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Eleven geniuses  作者: 雪氷
第三話 ~赤い涙〜
21/32

解散の合図を受け、帰宅の準備をする。

有り難い事にこの学園はあらゆる点で僕の味方だ。

僕が星科を蹴落とし退学に追い込んだとしても誰も僕を咎めないだろう。それがこの学園で生き残る為のルールなのだから。

改めて素晴らしい程の競争社会だと感心する。

込み上げる笑いを堪え平然を装いながら鞄を肩に掛け席を立った。

すると眼前に人の影が。教師か? そう思い顔を上げるとそこには――


「栄幸君、一緒に帰らない?」


――笑顔の星科が。

……こいつの所為で先程までの良い気分が台無しだ。

舌打ちをしたくなる程の苛つきが込み上げる。


「……教師の話を聞いていなかったのか? 僕は君などと話をする暇があるのなら、その時間を勉強に充てたいのだけれど」


僕は星科の顔も見ずに、ぶっきらぼうに言い放つ。

最初から近寄りすぎると逆に怪しまれるし、それに今日はもうこいつとは関わりたくなかったからだ。


「そっか、うん、分かった。じゃあまた明日」

「……」


意外とあっさりと引き下がった星科に若干の驚きを覚えつつも、無言で横を通り過ぎる。

通りすがりに、


「……話はちゃんと聞いてたよ。でも、僕は人と関わることを止めるつもりはない」


そう言った奴の表情を見る事はしなかったので、どのような表情をしていたのかは分からなかったし、それ以前に興味もなかった。

……だが、何故だろうか。

何処か、心に引っ掛かるものがあるような気がした。


……


「……これにて学力検査は終了だ。結果は一週間後、生徒玄関ホールの液晶にクラス分配表と共に表示する。各自解散」


教師が教室を出て行くと同時に僅かに騒がしくなる教室内。

と言っても、星科の周辺だけの話だが。


「ゆっきー、どうだった?」「良い出来かなー!」「本当に? 流石だなあ。やっぱりさ、今までの試験とはレベルが違うよね」「そうだね。でも僕は好きだよ、やりごたえあって」「ええっ!?」


