襲撃事件の裏側で
「何だアイツーー?何言ってんだ?!
ホント、薄気味の悪い奴だな。
多分だが奴は『惚れてる』な?ーーーキャサリン王太子妃殿下に」
「!!ほんとか?!子龍」
「ーーーあぁ間違いない、信繁。
そんな大切な女を、脳死後サイボーグ化手術だなんて頭おかしいぞ?
俺には気が触れたとしか思えんぞ!?
百歩譲って『ボディだけでも死なせたくない』と考えたとしてもだ、男のエゴそのものだろ?そんなの。
ずっと顔を眺めていたかったんかねぇ、自分が直接死に追いやったくせに」
取調室の様子をマジックミラー越しに、声を落とし観察する隣の部屋。
状況次第では何時でも、今居る部屋から容疑者本人を至近距離で急所を撃ち抜けるよう、強力なパワーを持つ狙撃銃を台座にセッティング完了している子龍。
尋問の推移ーーー
経過観察を冷静に行いつつ、ボソッと呟いた。
「あぁ 全くだ……
本当に何考えてるんだろうなぁ。
ーーーー訳が解らない、俺にも……だ」
隣の〜スックと立つ、硬く腕組みをした信繁も、今回は口の悪い相棒に深く同意するしかないと思っている。
とーーー2人とは別の声が一人分した。
現在テキパキ事務仕事中の雅だった。
「サァそれは……どうでしょうかーーーーー?
でもーーーそこまで……
『好きだ』と強烈に愛されたらーーーー
彼女もーーーー
本望だったかも知れませんよーーー?」
椅子に背筋を伸ばし、綺麗に着座し「取り調べ記録」を、マシンガンタイピングで記録媒体に目にも止まらぬ高速で打ち込む雅だけは別意見の様で。
上官と違う独自の意見をそっと、歯並びの良い美しい口元から落とした。
マジックミラー越しに、城主側からの思いもかけぬ重要機密の開示にーーー
ウィンストンの目が大きく見開かれるのが見える。
「……まだあれの仲間がいるんですか?」
「当然です。
お互いに色々『隠し球』はあるってことです。
凄いいですよ〜飛翔時は〜!
キラキラ虹色に光り輝いてそれはもう見事です。
偶々、訓練姿を目撃した地元にお住まいの御婆様が
思わずーーー
『富士の湖の神様の降臨』と仰られたそうです。
当然ステルス機能はこちらのクリーチャーもございます」
「……」
「尾の先に植わった鱗と〜〜同じ素材の沢山の棘は一撃必殺のもと
最新型宇宙戦闘艦の超合金製の装甲を、いとも簡単に薄紙を破る様に突き破り破壊します。
例えほんの少しの接触でも機体がバラバラになるでしょう。
あなたのお乗りだったご自慢の戦闘艦や飛行艇でもね
ぇえ…!
荒ぶる気性のそちらが襲撃し艦が爆発炎上していたら今ごろあなたは炭化状態。
漆黒か、ピカピカの銀色の袋の中味ですよ。
現在の様にーーー
こうして楽しく呑気に独自理論でお話していなかったでしょうね、
私が下した、性格が優しいクリーチャーへの出撃命令に、ホント沢山〜
感謝してもしきれぬ程、我々に有り難うと敬意を抱いて欲しい位ですよ」
城主はここで仕上げとばかりにニッコリ、極上の笑みを浮かべた。
悪魔に似た美しい妖しい微笑みーーーーー……で、城主はウィンストンに尋ねた
「あなたは王室の元王太子様ーーーー
ヘルヴィム殿下の秘密を知っていましたか?」
「……ええ」
彼は少し間を置いて答えた
『堂々としたもんだわ!
……但し
どう聞かせられてるかは謎だけれどね……』
城主は心の中で呟やく。
「では次の質問に移ります。
キャサリン、王太子妃殿下様に、関する、内容です」
城主はわざと口調を強調して言う。
さぁーーーどう出るか・・・・・・??
ウィンストンの黒い瞳を覗き込みながら、しかも言う。
彼の指先に、微かな動きが見られた。
が・・・・・・表情にこれといった変化は無い。
『ふぅん 頑張るわね……』
城主は畳み込むように続ける。
「王太子妃様の尊いお体には……何とも奇妙かつ、不思議な事に
首の気管と脊髄以外の〜〜
レーザーによる損傷痕以外、殆ど裂傷がございませんでした。
でもこれって変ですよね?
電脳ジャーナルなどのマスメディアに数多く流布されている、お美しいキャサリン王太子妃殿下様のイメージ……!
ーーーーわかりますよね?
妃の美しさの『トレードマーク』と言える、長く艶めく輝く髪……!
こちらへの破損が ほぼ見当たりませんでした」
「ーーーーーーーー」
「ーーー常識的に、繊細な〜
頭髪すら焼けない極低出力のレーザー兵器を。
ーーーあのような切った張ったの鉄火場、襲撃殺傷暗殺現場で使用する事自体、有り得ない行為だと思われます。
殺るならもっと……
確実性の高い殺傷力の高い物を用意するのでは?
