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Eクラスの最強魔法師  作者: 紙切虫
六夜スロウス
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第八話《六夜スロウスⅧ》

「……すまん」


九々津は珍しく、本気で謝った。

フェリーは大破こそしなかったが、ボロボロになってしまった。

乗っていた天狗とそのパートナーと咲希と火賊徒、そして刹那岬はもう怒るを通り越して呆れていた。まさか激突させるほど勢いを付けるとは。馬鹿なのだろうか。


「……ぐー」


「寝るなっ! 先輩のド馬鹿!」


「いてっ!」


立ったまま寝ていた。訂正しよう。馬鹿確定だった。

アレルシャ孤島。主に獣、昆虫系統の魔獣が生息している孤島。

演習では、ベヘモットと呼ばれる深い緑色をしたサイのような魔獣の討伐がクリアー条件である。

勿論、続行不能ならば帰ってそれを申告しても構わない。


「……さて、と。とりあえず別れて探そう。チームは事前に決めてあるし、東西南北で別れよう」


地図を広げ、九々津は少し考えて、バラける場所を決めた。


「よし、俺は北を探そう。陽見池は南、天狗は東を頼む。あと…………なんだっけ、名前?」


「千堂だっ!」


「ああ、そうそう閃堂だった。なら、西を探してくれ」


「おい待て! お前ワザとだろ! しかもなんでカッコ良くなってんだ!?」


「さて、行くか」


千堂のツッコミを華麗にスルー。

九々津は欠伸をして、北へと向かう。


ーーーーー


「ひっ!」


「おいおい、ただの蜘蛛だ。魔獣ですら無いのになんでビビってんだよ」


「む、虫は嫌いなんです!」


「ん……? 蜘蛛は虫じゃねーぞ」


「屁理屈ですよっ!」


何をそんなに怒るのだろうか、刹那岬は頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。

そういえば、咲希も虫や蜘蛛が苦手だったことを思い出し、女とは苦手が多いな、と思う。


「なんでこんなもんにビビるのかねぇ……っと、隠れろ」


斧を持つ獣人 《バーサーカー》が見えたので木陰に隠れる。

数は三体ほどだが、無理に戦う必要性は無い。隠れてやり過ごそうと、気配を殺す。

しかし、ふと思い返す。


「……この島、バーサーカーなんていたか?」


バーサーカーが生息しているのはフェーザス遺跡周辺や、ドラドレム孤島、ヴァイジャス渓谷などの地方にすむ。

しかし、アレルシャ孤島に生息はしていなかったハズだ。


「……あの異常な数のドラゴニュートといい、なんかおかしいな」


バーサーカーは踊りながら通り過ぎていく。

九々津と刹那岬が安心するとーー。


ピリリリリ! ピリリリリ!


九々津の携帯が、鳴った。

発信者は天狗。

けたたましい音がなり、バーサーカーに気づかれてしまった。

九々津は、天狗をあとで殴ることを誓い、木陰から飛び出す。

刹那岬もそれと同時に、九々津と反対方向に飛び出している。


「ウロソ! ウロソ!」


わけのわからない言葉を叫び、バーサーカーも斧を構えて九々津に斬りかかる。

九々津はそれを弾き、バーサーカーの懐へと潜り込む。


「【花火】ッ!」


「ヴァギガラッ!?」


バーサーカーの獣の顔面を掴み、ゼロ距離で【花火】を起動。

顔面は爆発し、肉片と目玉、脳漿が飛び散る。

ぐらり、と斧を振り切った態勢のままバーサーカーは倒れる。

もう一体も九々津へと向かってくる。

もはや言葉では表せない奇声を発し、滅茶苦茶に斧を振り回している。

九々津はちっ、と小さく舌打ちをすると、ダンッ、と大きく音を立てて足を踏み鳴らした。


「【打ち上げ花火】ッ!」


カッ、と一瞬だけバーサーカーの足元が紅く煌めく。

そして、そこから火柱が立ち、バーサーカーを爆炎が飲み込む。

キィキィと悲鳴をあげ、炭化したバーサーカーの死骸を無視して残る一匹の行方を探す。

と、それは刹那岬と交戦していたらしいが、腹部に【ボルト】を食らって焼け焦げていた。


「流石に先輩には負けますね。てか、そんな魔法も使えたんですか」


「ん? ああ、【打ち上げ花火】のことか。まあ、ありゃ威力が無いから嫌いなんだけどな。それに、せいぜい不意打ちにしか使えないしね」


そうですか、と刹那岬。

九々津は携帯を開き、先ほど掛けて来た天狗に掛け直した。


『九々津か? どうしたんだ、急に切ったりして』


「お前いっぺん死んでこい」


『なんで俺、罵倒されてるの!?』


「それが嫌なら俺が顔面、爆発させてやるから」


『死刑宣告ッ!?』


「遠慮すんなって。大丈夫、痛いから」


『駄目じゃん! 助けてよ刹那岬ちゃん!』


「駄目ですよ、先輩。拷問してからじゃないと」


『悪化ァァァーーーーッ!』


どうやら刹那岬も怒っているらしい。刹那岬はキッと九々津も睨む。


「というか、先輩にも非はありますよ? なんでマナーモードにしとかないんです」


「めんどくせぇし」


「横のスイッチ一つですよね!?」


くぁぁ、と欠伸をする九々津。もはや刹那岬の言葉など聞いていないらしい。


「つーか天狗。殴るのは確定として、なんの用事だ?」


『殴るのは確定なのか……。それがな、ちょっと妙なんだ』


天狗の喋り方が、一転して真剣なそれになる。

九々津も真面目な顔付きになり、話を聞く。


「妙ってのは、どういうことだ」


『東の森が、無くなってんだ』


「……………………は?」


予想しなかった答え。

天狗もバーサーカー同様に、生息しないはずの魔獣を見つけたのかと思っていたため、驚きは大きい。さらに、意味がわからない。


『正確に言うと、食い尽くされてるんだ』


「……んな馬鹿な。どんだけアレルシャの森がデカいと思ってんだよ。台風とかじゃねーの?」


『俺も最初はそう思ったけど、多分違う。そんな大きな台風、最近無かったろ? それに、踏み潰された魔獣の姿も幾つもある』


「…………そうか。俺たちの方も妙と言えば妙なんだ。実はさっきーー」


「せ……先輩!」


刹那岬の声。

携帯を耳から話すと、バシン、ズシンという地響きが聞こえる。

というか、地面も揺れている。

バキバキという音も聞こえるあたり、何かを折りながら進んできているようだ。

森の中で、こんな凄まじい音を立てて折れるものなど一つしか無い。


ーー木だ。


「…………マジか」


森の木を蹂躙し、現れたのは。


「……ベヘモット、デカ過ぎだろ………………」


通常の十倍近い巨体の、ベヘモットだった。

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