだ。


「……なんて奴だ……」


 ダリルは、唯一人その光景を見つめていた。


 物心ついた時には山の魔獣と戦い、朝晩の素振り千回を欠かさない。

 ヒューイのことを、何か、自分とは違う物のように感じた。


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