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Eleven geniuses  作者: 雪氷
第三話 ~赤い涙〜
20/32

お久し振りです申し訳ない……。

……


「昼、一緒に食べようよ」


星科が自分の弁当箱を持って僕の横の空いていた席に座る。

入学式やら施設案内やらの行事を終え、一息つこうとしたら、これだ。

鬱陶しい。鬱陶しくてたまらない。

苛立ちが募り、思わず表情に出しそうになってしまうのを堪える。

しかも、僕の”噂”を知っているであろう生徒達の中で堂々と声を掛けてくるとは……。

横目で教室の様子を窺うと、多くの生徒はこちらを見て怪訝な表情を浮かべていた。

当然の事だ。


「……嫌だね。昼食を共にする事で僕に何らかの利益をもたらすのかい? 違うだろう?」


周囲に聞こえるよう、大きめの声で一言告げる。

星科は少しだけ悲しげな表情をした。


こいつはこの程度の言葉だけで諦めるような奴ではない、というのを見越してわざと一歩離れる。

すると、こいつは躍起になって逆に近付いてくる、それを狙うのが現段階での僕の作戦だ。

そうする事で近付いてきた奴の内面を自ら暴かせ、弱みを見つけ徹底的に叩く。

……付け焼き刃の作戦だが、今はまだ仕方がない。


「まあまあ、そんな風に言わないでさ。友達は一緒にご飯食べるものでしょ?」


星科はそう言うと僕の許可を待たずに弁当箱を広げ始めた。

……”友達”、か。馬鹿らしい。それにしても何て勝手な奴なんだ。

零れそうになった溜め息を飲み込み、無言の肯定を表す。


「あ、そうそう、昨日のテレビ番組でこんな事やってたんだけど……」


聞くに値しない話をべらべらと話し始めた星科に、適当に相槌を打って対応する。

僕が他人と共に会話をしているなど、端から見れば奇妙な光景だろう。教室内にいる生徒達は奇怪なものを見るような目で僕を見ているに違いない。


「ゆっきー!」


誰かのその声に反応して星科が箸を止め、顔を上げた。

つられて僕も顔を上げ、その声の主を探す。

教室の入り口に数人の生徒が固まっており、こちらに手を振っていた。正しく言えば、星科に。


「あ、ごめん、呼ばれたから行ってくるね。また帰りに!」


星科は慌てて弁当箱を片付け、僕に笑いかけると立ち去った。


「……はあ」


大きく溜め息を吐く。

やっと落ち着く事が出来るという安堵からのものだ。

休憩時間は残り五分。随分と時間を無駄にしてしまった。


「……さてと、仕事に取りかかるとしようか」


そう呟き、袖を捲り、左腕にしている腕輪型端末を操作する。

側面に親指を押し当て、端末の指紋認証ロックを解除。そして起動と同時に一ミリ程度の小さなレンズからホログラムが空中に投影される。

そこに映し出されているのはある事件の概要と被害者の遺体の写真。

遺体は首から上が酷く切り刻まれており、原型をとどめていない。血に塗れて覗く歯が、この物体が顔であった唯一の証明となっている。

いつも通りの惨状に、よくこのような事をする暇があるな、と感心した。

因みに、これは他人からは見えないように設定している為、情報はしっかりと守られるし、生徒がこれを目にして騒ぎ立てるような事はない。


僕は学生でありながらも犯罪プロファイラーとしての仕事を請け負っている。

その為少しでも時間があれば事件の情報を分析する必要があるのだ。いち早く事件を解決する為にも。

僕は中学二年生の時にオファーを受けた。

以来プロファイリングを数多こなし、事件解決に尽力してきた。

そしてその中で実力が認められ、もうじきその責任者となる事が決定している。

また、僕はこの学園で首席という立場を得る為に勉強をし続けなければならない。

従って、このような僅かな時間も無駄に出来ないのだ。


集中し思考を巡らせていると、ジリリリリ、ジリリリリと休憩時間を終える合図であるチャイムが鳴り響いた。


「全員廊下に並べ。列を乱すな」


教師が指示を仰ぐ。

次の時間は学年総会だ。

入学式では説明されなかった、学園の方針が説明されるらしい。

それがどのような内容なのかは大体想像がつく。

僕は席を立つと端末の電源を落とし、捲っていた袖を下ろした。

そして教師に従って列となり、廊下に並ぶ。

周囲を見回すと、気楽な表情をした生徒達が気怠そうに立っていた。

その様子を見て、こいつらはこの学園の事を理解せずに入学したのか、と呆れる。


