流星 ①
信繁は迷うこと無く即座にコクピット右側に座った。
目出し帽を先程脱いだばかりの彼は、ほんのり頬が、未だ良い感じに紅潮している。
信繁はざっくり乱れた前髪を うるさそうに掻き上げる。
「が ん ば れ よ、『 機 長 さ ん 』」
「ーーーー五月蠅いぞ 子龍」
その態度にぶぶっ♪ーーと、思わず笑ってしまう子龍なのであった。
遅れてーーーーー今さっき。
左側の席に、肩をすくめながら座った副操縦士の子龍にクスクスからかわれ信繁はジロッと剣呑な瞳で睨んだ。
「コッワ〜〜〜〜〜!」
もうこうなればケタケタ、子龍は笑いが止まらない。
一般の航空機関係は機長は「左」、副操縦士は「右」に着席する。
しかしヘリは逆だ。
それは何故か?
固定翼機は船舶から伝統を受け継ぎ、船舶は港の桟橋に左岸から接岸するルールから、広々と見通しの良い全てを見通す素晴らしい席〜ということで最も条件が良い船長席が左側位置と決まっている。
その流れで航空機の機長席も同様である。
しかしヘリは操縦方法が複雑怪奇で、同じ様にすると操縦効率が甚だ著しく劣化する。
そもそも基本的にレバーと操縦桿から手を離すことが出来ない上に、推力と上下及びエンジン出力を操作する左腕が前にずっと突き出す伸びた構造になるから、安全面においてどうしても邪魔、視界確保がしづらくなる。
よって右に機長席が設けられているのである。
自分から信繁が、右操縦席、「キャプテン席」に着席したと言う事はーーー
今後の空での操縦・戦闘〜の主導権を、自分が全責任を負い握るという意思表示だった。
実は信繁は「行き」ーーー城からの往路も、ヘリの機長だった。
ここまでした以上〜本来だったら当然、「帰り」ーーーー
復路の〜機長役は 副操縦士へ操縦を交代する。
それ程ヘリの操縦はパイロットの精神的・肉体的消耗も著しく激しい。
回転翼機は複雑な操縦テクニックが必要の、大変に気難しい乗り物なのだ。
しかし信繁はどうした訳か、それをしなかった。
ーーーー「させなかった」。
その「理由」をーーーーー!!
信繁のバディであり、親友かつ副操縦士である子龍はさり気なく振り返るのだ。
後方座席に楚々と座るーーーーーー
フンワリ柔らかい 温かなブランケットにくるまれたフレイヤをチラッと見る。
ブランケットを、彼のバディが、王女の体に柔らかな手つきで如何にも優しく愛おしげに掛けたのを、彼はずっと見ていた。
そしてまたフレイヤ王女がーーーー信繁が視線をそらしている間。
どれ程信頼しきった眼差しで信繁を、きらきら輝く瞳で親友を見つめていたのかも。
『アイツ 彼女をどうする気なんだかーーーー』
フレイヤ王女は今は俯き、重い緊張が解けたのか、優しい、とても良い満ち足りた顔をしている。
『かわいい顔をしちゃってまぁ〜〜〜〜』
信繁の親友でもある彼は、心の中でお腹の皮がよじれる程に大爆笑をしながら、2人の心象を微笑ましく理解した。
つまりーーー見ている方がこっぱ恥ずかしい、そういう事なのだ。
子龍は隣の機長席の友人をチラ見する。
信繁はプイッとあえて不機嫌そうな表情を作り、わざと視線をそらせながら計器の確認をしている。
『コイツ マジにわかりやすい奴ーーーーっ』
子龍は ブホッと頬が痙攣しそうだった。
信繁は 「聞くな触れるな喋りかけるな!」という、黒〜いオーラをビシバシ放射しているのが更にこれまたおかし過ぎる。
『あ〜あ〜
仕事と勉強が恋人〜っと言って全然きかなかった奴がなぁーーー
まぁーーーあの魔女よりは、いいのかもなーーーー』
ニヤニヤそんなこんなを心の中で反芻する。
「ここはもう危険で使えない。
上空で確認したがシャトルも破壊されていた。
ナラシノに代替の新しいシャトルが城主により配備されている。
ーーーナビ頼む、フナバシまで一気に飛ぶぞ!」
「りょーーかい」
『コイツ、ははぁーー 俺の ”気がついてんの” 知ってんな?
それなのに わざわざ怖い顔作って無理しちゃって まぁーーー!』
「んじゃ、しまってこーーーぜーーーー?」
信繁とヘリのコンビを組んで長い彼は、ぶぶっと吹き出す笑いを必死にかみ殺しながらなんとか真面目な表情を作り答える。
「ーーーー顔が変だぞ?」
「気のせい気のせい〜〜〜〜イテッッーーーーツ!
暴力反対だぞこらぁ〜〜〜!!」
「フン!」
ぷるぷる肩をふるわせる相棒を、信繁はバグッと情け容赦なく小突くのだった。




