21.黒霧
「——さくら先輩!」
1・2年生は見た。
さくらから黒い霧が出てきて、消え失せたのを。
「こんな言い方もあれですけど……正気に戻りましたか?」
「——うん。戻ったよ。心配かけたみたいだね、ごめん。もう大丈夫だよ」
その頃小百合は、創造主と戦いながら、会話を交わしていた。
「——そろそろ、みんな正気に戻るころなのかね」
「そうかもね。でもまだ全員じゃないんじゃない」
小百合はにやりと笑う。
「ふふ、私もシナリオとは違うことをしようかな」
「……何をする気なの」
創造主は身体を硬くした。
小百合は言い放った。
「——もう一度、呪いをかけ直すんだよ。
今度はあの4人だけじゃない。1・2年生にもね」
その時、音楽室では小百合の言葉通りのことが起こっていた。
「——なにあれ!」
亜子が叫ぶ。
部屋の中に、黒い霧が充満し始めていたのだ。
さっき、ありさやさくらから出て行って消えたそれよりも濃く、量が多い。
黒い霧はまず、まだ呪いが解けていない2人に吸い込まれるようにして、消えた。それは2人にかかった呪いが、強化されたことを意味していた。
その証拠に、2人はその瞬間、言葉が急に攻撃的なものになったのだ。
そして、その黒い霧は呪いのとけた2人や1・2年生へと向かってきた。その中でも最初の狙いは、呪いのとけた2人、しかもまだ縛られていて動けないさくらだ。
「——だめ!」
彩が叫んで結界を張り、さくらを1・2年生の側に連れて行った。そして、さくらの拘束を解く。
「ありがとね、彩ちゃん」
さくらは彩に向かって笑いかけた。
しかしほっとしたのもつかの間。
その黒い霧は結界を通り抜けてきたのだ。
「——そんな!」
結界を再び張るが、結界を通る時に少し速度が遅くなるだけで、その黒い霧の動きを止めることはできなかった。
「——止まって!消えて!」
さくらが黒い霧に向かって手を振ると、霧は少しだけ消えた。
「私の異能は、異能の無効化……お願い、消えて!」
しかし、少しの霧しか消えない。さくらの異能があまり効かないようだった。
「どうして……」
「——多分、耐性があるんだよ!」
叫んだのはありさだ。
「よく考えてみて!異能をうちらに与えたのは中野自身……。なら、呪いの霧がさくらの異能で消えないのは当たり前だよ!さくらの異能で消えないように耐性をつけているはずだもの!」
「そんな!」
さくらが呆然とする。そんなさくらに黒い霧が迫ってくる。彩が頑張って結界を張るが、ゆっくりとでも、確実に霧は迫ってくる。
「さくら先輩なら、きっとできます!」
——波だった。
さくらの左手を、波が握り締める。
「——ありがとう、波ちゃん」
さくらは大きくうなづき、再び、波と手を繋いでいない、右手を振った。
すると、不思議なことが起こった。
さっきは少ししか消えなかった霧が、ほとんど消えたのだ!
「霧が、消えた——!」
一安心したが休む暇はない。霧は次々と湧いてくるのだ。再びさくらは霧を薙ぎ払う。彩はなんとかして霧の進行を遅めようと結界を張るが、きりがなかった。
その時だった。
「——伏せて!」
——文香の声だ。
「伏せて!危ない!」