言葉を発しているのはそいつらだけの為、自然とそんな会話が耳に入る。

……こいつらに対しては本当に嫌悪しか抱かないな。

まあ、そんな事はどうでもいい。とにかく、星科の目に止まらないうちに帰ってしまおう。

そう考え急いで荷物を詰め、教室を出る。

会話は未だ途切れず聞こえていた。どうやら気付かれずに済んだらしい。

ふうと溜め息を吐いて急ぎ足で生徒玄関へと向かう。


帰路につきながら僕は思考を巡らせていた。


……この一週間でどれだけ星科に対する分析が進められるかが勝負だ。

陰で僕を蹴落とそうとしている害虫ならば、年内に確実に駆除してやる。

その為には星科の性格、頭脳、特に奴が何を重要視して行動を起こしているかを詳しく知る必要があるな。

何故なら行動原理は最大の弱点となるからだ。それを利用して行動を起こさせる事も出来れば、徹底的に叩いて逆の事も出来る。

分析結果に応じて新たな作戦を練ろう。

……まあ、あれはただの気まぐれでこれ以上害を及ぼさないようであれば、僕から離れて行けばいいだけの事。

ただ、どちらにしろ勝利を手にするのはこの僕だ。

どう足掻こうと星科は敗北。それが決定事項。


……さあ、行動開始だ。


……


……結果発表当日の朝。

雨が降り出しそうな曇り空の下、僕は普段通り通学路を歩く。

学力検査では僕がトップであると確信している為、緊張も特にしていない。本当に普段通りの朝だった。


「あ、栄幸君、おはよう」


背後から声を掛けられる。

……星科の声だ。思わず眉間に寄った皺を、指で伸ばしそれから振り向いて「おはよう」と挨拶を返す。


「……とうとう今日だね、結果発表」


僕と肩を並べ、星科は言った。


「緊張する程の事でもないだろう? 僕にとっても、志慈にとっても」

「あはは、まあね。多分……っていうか絶対、僕達同じSクラスになるだろうから、これからもよろしく」

「……ああ、こちらこそ」


返答をし、沈黙が訪れる。

……この一週間で得た情報から分析した星科の性格は、困っている人間を放っておけないお人好しの善人。

それは教室内での行動を見ていれば明らかだった。

周りが言い出さずともそれを察知して、自ら積極的に手助けをする。

それが人から疎まれていようとも気にしない、自分の行動が正しいと思い込んでいるからだ。

また、一つの事柄に固執し、それが成し遂げられるか認められるまで決して諦めないタイプでもある事が分かった。

悪く言えば、執着心が強く諦めが悪い意固地なタイプ、という事になるか。

それもまた、自分が正しいと思い込んでいる事による性質だろう。

そして作戦を練る上で最も重要な、奴の行動原理は”友達”だと判明した。

奴は事ある毎に「友達でしょ」「友達だから」と口にし、それを理由に行動している事が多い。

例えば、一週間前の昼食時の行動がそうだ。

それは親しいというアピールがしたいというだけではなく人の役に立ち、また、仲良くしたいという心理状況によるものだろう。

……友達などという言葉を使いたがる奴程扱いが容易なものはない。とことん利用してやる。

だが、この一週間、星科は特に害のある行動をしていない、という事実があった。

僕に話し掛けてくる事はあるが、それはどれも短く他愛のないものだったし、頻度も低い。

入学初日のような発言は一切なく、僕にしつこく付きまとってくるような真似もしていない。

これからも、このままであれば一喝して遠ざけるだけで良いのだが。

少しだけそれを望んでいる自分がいた。

……必要以上に傷つける事もないだろうから。


気付くと、いつの間にか校門を潜り抜けていた。

生徒玄関前には既に多くの生徒。異様なまでの緊迫した空気に包まれている。


「おっ、皆もう集まってるね。僕達も行こっか」

「そうだね」


その人混みに揉まれながら校内に入り、液晶へと近付く。

見るのはトップだけで十分だろう。しかし、もう少し近寄らないと見えないな。

騒がしい数多の声に顔をしかめつつ、人を押し退け一歩一歩と着実に歩みを進める。


「な、何で、俺がDクラスなんだよ!? ありえないだろ!!」

「う、うそ、わたし、なん、なんでよおおおおお!!」

「次は、何としても、上に行かなきゃ、何としても、何としても……」


退学を言い渡されたのと同等のDクラスに入れられた者の、そのような多くの嘆きが耳に入った。

自分の実力不足を棚上げにしている馬鹿ばかりか。自業自得だろうに、何を嘆いているのだ。

まあこいつらの事などどうでもいい、早く結果を確認して教室へ向かうとしよう。

僕は、ようやく液晶の前に到達し、それを見上げた。

思わず、目を見開く。


「……やった! 栄幸君、やったよ、僕!!」

「――ッ」


――隣から、聞こえる誰かの声。

どさり。

僕の手から鞄が滑り落ちる。

忽ち眩む視界。

激しい動悸と、耳鳴り。

時間が止まったような錯覚。

――嘘だ。これは、何かの間違いだ。そうだ、そうに違いない。

目の前の現実から目を背けるように、心の中で何度も何度も繰り返す。

間違いだ。

こんなのは、間違いだ、と。

何度も、何度も、何度も。


「僕、一位だ!!」


その声によって現実に引き戻される。

声の主は星科だった。

僕の隣で、嬉しそうに液晶を指差している。

――信じられない、信じたくない!

あり得ない、嘘だ!! 星科のような人間に僕が負けるなんて!!

これは事実ではない、事実であってはならない。

現実を疑った。

しかし、そこには”1位 星科志慈 999/1000 S  2位 津河井栄幸 997/1000 S”の文字列。

何度、目を擦っても間違いなど無かった。

これが事実。僕が二位。二点もの点差を付けられて、僕が二位。

認めざるを得ない状況に目眩を覚える。

屈辱。

僕が、二位。

嘘だ。

嘘だ。

嘘だ。

隣では星科が満面の笑みを浮かべながら腕輪型端末で写真を撮影していた。

その姿がひどく憎たらしく、僕は奴の顔を睨み付ける。

結果に夢中になっているそいつは、当然の如く気付かない。


――僕の居場所が奪われた。

僕が、唯一存在する事が許される場所を、こんな奴に、奪われてしまった。

このまま放っておけば、この先、僕の未来はない。

……危うく騙される所だった。

ぎりっ、と拳を握り締め覚悟を決める。


やはり、こいつは――


「……ふふ、帰ったら母さんと父さんに教えなきゃ。よし、じゃあ教室行こう、栄幸君!」


――害虫だ。


もうちょっとだけ続きます。

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