番外編1 信繁の父との思い出 ②
「どこなの今回は、どこの国?」
そう、本格登山を趣味とする父親が自分を誘う時〜
それが必ずしも既に国内ですら無い事を深く深く理解していたのだ。
流石にその頃はいい加減悟っていた故に、父に対し息子として否定も肯定もしなかったのである。
「行き先は南米だよ」
「??」
『〜変だな』直感的に疑問に感じる。
南アメリカ、アンデス山脈
アルゼンチンにある標高6960.8m、南米最高峰アコンカグアはもう登頂したはずだ。
自分も強制参加させられたから、これは間違いない。
信繁の父母は俗に言う「グランドスラム」〜
社長業とは別に、登山家として7大陸最高峰制覇を目指し努力する、有名アマチュア登山家でもあった。
「私は行かない、辞退するわね今回」
「そうだな。
よしッ会社任せたよ!」
謎めく母親の微笑みに背筋がゾクゾクした
有り得ない!!
不気味すぎる
『なんかおかしいーーーぞ?』
モヤつく疑惑は決定的。
おまけに温かな南米にしては途轍もなく「ヘンテコ装備」
益々嫌〜〜〜な悪寒しかしなかったが。
既に高校生に成長の信繁は、今更余計な文句や不平も言わず、諦めて父に同行する。
〜だってこの家についウッカリ、呑気にボヤーっと生誕した自分が悪いのだ。
ジャパンの真裏に位置するチリ首都、サンティアゴ空港に到着後、航空機を国内線に乗り換え遥々着いた先はブンタ アレナス空港。
スペイン語でブンタは「先端」、アレナスは「砂、地面」
「地の果て」という意味を持つ南米最南端の町だった
「さぁ喜べ!!信繁、本格冒険旅行へいざ出発だ」
信繁の直感、第六感的な悪い予感は大当たりとなる。
南の最果ての町から、さらにチャーター機で太平洋〜
ドレーク海峡〜ベリングスハウゼン海、サウスシェトランド諸島近辺をブンッとひとっ飛びーーーー4時間と少し。
ーーーーで、到着した先
南極半島
ユニオン・グレーシャー「ベースキャンプ」
更に更に南の地の果ての果て、南極大陸だったのだ。
そう、信繁の父親の長年の野望。
目指した約束の地は、限られた人間しか行くこともかなわないという南極大陸。
しかも入念な装備から察せられるように、最終目的地は大陸最高峰の山〜
父の本当の目論見。
「息子と一緒に!」の、標高4,892m、ヴィンソン・マシフ登頂だった。
親子は南極点まではおよそ1,000km、設備の整うユニオン・グレーシャー ベースキャンプへ。
ブルーアイスの滑走路から特別仕様車で数キロ移動、ユニオングレーシャーには少々の滞在。
その後、滅多にない抜群の天候だと言うことで予定を早め標高2,100m、ブランスコン氷河のヴィンソン ベースキャンプに移った。
登頂プランでは約5〜9日のブランスコン氷河のショルダールート、2回の中間キャンプを張るのが一般的だと信繁は丁寧な説明を受けた。
実に様々な手段で緩やかな斜面を数時間かけて登り、だいたい9km先のローキャンプ地、標高2,750mに到達した。
ここには大きなダイニング用テントが張られ、就寝用テントもあり心より助かった。
山陰でかなりの時間まで太陽がテントを照らさないので朝食は遅い時間となる。
信繁はガイドが推奨する近隣のビューポイントで、誰でも魂が洗われ清らかになりそうな、尊い素晴らしい景色を楽しむので充分良いのではと思ったのだが、フィジカル最強の父親はその程度では全然納得しなかったのである。
「トレーニングにもなるだろ?信繁」
ボスの発する絶対的鶴の一声。
無言で、行って戻っての往復5〜6時間かけて、クヌッツェン峰まで登頂した。
因みに標高3,373mである。
一泊後、さていよいよローキャンプ地に今まで活用したソリは全て残し、険しき先へ旅立つ事となる。
自らの肉体のみでハイキャンプ地3,770mに向け標高差1,023m、傾斜角度45度以上の場所に移動するのだ。
荷物約20㎏オーバーを分割。
バックパックに詰めかえ後は各各荷揚げ、約6〜8時間かかるというハイキャンプ地にめざし黙々と登った。
氷河北側尾根のどこまでも雄大に眼下に広がる見事な景色に確かに素晴らしいルートだと、幼い頃より親に振り回されまくりの信繁ですら、雄大な美しさに感動を覚えた。
「あれってシン山だろうな、ああ本当に天候が恵まれてて俺達ラッキーだなぁ
実に登山日和、素晴らしいよ信繁〜〜〜!」
傾斜40度、斜面を氷まじりの冷風に盛大に吹き付けられつつ行うロープエリアの登りは信繁の記憶では4〜5時間だった筈である。
ルート途中の大きな岩棚での簡単な軽食は実に甘露で、信繁はこんなに美味しい物は生涯一度も食べた事がないと本気で涙がこぼれそうに感動した。
掴むロープが無くなってからの、ハイキャンプまでのエリアは緩やかな上り坂で行程は約1時間半。
〜ただしメチャクチャ激しい強風の地で信繁的には岩場がゴロゴロの危険な場所と難儀し、更に高山ゆえでの理由で空気も薄く本当に辛くて参った。
ハイキャンプに到着後は、余計な荷をキャンプ地に全て預けた。
軽いパックパックのみにて標高差1,119m。
いよいよ山頂に向けて、岩と雪と氷のウィンソンサミット渓谷にそいながら往復で9〜12時間だったか?