ホールに到着し、現在のクラス毎に列を作り、静かに待機をする。

それから一分程経っただろうか、ステージ上に学園長が登壇しマイクの前に立った。


「諸君。この学園に入学したという事は各々それ程の頭脳を持っているという事だろう。しかし、それを鼻にかけ、慢心してもらっては困るな。

この学園では”優秀な者はより優秀に”をモットーとしている。現状維持や堕落は必要ない。もしもそのような者がいるならば、即刻退学して貰う事になる」


その言葉に、周囲の生徒達はざわめく。

当然だな、と学園長の言葉に同意し、ぐいと眼鏡を押し上げ次の言葉を待つ。


「――静粛にしろ!!」

「――!」


――キィン、とマイクがハウリングする程の怒号に生徒はびくりと身体を震わせると、口を閉じた。


「君達は未だ中学生気分から抜け出していないようだ。君達がこの学園に来た理由はなんだ? 勉学に励む為だ! 違うか? 違わないだろう! その為に友と話を交わしている暇など無い! いや、”友”などというくだらないものを作っている暇など無いのだ!! 従って、友だの恋人だの思い出だのという馬鹿げた事にうつつを抜かす事は許さない! 良いか、諸君、周囲にいる人間は全て敵だと思え!! お互いがお互いを蹴落とそうと躍起になっている人間だと!! その覚悟が出来、他人を踏み台にした強者のみが日本一優秀な高等学校であるこの学園の頂点に立つ資格を得る事が出来るのだ!! 頂点に立ちたければ、人情など無駄なものは全て切り捨てろ!! 全て蹴落とせ!! ……私からは以上だ」


ホール内にいる全生徒の視線を集めたまま、学園長は降壇する。

学園長が降壇し終わった後も、ホールは凍り付いたように静まり返っていた。


「列を乱さず教室に戻れ。私語は厳禁だ」


教師のその指示によって固まった生徒達が動き出す。目に入ったその表情はどれも陰鬱としたものだった。


……


教室に戻り全員が各々の席に着く。

誰かが深い溜め息を吐いたのが聞こえると、それにつられて幾つもの溜め息が続いた。

耳障りだ。不快極まりない。この学園に入学すると決心したからにはそれ程の覚悟を持っている筈なのに、この程度の事で動揺するとは。

……やはり甘ったれた馬鹿ばかりだな。

そう嘲り、鼻で笑う。

教室の扉がシュッと音を立て自動的に開かれた。その向こうから一名の教師が現れる。

その教師はアルミ製の教卓の前に立つと険しい表情で教室を見回した。

僕は静かに教師の言葉を待つ。


「早速だが、明日学力検査のテストがある事は入学書類に書いていた通りなので、皆存じ上げているだろうと思う。だが、この先言う事はそこには書かれていなかった内容だ。心して聞くように」


教師はそう言うと、大きく咳払いをした。


「今回のテストの結果で、学力に応じてクラスを分配する。これは、この学園の伝統としての決定事項だ」


動揺を表してか、周囲から机、椅子の軋む音が教室を埋める。

……ふうん、成る程。学力別に指導する事で”優秀な者はより優秀に”という目的を果たす訳だ。

正に僕にとって相応しい環境だな。


「クラス構成は学力の上から順に、Sクラス、Aクラス、Bクラス、Cクラス、Dクラスとなっている。Dクラスなどになった者は恥曝しもいい所だ。

もしDクラスになってしまった場合、次回のテストの結果でCクラス以上に属する事が出来なければ問答無用で退学となる」


その言葉を聞き、思わず口角が上がる。

この制度があるならば、星科を退学に追い込むのも容易かもしれない。

つくづくこの学園に入学して良かったと思う。


「た、退学って……! も、もし退学させられたら、僕達はその後どうなるんですか!?」


隣の席の生徒が突然立ち上がり、問うた。


「落ちこぼれの屑がどうなろうと私達の知った事ではない」


それに対し、教師は無表情のまま答える。

生徒は崩れ落ちるように椅子に座り込み、呆然とした表情を浮かべていた。


「此処では、他人を蹴落とさなければ己の人生は破滅を迎える、その事をしっかりと心に留めておけ。何度も言うが、いつまでも中学生の気分で居る事は許さない。いいな」


教師から与えられた一つ一つの言葉が、教室全体の雰囲気を冷たいものへと変えていく。


「今日はこれにて終了だ。解散」


そう言って立ち去る教師。教師が立ち去った後も誰一人として、言葉を交わす者はいなかった。


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