38.散った命と行方
ルーファスら明けの明星が、ラウザントたちが迷企羅のアミュタユスに応戦していた地点にたどり着いた時。
既に戦いは終わっていた。
そこに立っているのは刃が半ばから折れた剣と真っ赤な刀を握る青年ただ一人だった。
辺りにはいくらかの肉塊が散らばっている。
「君は、ルートレイ側か?」
「……ええ」
「それは、まさか迷企羅のアミュタユスか?聞き及んだ外見と酷似しているが」
青年は足元に散乱する異形の肉塊に視線を落とし、暫し思案に耽った。
「……そうです。これは迷企羅のアミュタユスだったものです」
「ありえないわ!魔王軍の幹部級を相手どれる人間がここらにいるなんて」
「そうも思ったが、あれは、そういうことなんだろう」
ルーファスは目の前の青年が握る真っ赤な刀に目をやる。
それは彼の最大の友にして研鑽相手であったラウザントの恐るべき武具。この青年がルートレイの人間で、あの魔刀を持っているということは、ラウザントは既に——。
「手伝ってくれませんか?」
「何をだ?」
「彼らの、ラウザントとランギュムントの亡骸を弔ってやるのを」
乾いた血が、彼の表情を固めていた。
暫くして、一箇所地面が盛り上がり、そこに刃の鈍くなった刀が墓標代わりに突き刺さっていた。
「あなたたちがキュリアスでも有数の冒険者パーティーですよね?」
「いかにも。といっても、友の死に際にすら間に合わないのでは名折れもいいところだがな」
「アミュタユスを倒したのはあなたたちということにできませんか?」
「君は、魔王軍の幹部級を討伐しておきながらその栄誉を見知らぬ人間に譲るつもりか?どういうつもりだ?」
ルーファスはやや憤った様子を見せた。だが、ラインの考えに変わるところはなかった。
「僕はただのラインです。魔王軍との戦争には役に立ちませんよ」
「本当にそれでいいのか?」
「ルーファス!?」
ケースはさすがに見過ごせないとルーファスを睨む。
「これが屈辱的なことだというのは理解しているし、これで間に合わなかったことがチャラになるとも思っていない。だから、そう、これは貸しだ」
「ありがとう」
「礼はいらない。むしろこちらが言うべきだ。ラウザントとランギュムントは最期に何か言っていたか?」
死に際の言葉を、ラインはルーファスたちに一言一句違わず伝えた。
「……そうか。ならばライン、お前がルートレイを守れよ」
「もちろん」
「ならばこれ以上言うことはないだろう。バンス、ケース、行こうか」
「三文芝居をすりゃいいわけだな?」
「お前はどうせ馬鹿だから何もしなければそれでいい」
ガミガミと互いに何かを言い合いながら、ラインから明けの明星は離れていく。
気がつけば日はのぼり始めていた。
「…………ぅ、うおおおぉぉぉぉぉぁああああ!」
太陽に向かって、ラインは燃えるように赤い刀を片手に吼える。
悔恨を吐き出すように吼え続けていた。
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ラインは血に汚れたまま自宅の床に大の字になって転がっていた。
外では宴が開かれ、迷企羅のアミュタユスの討伐を祝い、ルートレイの柱の一本でもあったラウザント、そしてランギュムントの死を悼んでいた。
とても、そこに入って騒げるような精神状態ではなかった。
一人にはなりたくないが、一人になりたい気分だ。
外の喧騒を聞きながら天井をずっと眺めていると、家のドアが数度ノックされ、がチャリと開いて足音が近づいてきた。
「ラインさん!無事ですか!?」
僕の視界に飛び込んできたのは、淡い金色の長髪と大きな青い瞳の少女、アイリス。彼女は走ってきたのか、肩で息をしていた。
「良かった!」
そう言うとアイリスはいきなり僕に覆いかぶさって抱きついてきた。
「え、ちょ、あ、アイリスさん?」
「本当に良かった……。私、とっても、とっても心配しました」
「あ、アイリス、わかった、わかったから」
先程までぐちゃぐちゃ考えていたことが、アイリスの行動一つで全て吹き飛んでしまった。そんな自分に少し自己嫌悪した。
「それに、良くなんてないさ。ラウザントとランギュムントは死んだ」
「それは、もちろんとても残念で悲しいことです……。お二人ともルートレイのために。でも、人は戦わずとも寿命でそう遠くないうちに亡くなります。亡くなった人を思って気分を沈めて前に進まないことを、彼らは望まないでしょう。というのも結局勝手な想像ですけれど」
彼女も多くそうした場面に出くわし、乗り越えてきたのだろうか。そう思わせるだけの説得力が彼女にはあった。
「だから、ラインさんが無事で良かったです」
「……ありがとう、アイリス」
僕はアイリスごと起き上がり、彼女の背に手を回して抱擁した。
彼女の温もりと、拍動を手から感じる。てっきり余裕綽々かと思いきや、それなりに緊張しているようだ。あるいは走ってきたせいだろうか。
気持ちはなんと現金なのだろうか。先程まであれほど心を蝕んでいた感情が上塗りされているのを感じる。
でも、きっと、それは間違ってはいない。正しくはないのかもしれないけれど、誰もが後ろを見つめ続ける世界に希望はないだろう。
「アイリス、前に話していたいつか話すといったこと、話すよ」
「はい」
「ぼ、僕は、僕の本当の名前なラインハルト・リューネル。だめな勇者のラインハルトなんだ」
僕の声はおそらく情けなく震えていた。
アイリスは何も言わなかった。その沈黙が心地よかった。
「ありがとうございます、ラインさん。ルートレイを守ってくれて。無事に戻ってきてくれて」
「でも、ラウザントとランギュムントは……」
「どんな英雄でも、すべてを守れはしません。人はどんなに守られていても、老いて死にます」
「二人は老衰したわけではないよ」
「同じようなことです!それに、お二人なら、ラインさんにそんなに心配されても困りそうでしょう!」
彼女だってあの二人の死を悲しんでいる。
ただ僕を励ましてくれている。
「……たしかに、あの二人ならそうかもしれない」
「きっとそうです。それに、彼らは戦士です。自分の命の責任は彼ら自身が放さないでしょう」
さあ、とアイリスは僕の手を引いて起き上がる。
「行きましょう!みんなラインさんが来るのも待ってるんですから!」
手を引かれるまま、僕は外の喧騒の中に溶けて行った。
地味に片付いていない伏線等々ありますが、一旦こちらで完結とさせていただきます。
俺たちの戦いはこれからだエンドみたいですが、これ以降特に何も考えていないのでご容赦を。(そもそもこの話してい自体プロットも何も無く思いつきでパラパラ書いていたので笑)
何かの間違えでポイントが急激に増えたり、よほど気分が上がれば続きも書くとは思います。たぶん。
途中3、4年更新が止まったりもしていましたが、それでも思ったより読んでもらえたのは感謝です。
ではまた気が向いたら新作か続きで。
匆々不乙