城内部のーーー事故調の再現研究でも。
人の頭髪は100℃を越えたあたりで髪構成物質タンパク質が変質しだします
およそ150℃で、キューティクルがグチャグチャに破壊されると実験結果のレポートが上がってきていますよ?」
「……」
「因みに…参考までにお伝えするのですが、人の頭髪は250〜300℃で発火するそうです。
そんな低温で破損するのに、どうしてあんな修羅場で無傷でおられたのか?
もしも”可能”ならば、それこそ銀河宇宙の七不思議ですね」
城主は静かに、しかし押しを強く一気に話を進めた。
ニコリと笑う
「おや? 可笑しいですね??
先程までの異性の良い勢いが、何処へいったんでしょう…か??」
今度は私からのターンとばかりに、くっくっくっっと悪魔みたく喉の奥で笑う城主の挑発に、ウィンストンは乗って来なかった。
がーーーウィンストンは
……どうした事か?
先ほどの五月蠅い程の饒舌スタイルは、すっかりなりを潜めている。
そればかりか少し顔色も悪いようだ。
「あなた方の襲撃時ーーーー
キャサリン王太子妃様がお亡くなりになられた際。
ーーーーーお后様は『髪を下ろしていた』
ーーーと、映像で確認が取れております。
現状は何故でしょうか?
もしも大混乱の中、必死で抵抗した状態で同型レーザーの武器を使用してしたとしたら?
やはり何らかの微細な痕跡が、美しい玉体の様々な箇所にあったかと推察されます。
でもーーー……『無かった』
そこで私からの個人的見解です。
ーーーーーー深窓の令嬢で、遠く王家の青い血を引く 高貴なお方が
いくらお覚悟をされていたとはいえ……か弱き貴婦人が
急所を狙い定めてそう都合よく、など到底ーーーー
出来る筈は無い!!と、私どもは想像致しますが?
この『仮説』は違いますでしょうか?」
ウィンストンの風貌は今やーーーーーー……
ジャパンの古式ゆかしい舞踏に使用する 白い小面そっくりの表情に変化していた。
白く謎めくその微笑ーーーーー
城主は視線をそらさなかった。
「ジャパンのーーー……
『日本』と、まだこの国がそう呼ばれていた時代に素晴らしき作品を数多発表されました古典文学の某巨匠
〜〜あなたはご存じですよね?
この科学が当時よりはるかに進歩した現代でも、答えが出そうに無い難しい歪みと人の心の有りよう
法的・医学的倫理観の是非を厳しく問いかける彼の書いた問題作。
自死に際し結局死にきれず、結果兄弟を巻き込み愛する人の手を汚させてしまった幇助殺人の罪、罪と罰の是非を問うた作品がこの国にはございます。
人間の心の善悪の彼岸のーーーこの物語。
近代的先駆的文学作品を、貴方は1度でもお読みになった事はございますか?
もしやあの場で……
全く同様の事が、『あった』、のではございませんでしょうか?」
終始強気だった男の視線が微かに揺れる。
が、容赦無く城主はたたみかける。
「当然よくお知りになっているでしょう。
王太子様の留学に付き添い、貴方もお妃様も同行されておられましたから。
かつて若き日〜
ジャパンの最高学府に
3人そろって『入学』していましたからね。
その作家先生はーーー
あの当時より何度、何回目かの様々な改名をへた……
そう〜
ご卒業をされたジャパン最高学府の
ーーーー古い遙か前身である某大学の『大先輩』に当たる方ですからね?
貴方はともかく……
古典文学に特に詳しいお妃様が知らないなんて無いでしょうに」
シンーーーーとした空気が部屋を支配した。
「貴方は知っていましたよね?
……登場人物が結局作中、何を行ったかも」
ここで漸くウィンストンが重い口を開く。
低いーーー地の底から響き渡るような暗い声だった。
「該当作の二大テーマ……
知足ーーーそして安楽死ーーー……
恵まれた立場、環境に生きる貴方は一体どうお考えになられていますか?」
ウィンストンの瞳の奥にチロチロ鬼火が見える。
城主はたじろがず、視線を真っ直ぐに微動だにせず固定したままだった。
「何もかもお見通し・・・・・・ですか…」
「当たり前です。
ジャパンの公用語で無くても、貴方が真に喋りやすい言語、『連邦英語』で発言は構いません。
むろん・・・・・・他の言語でもどうぞ」
「では連邦英語で」
「わかりました」
城主はにっこりと花の様に笑った。
これでウィンストンの警戒心が少し緩んだようだ。
「貴女の事は、随分昔から個人的に知っていました」
「察するに、どうやらその様ですね」
ウィンストンは突然カラカラと、おかしくなったかに笑い始める。
「貴女の見かけは 本当に若すぎるーーーーー!
私も地球留学の経験的にーーーーー
それが東洋人独特の個性だと。
十二分に頭では解っていましたが、それでも、貴女方が艦に乗り込んできたあの瞬間ついウッカリと気を許してしまいました。
本当にーーーーーー
『少女』にしか見えない見かけにすっかりと騙されましたよ!
