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信繁の心模様 ①



信繁はーーーー

次第に明るい表情に変わってゆくフレイヤの表情をコッソリ見つめ、安堵のあまり護衛官の立場、立ち位置を忘れそうになった。



恋する者としてずっと彼女を抱きしめていたい、しかし、絶対的に果たさねばならない役割があったのだ。



信繁が惑星トールに、アグライア護衛の名目で長期出張扱いで派遣されるまで〜 

現在の様に王城に着任するまでの 様々な水面下の動き。


確かに表向きは、今にも心が壊れそうなアグライアを心身共にフォローする役割を担う事と、大きく三度にも連続した暗殺未遂事件から絶対に四度目を起こさない、脅威から守り切る事というジャパン内閣府からの緊急要請、政治的密命からだった。



しかし本当のところはまた別にもあり、最新鋭軍事宇宙戦艦の若き艦長からの依頼〜


艦内で起きた「アグライア姫 暗殺未遂事件」の詳細の報告書制作及び、トール戦艦内における事件の 事情聴取。



ジャパン政府は、銀河最強の軍事国家の機嫌を損ねるわけにはいかなかった。


「お願いだから君はこのままトールに行ってくれ!」


情けなく外圧におもねるかのような、まるで真綿で首を絞めるごとしの嫌な含みのある重圧とプレッシャーが今回の(しかも他の2回も解決主導的立場だった)襲撃撃退当事者〜


城配属特殊部隊 「信繁班」班長である信繁に非常に重くのし掛かっていた。



ーーーー実際は信繁はその全てを蹴っている。


 

〜フレイヤ姫のジャパン最後の護衛時、自分は彼女の心からの懇願をキッパリ撥ね除けた。

それなのに今回、確かに事情があるとは言え、アグライア様に星にまで付きそうのは全く筋が違う〜


自分の過去の言動における信義に反すると考えたからだ。



ーーーそれを覆した切っ掛けは、ロームルスからの直々の、戦艦司令室への緊急外電である。


たまたま司令室に艦長と責任者対策会議に同席していた信繁は、場にいる事が知られて拒否権無し、いわば巻き込まれる形で名指しの上、しかも個人的な相談事として呼び出された。


他の者は閣下の命にてトップ責任者である艦長ですら席を外させた上での会見。

〜ホログラム通信で、ロームルスはこんな事を短く言い切った。


「フレイヤ妃殿下は、尼僧院へ入る事を本気で考えている」 ーーーーと。



信繁も、軍事参謀長官としての様々な情報網を持った彼の言う事を「取り越し苦労」だと鼻先で笑い飛ばす事は出来なかった。


結果判断に困り、アグライア救出作戦の後始末にて未だその場に同行し、会議室にて逗留していた班員達〜


特にバディの子龍、またこう言う事案時に圧倒的に頼りになる知恵者の雅に意見を問うた



「フレイヤ様が尼僧院ーーーーですか?!」

相談内容を聞いた瞬間 雅はさっと顔色を変えた。



「〜〜〜〜〜〜!!」


 

ガタン!



子龍は、雅が止める間もなく、物凄い勢いで信繁を殴りつけた。


見た事もないほどに怒気を発散させ、固く拳を握りしめ唇を震わせた。



「お前はーーーーぁあ信繁、閣下が何を言ったか本当に判ってるのか!!」


 

僅かにぐらりと体勢を崩した信繁の襟首を更にガツッと手荒くひっつかみ、子龍は整った顔を怒らせ 悪魔の如く目を爛々と輝かせて凄まじい勢いで詰め寄る。




「おい聞けよ、コラ親友ーーーーーー


この国は、ジャパンはさ、クリスマスも元旦の初詣もごっちゃごちゃなイージーなラフな国だから確かに判らんくたって仕方が無いけどな?



んぁ?地球でもーーーー欧州やそこいらの国で、今後の人生『神に仕える』って言うのが どれ程重大で重い意味を持つのか、俺達に相談前に一度でも自分の頭でチッタァ考えた、案じた事あんのか?


ええっっつ?! 答えろよ!! 信繁ッッツ!!


『尼僧院』に入るって言うのはなぁ、女性がこの世の全ての事と全部リセット、世俗の出来事とは縁を切るって事なんだぞ!!


ある意味俺らのこちら側から見たらば、生きながら死ぬって意味なんだぞ?

そういうの解ってんのかよ! あぁっっ?!


お前の仁義って、それよりも重く 不動の物なのか?


夫のある身だのどうのこうの〜の正論は当然だし、俺も不倫は賛成出来かねるからーーーーそいつの事情は理解出来るがなぁ。



しかしあの子は!!

ーーー今そんな次元を軽く超越するほど真剣に傷ついて悩み抜いて 酷い孤独の中でたった1人で辛く苦しんでるんだぞ!!


お前、体を壊しそうな程先々を心配して 心底惚れてる女なんだろ??


行ってこい、彼女と話してこい。

その先は、あの姫君の個人的選択だ、本人に決めさせろ!!

 

うぬぼれんなっ オマエがシャシャッて嘴突っ込む事じゃねぇ! 

そんな安い事じゃねぇわ 勘違いすんな!!



自分も陰ながら誕生日を祝ったし暗殺者から体張って守った立場だから、姫には絶対に幸せになって欲しいんだよ!!


