22.信じること
「——なんで!犠牲者は私たちだけにしようって言ったばかりなのに!」
その頃、小百合とその創造主は言い合いをしていた。
「犠牲者は私たちだけで済む。全員が同じ意見になりさえすればね。全員で楽器を壊して、貴方を殺せば、はい、おしまい。どう?」
小百合はあっけらかんとして言う。
創造主は、唇を噛みしめる。
「……やっぱり嫌。そんなこと、できない。それに、中野小百合、あんたを倒さない限り、学校戦争は続くでしょう?戦いが好きな中野小百合なら……他のことを火種にしてまた戦争を起こすだろうね。
——ねえ、中野小百合。教えてよ。なんで音楽を嫌うんだい?特に吹奏楽を」
小百合は小馬鹿にしたように笑った。
「そんなの、あんたなら分かり切ってるでしょ。今更答える意味なんて——」
「私が決めた以外にも理由はあるでしょう?私が決めた『音楽のような癒しとなるものは戦いにはいらないから』という理由以外の、理由が……」
「……」
図星だったのか、小百合が俯き、黙り込む。
「私が……憎いんでしょ」
「!」
小百合が弾かれたかのように顔をあげる。
「……そうでしょ?」
「……」
小百合は何も言わない。
「もしそうなら、憎むのは私だけにして。他の関係ない人たちまで……巻き込まないで……!」
「……」
小百合はただ、創造主を、憎い相手を睨みつけるだけだ。
「私は……もう見たくないの。みんなが戦うところを……大切な人が敵に回っているところを……そして、ここの惨状を……!」
「……そのために私を殺す、と言うの?」
「……そう。中野小百合と、私を。
……結局、解決法はシナリオ通りにするしかないの。そうしなければ……本当の意味でこの戦争が終わることはない」
創造主はきっと小百合を睨んだ。
「呪いはかけさせない。絶対に」
「消せると思うの?」
小百合は嘲笑う。
「消せる。消してみせる」
創造主は、確信に満ちた声で言い放った。
「——伏せて!」
音楽室で、文香は叫んでいた。
「伏せて!危ない!」
全員が伏せた瞬間、空間にほとばしる、光。
それは眩しすぎて、全員が反射的に目を閉じた。
ただ、動きを封じられている2人、佳苗と大翔は光を直視してしまい、目の前が真っ白になった。
2人はその光になにかを削ぎ落とされているような、そんな感覚に陥った。
しばらくして、鈴が目を開けると光は消えていた。いや、光だけではない。
「——霧が、消えてる!」
その言葉を聞いた皆が目を開け、起き上がった。
「本当だ!」
「あの霧が……呪いの霧が、消えた!」
佳苗と大翔もようやく視力を取り戻した。
2人から黒い霧が抜けて、消える。
2人を縛っていたガムテープは、忽然と消えていた。
小百合の前で、創造主が崩折れた。息が荒い。
「——そんなに体力使っちゃって。それで呪いが消えるかどうかも分からないのに」
創造主は荒く息をつく。
「本当に良かったの?その異能を使って」
揺さぶりをかけるように小百合は言う。
「大丈夫。だって——」
創造主は笑った。
「私は信じてるから。きっと……きっと皆の中にまだ、光が残っていると」