我々の国〜…コロニーD-01では、下手をしたら初等部のちょっといきがり背伸びをしたがる大人びた女の子と言っても、充分通る容姿です。
ですがーーーー内面と知能、決断力…
そして胆力
外見からは全く想像だにできない、本当に一言では言い表せない・・・・・・!
べらぼうな神がかった不思議な力を持つ方ですね 貴女は。
私も故郷の政治の世界でーー……
『指導者』〜
いつか政党の党首になるのが当然の運命だと。
コロニーで幼い頃から帝王学……と下品にいっても良い、特殊な考え方を叩き込まれ、鍛え上げられ育った人間です」
「ええ、よく存じております」
「……どうして艦をあそこまでーーーーー
電光石火襲撃出来る程の、優秀な百戦錬磨の男達に!
上から下を見る、人を従えさせる〜『トップ』の人間として堂々一目置かれ、ひれ伏されているのか?
自ら直接あなたと話をしてみて良くわかりました
・・・・・・私の完敗です」
「お褒めにあずかり光栄です」
城主は これ以上なく機械的に無機質、無愛想に答えた
ーーーーー成程今度はそう来たか……
これは皮肉な褒め殺しだ。
告白も取りあえずは嘘偽りもない本心だろう。
だがしかしーーー……
『うっかり同情していては、今後深沈と続くはずの心理戦に確実に私は負ける』
ーーーーーー冷静にそうも判断する。
彼は何かを誤魔化している。
小さな事実を細かく何層も何層も積み重ねて・・・・・・
だが背後に確実に大きな「嘘」を隠している。
ーーーーーいやその嘘さえ……!
もっと〜…
より大きな
悲惨な「嘘」ーーーの、隠蔽のカモフラージュに過ぎないだろう。
ーーーーソレは何だ?
彼はーーーそういう事を。
空気を吸うが如く日常的に行って来た昏い世界の住人だ。
城主は本能的に悟る。
この若さで実に手慣れ、洗練された技法に風格すら漂う事に舌を巻く。
ウィンストンは心の奥を巧妙に見せまいとしている。
其れは何だーーーーー……
その上で 一体何を言いたいのか?
隠し通す気持ちなのか?
「……キャサリン様は古来の日本文学にたいそう造詣の深い方でした」
そうつぶやくとウィンストンは溜息と共に項垂れる。
「硬直化し、帝王学を是とするーーー……
厳しい〜厳格な、国の歴代の偉大な先祖……
数多の政治家を排出してきた古い家系に自分は育ちました。
その為なのか、伸びやかに自由に考える発想そのものが 幼い日から欠落していていました。
生きながらーーーーー
死んでいたことすら知らなかったのです」
呻く様に答えるとーーーーー
ウィンストンは拘束具のかかった両手で顔を覆った。
暫くそのままで動かなかった。
ウィンストンは項垂れながら話を再開させる。
「ジャパンに来日後ーーー
〜習ったばかりの知識や愛や人への慈しみーーー
しっとりと未来への夢を語るキャサリン様は 私には眩しすぎました。
ジャパンの~
『日本古典文学』に心酔していたあの方と語り合う僅かな時間が、自分の幸福だった記憶の全てでした」
目からこぼれ落ちた涙が頬を伝う
「ーーー……”積極的安楽死”ーーですね?」
「はい、仰るとおりです。
その彼女を私は手に掛けました。
私は彼女だけは殺す気はありませんでした。
どこかに閉じ込めて……時期を見て死んだ事にして逃がす気でした
……ですが、私は〜!
密かに隠し持った武器による自傷行為をーーーー
あっという間の出来事で、私がーーーーお止めする間もありませんでした。
しかしーーー傷は急所をそれ。
大量の出血で 手の施しようもありませんでした。
キャサリン様は、虫の息の中、微かに笑っておられました。
『私って駄目ね、こんな筈では無かったの。
本当に御免なさい、許して』
・・・・・・と。
私がこの手で苦しみを取り除きました。
でも・・・・・・
どうしても!
あの方を全て本当に死なせたくなかった。
ほんの一時でも……
私の側に居て欲しかったんです。
”知足”・・・・・・
意味は『足るを知る』ーーー……ですか
ーーーー酷い言葉ですね。
私には最後まで諦めきれ……られませんでした」
「・・・・・・そうでしたか」
ウィンストンは両手を蒼白になるほど机の上で握りしめーーー……
必死で声を殺しポタポタと……
大粒の涙を零し続けた。
彼はーーーーー生涯一度の本物の恋をした……
それが全ての始まりで。
けれどそれは禁断の恋、あってはならぬ類のものであった。
自分を体を張り命懸けで助けた、大切な親友であり命の恩人の新妻。
ーーー幼い頃より、親友が心を捧げてきた愛する許嫁の美少女に。
・・・・・・横入りの恋心を。
この一筋縄ではいかない鋭利な男でも。
愛した女性を一途に恋慕い、震えながら泣くものなのか。
恋する人の為に
・・・・・・この世でただ1人愛した女性の為に。




