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22.救済の灯火


「悪魔を払い、迷い人を照らせ。指先に灯りしは救済。セントエルモスファイア――ヘレナ!」


 白く煌々と輝く光の玉のようなものがクラッター・ボアに触れた。


 瞬間、玉が破裂して白い炎が猪の体をまたたく間に包み込んだ。


 クラッター・ボアは炎を消すために地面に体を死に物狂いで擦り付けるが、火力は増すばかり。


 断末魔は尻すぼみになり、炭化した骨を残してクラッター・ボアは死に去った。


「大丈夫!?」


「お、お姉ちゃ〜ん」


「怖かったよぉ」


 魔術を放ち、窮地を救ったのは子どもたちが姉と慕うアイリスだった。


「アイリスちゃん! 助かった……」


 ミライエは安堵でへたりこみ、感涙した。


 泣きじゃくる二人の少年の頭を撫で、よしよしと落ち着かせていると、複数の気配が近づいてくる。


 新手かと身構えたミライエだが、魔獣ではなかった。


「こっちに魔獣が来たりしてないか――っておお!?」


 バスラとコセートが広場に走ってやって来る。


 怯える子どもたちとほっとした様子のミライエ、二人を慰めるアイリス。そして転がる骨。


「ここに魔獣が来てたのか?」


「ええ、危ないところだった……!」


「これを見るだにアイリスちゃんが助けてくれたのか」


「それにしてもよくアイリスちゃんはここにいたわね」


「嫌な予感がしたので」


「そう、ありがとうね」


 コセートがナムタとケトムスごとアイリスを抱いた。


「ほらあんた、さっさと伝えに行きなさいな」


「あ、ああ、そうだな」


 完全に尻に敷かれていた。


 バスラは魔獣の捜索で散った皆を集めに戻った。


「初回に四体……今までで一番多いわね」


 不穏が奔る。





 アイリスが魔獣を撃退し、子どもたちの窮地を救ったという話はすぐに伝わった。


 これでミュクスが気配を感じた四体の魔獣はすべて対処したことになった。他にもいるんじゃないか、とも思ったが、獣人は敵意や悪意といったものをわりと広範囲にわたってキャッチできるらしく、ミアやミウもできるそうで。双子も漏れはないと言っていたのでもういないのだろう。


 獣人というからには野性味溢れた生態なのかと考えていたがわ全然そんなことはない。彼らは非常に繊細で、自らの危機に敏感だ。


 とはいえその性質を獣人とひとくくりにすべきではない、とミュクスに補足された。


 獣人と一口に言っても種族でかなり細分化でき、その総数は百はくだらないという。


 たとえば獣人の英雄、金獅種のアビリャンタなんかは臆病の二文字が辞書にないような豪傑で、奴隷解放戦争の最終局面では三千五百もの武装した兵を前にたった一人で増援が来るまで二十分間足止めをし、増援が到着した後も最前線で戦い続けたという。


「生肉を好む種族はわりと好戦的だな。早死にするが」


 と懐古するようにミュクスが言っていたのが印象的だ。


 まあそれよりも驚いたのはアイリスのことだ。


 魔術結構得意なんだなぁ、くらいに思っていたがとんでもない。


 魔獣は魔力耐性が高く、簡易魔術ごときでは軽傷も負わされらない。そんな魔獣を骨だけ残して焼死させるとなったらいかに高い魔力量を有しているのかがうかがい知れる。

また魔術師系統のスキルを持っているのはまず間違いない。あるいは魔獣、魔族に特効を持つ聖法使いの可能性も捨て切れない。


 だがもしかしたらそれこそが彼女の秘密なのかもしれない。下手に掘り下げようとするのはいかがなものか。


 いや、ここは子どもたちに危害がなかったことを喜ぶべきだろう。


 だが大人たちは誰もが浮かない顔をしていた。


 広場に続々と人が集まり、最後に町長とラウザントが神妙な顔をして現れた。




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