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3 前世を思い出す

本日の更新はこれでラストです。

 「っあぁぁぁ!!??」


 私はベッドから転げ落ちて目が覚めた。

 激しい動悸がする胸を押さえ、全力疾走した後のように荒い息を吐き出しながら状況を整理する。


 今のは予知夢だ。

 直感で確信した。


 強い魔力を持つ人間は寝ている間に魔力暴走を起こし、その結果予知夢を見ることがある。

 その証拠に大きな魔法を使ったあと特有の、体にまとわりつくような不快な空気と軽い頭痛、怠さを感じている。


 私、セレナ・フォン・エルンシュタイン公爵令嬢は貴族令嬢として相応しく、むしろ相応しい以上に強大な魔力を持っていた。


 (それをやっかまれてお見合いは難航気味……)


 跡取りの男子が強い魔力を持つのはいいが、兄弟や夫となる人より強い魔力を持つ女性は倦厭される風潮がある。

 このエルンシュタイン家の跡取りである兄は私を可愛がってくれるけれど。


 ってそれは一旦置いておいて。


 魔力が見せる予知夢は外れることはない、と言われている。

 つまり、今のままでは私は将来的に刺されて死ぬ、ということだ。


 問題はそれがいつなのかだ。

 肌で感じた季節は3月くらいに思えた。

 まさに今だ。


 しかしそれが今年なのか来年なのか、はたまたもっと先なのか、そこが分からない。

 エルンシュタイン農業社の娘か、と問われたことから数年以内だろうとは思う。


 ……だって、結婚していないってことだから。

 (私、数年以内には結婚出来ているわよね!? そう信じたい……)


 刺した相手の顔は見えなかった。

 名前を確認してきたから通り魔ってわけではなさそう。でも面識もないのだろう。あったらわざわざ尋ねはしまい。


 (もっと何か手掛かりは……? 思い出せることは……!?)


 頭から夢の記憶を思い切り引っ張り出そうとした時、またしても体内で魔力が暴走するのを感じた。


 「ぐっ……うぅ!!」


 急な激しい頭痛。

 頭が割れそうだ。

 血管がブチブチとちぎれていくような感覚。

 あまりの痛みに嘔気が催され、口を押さえてうずくまる。

 もう片方の手で頭を掻きむしりながら、私の記憶にない記憶が次々と呼び起こされた。


 高梨紗奈(たかなしさな)

 日本に生まれ、生きていた。

 本を読むのが好きで、特にミステリーものが好み。ドラマを見るのも趣味だった。


 (私は誰? 私は高梨紗奈? じゃない。セレナ・フォン・エルンシュタイン。ノーヴァリア王国の公爵令嬢……)


 激しい頭痛は次第に遠のき、思考がはっきりとしてくる。


 さっき浮かび上がった情報は前世というやつだ。

 そういうものがある、と前世の記憶が教えてくれる。


 (ちょっと待って! 今日起きた瞬間から情報が多い! 私は殺されそうで前世は日本人? 何から考えればいいのよ!?)


 落ち着け。落ち着いて脳内会議をしよう。



 頭の中に、いつの間にか長机が置かれていた。

 無駄に広い会議室だ。


 片側に私──セレナ・フォン・エルンシュタイン。

 背筋を伸ばし手を膝の上で組む。

 向かい側には、高梨紗奈。

 名前を尋ねずとも分かった。

 暗めの茶色に染めた髪は肩で切り揃えられ、少し吊り目気味で猫のような印象を受ける容貌だ。


 ピンクブロンドの波打つ髪を背まで伸ばし、凍った湖のようだと言われたことがある色素の薄い瞳を持つ私とは正反対の印象を受ける。


 彼女は椅子に斜めに腰掛け、机に肘をつき、頬杖。


 『とりあえず整理しよか』


 紗奈が指を一本立てた。


 『今わかってるんは2つ。あなたは将来刺される。それと、あたしはあなたの前世』

 『その言い方、軽すぎない?』


 私は眉をひそめる。


 『重く考えすぎたら思考止まるやろ。で、刺された場所はいつも散歩で行ってる川沿い』

 『……だからといって、川に近づかなければいい、とは思わないわ。きっと未来を変えないと殺される場所が変わるだけ』


 私はきっぱりと言った。


 『あの人は名前を確認してから刺した。偶然じゃない。私を狙っていたのよ』


 紗奈は一瞬、口を閉じた。

 そして、ゆっくり息を吐く。


 『……ストーカー系かと思ったけど、ちゃうんか?』

 『ストーカー……? あぁ、私に懸想している人がいるかということね。貴族令嬢は出会いもないし、お見合いは全滅中よ』


 紗奈の独特な言葉遣いも前世の記憶が補完してくれる。


 『まぁ……ドンマイ!』


 軽口を叩きながらも、紗奈の視線は真剣だった。


 『でもさ“エルンシュタイン農業社のご令嬢か”って聞いてきてたやろ?』

 『ええ』

 『個人じゃなくて、立場を確認してきてる。つまり──』

 『お父様の会社絡み……?』


 言葉にした瞬間、胸の奥がひやりと冷えた。

 紗奈は椅子にもたれかかり、天井を仰ぐ。


 『お父さんの会社、なんか悪いことしてるんかなぁ? それとも単に社長令嬢で公爵令嬢やから庶民の嫉妬的な?』

 『……悪いことをしているとは思いたくないわね』


 一拍置いて、紗奈は私を見た。


 『で、どうする。お父さんに探り入れてみる?』

 『えぇ。そうしてみるわ』


 私は即答した。


 『お父様は話の分かる人よ。何か問題が起きているなら、隠すような方じゃない』

 『……それ、信じたいだけちゃう?』


 図星だった。

 私は一瞬、言葉に詰まり、それでも顔を上げる。


 『それでも聞かないことには話が進まないわ。私は……何も知らないまま殺されるつもりはない』


 紗奈は小さく肩をすくめた。


 『強いなぁ、公爵令嬢』

 『強くならなきゃ、社交界は生き残れないのよ』

 『ほな決まりやな』


 紗奈が手を叩く。


 『今夜、晩餐で事情聴取。前世代表として、私は横でヤジ飛ばしとくわ』

 『大阪人のヤジはうるさそうだから却下よ』


 脳内会議、強制終了。



 私は侍女を呼び、着替えて朝食室へ向かった。



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