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Fighters  作者: 秋本そら
Conceal
20/33

20.裏表

「——裏切り者!」

 動きが封じられている3人が叫ぶ。

「ごめんね、3人とも。

 でも、うちは……うちはもう、何も壊したくない。

 楽器も、みんなとの思い出も」

 そう答えたのは、1年生本隊と2年生を連れて戻ってきた、ありさだった。


 今、音楽室には智子を除いた1・2年生が揃っていた。

 2年生は自分達の2個上の吹奏楽部員の一部が()()()()そこにいることに絶句していた。

 そして、あの3人はありさが自分たちにとっての敵に回っていることに気付き、憤っていたのだ。


「さくら、先輩……あんなに楽しそうに楽器を吹いて、いつもサックスが好きだって言っていたのに……どうして……」

 波がやっとの事で呟いた。さくらも波も同じ楽器、サックスを吹いていたのだ。

 波は、俯いている。

「うちが苦しくてもこの部活を辞めなかったのは、さくら先輩や遥先輩がいたから……いくら嫌なことや泣いてしまうようなことがあっても、励ましてくださったから、先輩方と過ごせて楽しかったから、演奏できて楽しかったから……なのに……」

 ぽた、と波は涙を零していた。

「どうして……」


(……波ちゃんに、敵意は見えない。どうして?)

 さくらは混乱していた。

(楽しかったこと……?)

 今のさくらは小百合の呪いのせいで、楽しかったことを上手く思い出せない。目上の人に怒られたことばかりを思い出す。波との思い出も、波を叱ったことしか思い出せなかった。

(……ああ、でも私が波ちゃんを叱った理由は……波ちゃんに上達して欲しいからだった)

 不意にさくらはそう気づく。

(先生方が叱ったのも……多分同じ理由だ。

 多分それで、私たちは県大会に進めて……)

 そう考えた時、さくらの記憶が弾けた。

(……そうだ……!県大会に進めた時、すごく嬉しかった。嬉しかったな)

(それに、合奏の時。先生は叱ってばかりじゃなかった。面白いことも言ってて、私たちを笑わせようとしてた。あれは本当に楽しかった)

(波ちゃんと練習するときも。いろんな話をしたなあ。上手くいかなくて泣いていた時は励ました。大丈夫、絶対できるよって)

(ああ、確かに楽しいこともたくさんあった)

(もう……壊したくない)


 さくらは1人、呟いた。

「苦しかったことがあったからこそ、楽しいことも嬉しいこともあった。苦しいことと楽しかったことは、裏表だった」

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