その51:生きていこう
短めですが、お楽しみいただければ幸いです。
「見つけた」
目が合った彼女は大きく開いた瞳に驚愕の色を浮かべ、酷く驚いた顔をしていた。
心が疲れて麻痺し、人を殺めることに慣れ、それでも失われない何かが浮かんだ印象的な瞳。
だが驚いたのは彼女だけではない。その瞳に映った俺の顔もまた同じ表情をしていた。
彼女は石台の上で正座の姿勢のまま四方八方から伸びた鎖で拘束されており、さながら悪魔召喚の儀式に捧げる生贄のようだ。
側には首斬り役人らしき人物が立っている。
「っ・・・!」
一瞬で頭に血がのぼり、宝物庫から一振の直剣を取り出す。
刀身から柄まで黒曜石を思わせる漆黒で統一されたシンプルな十字剣、特徴は『よく斬れて、決して壊れない』ただそれだけの剣だが、技術なく・・・されど力だけは持て余している今の自分にはお似合いの剣だと自嘲気味に笑う。
落下する瓦礫を踏み台に蹴りつけて加速し、一直線に急降下する。一瞬で処刑人との距離をゼロにし、勢いのままその胴体を両断。着地した地面を削りスライディングしながらも少し離れて停止すると、後には二本の溝が出来上がっていた。
「・・・チッ、くそっ」
着地の衝撃で恐らく両脚数か所が骨折している。内臓が傷ついたのか口から血がこぼれ落ちるが、それもすぐに完治した。
死にはしないが、いかんせん脆い・・・いづれ改善しなければならないと刹那の時の間で思考しながら、ペッ、と血を吐き出して口元を手の甲で雑に拭い、石台に飛び付くように駆ける。
鬼っ娘の体を拘束している鎖を起用に断ち切り、彼女を庇うように抱きしめる。魔法でドーム状に障壁を張り瓦礫の雨を防ぐが、衝撃や音は完全には遮断できない。
断続的に高質量の瓦礫が降り注ぐ衝撃が轟音と共に伝わってくる。永遠にも感じられた瓦礫の崩落劇は一瞬、土煙が晴れるまでさらに数秒の時がかかった。
抱擁を解くと、彼女は何を言っていいかわからないよう神妙な顔をしているものだから場違いにも苦笑が漏れてしまう。
「どうして・・・助けに来たの?」
やっと彼女の口から出た言葉は、疑問としてはもっともで・・・それ故に心苦しく思ってしまう。
彼女の年齢を考えれば助けられて当然、保護されて当然と思うようでなければ間違っている。帰る場所があり、無邪気に笑い、よく食べ、よく寝る・・・子供とは本来そうでなければならないのだ。
しかし『どうして』と改めて問われると意外に答えるのは難しいものだったりする。俺子供は助けて当然だと考える人間だが、自分の中にある常識や概念的価値観に疑問をもって問われると、即答するのは容易なことではない。もしも俺がコールセンターの受付なら「すみません、少々お待ちください」と返答を先延ばしにして、上司に丸投げしているところだ。
彼女を助けることを損得勘定すれば当然”損”に軍配が上がる。しかし、なぜリスクを承知の上で彼女を助けたのかと問われれば、
「君を死なせたくなかった」
やたら長い脳内議論の末、口から出たのはそんなありきたりな言葉だった。しかし、物事の本質とは案外シンプルでありきたりなものだったりするから面白い。下手に言葉を定義するからややこしくなるのだ。
「生きていてほしい・・・笑っていてほしい、幸せになってほしい」
例えそれが偽善だとしても、余計なお世話だとしても・・・それでも俺は、
「どうしようもなく君たちの幸せを願ってしまう」
涙が止まらない。有名なアニメで「いかん、雨が降ってきたな」というセリフがあるが、地下に雨なんて降るはずがない。
「どうして、アナタが泣くの?」
俺の情緒不安定さは今に始まったことじゃないが、彼女は他人の感情に少し疎いらしい。もしくはそうなってしまったのか・・・そこまでは俺にもわからない。
ただ、この世界に来て色々な人に出会い、様々な経験をした。そして今更ながらに気が付いてしまった。
「この世界が・・・残酷だから」
ただ大切な人と生きていたい・・・そんなささやかな願いすら踏みにじられる。この世界にはどこにも”オレ”の居場所が存在しない。
「オレと一緒に、来てくれないかな?」
「ワタシが?」
「うん」
「ワタシ・・・人間じゃないんだよ?」
「大丈夫、オレも亜人族だから」
「人を、沢山たくさん殺してるんだよ?」
「大丈夫、どんな罪も一緒に背負うから」
「ワタシ・・・わたしっ、」
「大丈夫、もう、いいんだよ」
二人してひとしきり泣いた後、オレは鬼っ娘を背負って家路についた。彼女はしっかり食べているのか不安になるほど軽かったが、彼女の罪やオレ自身の責任を考えると実際の体重よりも随分と重く感じる。
最初は遠慮したり赤面したりと忙しそうにしていたが、今では静かに寝息をたてていた。
戻ったらヒムカと保護した子供たち、それに鬼っ娘とオレで合わせて10人の大所帯だ。そして保護した俺には相応の責任と義務が付きまとう・・・それを改めて考えると胃が痛くなる思いだが、自分で決めたことを最後までやり通さなければオレは自分自身の生き方に誇りを持てなくなってしまう。
「まぁ、なるようになるか」
辛くとも、寂しくとも、悲しんでいる暇はない。
オレは今を生きているのだから。
まいど、明けましておめでとうございます。シバです。
Twitterの方ですでにご存じの方もいるかとは思いますが、2020年の更新が一回だったことを重く踏まえ次回の更新は新規連載作品としてスタートしようかと思います。
作家あるあるだと思うんですけど『最初に書きたかったものが書いているうちに変わってしまう』という現象に長年苦労してきました。
設定や世界観なども一から見直し、今度の作品では自分の思い描く世界やキャラクターを少しでも読者の皆様と共有できるように頑張ります。
次回作は本作の数十年後の世界を舞台にしたいと考えており、いきなりぶっ飛んでいくと思いますが、合間合間に過去回想を入れようと思うのでたぶん大丈夫なはずです。きっと、おそらく、メイビー・・・
なんとも歯切れの悪い終わり方となりましたが、次回作でお会いしましょう。さいなら。