もし行かないとこれ以上ゴネるんなら信繁よぉ、この先 お前は俺の親友でも何でも無い


ーーーただの馬鹿だ、くたばっちまえ!!」



「子龍さんやめて下さい!!」


尚も殴ろうとする体制に入る子龍を止めようと、必死に縋り付く雅をーーーー


 

「邪魔だ!!」

ありえない事に子龍は乱暴に突き飛ばした。


 

余りの子龍の剣幕と壮絶な鬼気迫る形相に気を呑まれ、信繁班の他メンバーだけでなく、様子を見守る為に待機中だった世話役トールのクルーもーーー

 

誰も信繁と子龍の側に近寄る人間はいなかった。



「ーーーーわかったな?! このクソバカ機長っ」



子龍はギラギラとした双眸でギロッと親友を斜に睨み付けると、ザッと怒りにまかせ零れ落ちる長めの髪をかき上げ、ドカドカと靴音も高く足早にその場を去って行った。

 

力任せに閉めた扉の金属音に、何事かと血相を変えてバラバラッと複数のトール兵が武器携帯で大急ぎで駆けつけた程の荒れ場。

 


***********



結局は、親友 子龍の言うとおり。

 

王城で再会ーーーー面会して即座に察した事だったがーーーー



『えっっつ??』

信繁は フレイヤの余りの華奢な体に驚いた。


フレイ王家の王立宇宙軍・空挺団所属に嘗て人生を賭けるほど心酔、活き活きと在籍していた人間とは思えない。


過去 しっかりと鍛え上げられていた体は、今は見る影も無い程 筋肉は萎え、尋常な状態で無い程 細く小さく痩せ衰えていた。


ドレスを着こなす為なのかもだが、幾らなんでもそれにも限度がある。

病的な衰えが軽く想像可能な痩身具合だった。



『最も大切な時にーーー自分は守るべき人の側にいなかった』



判断を誤った事は明白、ここまで体が来るのに何があったというのか!!




『申し訳なさ過ぎてーーー自分は合わせる顔が無い』


項垂れるしか無かったがーーーそれを相手に悟られるわけには行かない。

誇り高き彼女は哀れみを好まない、それに自分には重い責任がある。


だからおくびにも出さず 信繁は必死に耐える。



主導すべき引っ張るべき立場の人間が崩れたら、守るべき人が、集団が、グループ全体が総崩れになるからである。

 



『彼女に はっきりと、自分は調子よく守ると言ったくせにーーー』

信繁は自分自身を心の中で散々に自嘲し罵倒した。



『そりゃぁ口では守るだの何だの威勢のいい言葉を 男は何とでも言えるさ!』


呆れる程の自分の罪悪いい加減さ、軽薄さが許せない。




「どうして私の時は武官として、護衛官として私と共にトールに来て下さらなかったの??」


フレイヤのこの質問は最も鋭く信繁の心に深く突き刺さった。


言われても責められても 仕方が無いと思った。


ーーー核心を突いていた

みっともない言い訳は一切 彼女に対ししたくなかった。




気がつくと、人目もはばからずフレイヤのーーーーー

 

その場の空気に消え入るよう、まるで泡沫のように溶けてしまいそうな、か細くなった肢体を 強くきつく抱き締めていた。



『本当にーーー済みませんでした』



どんな時も常に冷静な信繁が、このように我を忘れた事は初めての事。


ギュッとーーーー抱き締めて、心の底から愛おしいと自覚する。





『愛しています!』


掛け替えのないーーーー大切な女性。



『ここは地球ーーージャパンではない。

あの国の倫理観や常識の一切が通用する地ではない。


自分の考えを押し通すのでは無く、どうすればフレイヤ様が、この先、この国で暮らしやすく。

居場所が見つけられるかを、まず最優先に考えねばーーー!』





かつてジャパンで信繁は、城からの開放を頑なに拒むフレイヤの説得役に城主に抜擢されている。


彼女はそれを受諾したのだ。


その結果ーーーーー現在の今がある。



「トール」の、ラファエル王子の元に還るよう促したのは何を隠そう 他ならない信繁なのだ。


彼は彼女が自分に寄せる好意を感じていた。


が、当時彼女は、生国を滅ぼした惑星トールの末の王子〜


ずっと彼女の味方であろうと奮闘した只1人の王子であり、大王が溺愛する息子

「トールの大天使」と国民からも絶大な支持を集める美しい彼との間に芽生えた大切な掛け替えのない新しき命を身ごもる身の上だった。


 

信繁は城では無く、彼女を明るい世界へ行けと背中を押した。


『行かないでくれ!』という、自分の悲鳴を上げる心は 徹底的に無視をした。



彼女は敵国へ嫁ぐのだ、

残酷な、無理を承知で。


 

それでも一縷の望み、王女の生存可能な未来に賭けた、彼なりのーーーー


本気の精一杯の 選択だったのだ。



ロームルスの今回の緊急の外電は、万能に近い彼自身ですら打つ手が既に無く どうしようも無かった事を示している



あの日の城主と同様 「君の言う事だったら 彼女も聞くだろう?!」



『自分に再び、フレイヤ姫の説得役を担って欲しいという意味なんだろうなぁ』

その様に信繁は解釈した。



しかしーーーーー! 説得することで、益々愛する彼女が不幸に追い込まれる事は無いのか?


こそまで考えるとーーーー自分がそれをする意義が見いだせない。




『自分とて子龍と同じく、フレイヤ様のご多幸を心から願っているのは同じだ。


一体どうすればいいんだーーーーー!!』




前回同様、自分の気持ちは 一番最後の後回しでいいし、なんなら自身の心なぞ無視したってちっとも構わない。


信繁は 誰にも気がつかれないように深く溜息をつく。



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