侵入者を聖域より吹き飛ばそうとたくらむ氷点下の強風に耐え忍び、心を無にしてひたすら歩いた。
登頂ほぼ殆どのグループが取る西側ルートから頂上ピラミッドに自分達もアタック、下山は東側ルートを選択する。
見下ろす息を呑む絶景、信繁のすぐ目の前には輝くガートナー山やタイラー山、エバリー山やシン山があった。
宇宙を思わせる色味、凄い色彩の濃紺の天空
眼下のどこまでも延々と広がる静謐な雪色とアイスブルーの氷床。
この時の、「どうだ素晴らしいだろう!!」と自慢げな、今は亡き父の自分とは何もかも生物として違う様子。
精神的にも徹底的に疲れ果てた己とは真逆の、このタフネスぶり。
生前のウハウハヒャッハーのアドレナリン出まくり、嬉しげな超絶ハイテンションな言動は人間というよりもクリーチャーに近いと思うのだ。
『ーーーでなければ地球外知的生命体の人類以外のなんかだろう』
夜になれば背中のチャックをチーーっと開けて休憩しているかもしれないな。
信繁は彼の家族として、ただ一人生き残った人間として、脳内に今も鮮烈に鮮やかに記憶している。
結果
壮絶な体験記憶が信繁を普段は結構我慢強い、おっとりソリ引きハスキー犬に似た性格に仕上げてしまったのだ。
もぅ恐れるものなんかない、何もかもドンとこい!である。
そんな状況な為、戦闘中別人、リミッターが完全に外れ、怒れる無敵の魔神
〜信繁のある意味別人格と言って良い、勇姿を見て皆ビックリ仰天〜
心底「ひぃぃぃぃぃ〜」、不幸にも彼と相対した悪漢ですら縮み上がるのだ。
「どっちが悪者か ボクわからない〜〜〜〜」
情けない顔で思わずそう言った新人君のボクちゃん隊員の発言に皆ウンウン
「その通り!!」
「同意!」
「意義無し!」
ーーー凄い勢いで納得するのだ。
現在の信繁の身長はほぼ2m〜約200cm
子龍は180cm半ば強
どちらも極めて姿勢が良くめでたく胴着が似合いすぎる。
凜とし見るからにシュッと、それは美しい立ち姿である。
ビー!!呼び出しコールが再びだ
「信繁さんまだですか〜っって、済みません」
「何だよワーカホリックの魔女 チッせっかちだなぁ!!」
口の悪い子龍がブーブー毒づく
「直ぐ行くって伝えてくれ」
信繁は深くフ〜〜ッと溜息をついた。
やむなく急ぎでロッカールームで、制服へと身支度をバタバタ整え
城トップ〜
極秘収容施設所長、城主が待つ執務室に足早に向かった。
錬成道場入り口ーーーー
「信繁様っ!」
「〜しっ!」
「五月蠅いわよそこっ!」
真新しい映像機器、非常に高価なカメラを手に手にギッシリ立錐の余地も無い程折り重なる彼等目当ての女性職員の声。
〜遠巻きに控えめに、品良く慎ましく信繁に向けられていたのだが、いざ子龍がトップ指導員を勤める事が伝わった瞬間!!
「キャ〜〜〜〜〜〜〜!」
絶叫と号泣
キャーキャーキャーーーーーーー!!
「子龍様ーーーーーーーー!!!!」
「きゃ〜〜〜〜〜〜!!!」
凄まじい怒濤の悲鳴へと変化した。
「こら〜〜お前達!!
ここのリーダー、ボスの信繁の時とはオメーラ態度違いすぎるだろっ!
るっぅせ〜〜〜〜舐めとんのかオイコラテメ静かにしろってってーんだょー!」
微かに子龍の怒り心頭の罵声が聞こえて来た。
今朝と午後イチの定例会議では確か何もなかったのだけは確か、トラブルとして一体全体何があったのか見当もつかない。
背中を−30℃、ぞ〜〜〜〜、 南極大陸吹き荒ぶ氷風のようなものが流れた。
<終>




