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14 チートな魔力で

 畑と畑の境目。

 乾いた風が、土を撫でる。


 「……共通しているのは“場所”ではない」


 低い声。


 「“蓄積時間”だ」


 私は顔を上げる。


 「同じ生活でも発症していない者がいる。その者は接触期間が短い」


 手帳を軽く叩く。


 「長期居住者、体の弱い者ほど進行が早い」


 風が吹く。

 世界そのものが、ゆっくり毒を孕んでいるように思えた。

 そんなはずはないのに。


 「急性毒でも感染症でもない」


 静かな断定。


 「極めて微量の何かに、長期間さらされている」


 『せや。“毎日ちょっとずつ”や』


 紗奈の声が重なる。

 私は息を飲む。


 「原因は……」


 ヴァルターさんが首を振る。


 「まだ断定できない」


 きっぱりと。

 だが次の言葉には、確信があった。


 「だが、絞り込めた」


 視線が向く。

 南の畑。

 整然と並ぶ作物。

 その足元にある、何の変哲もない土。


 「調べるべき対象は絞られた」


 その声は、静かに重かった。

 私は、その横顔を見る。


 ──この人は、もう気づいている。


 そしてそれが、どれほど取り返しのつかないものかも。


 南の畑を前に、私は隣に立つヴァルターさんを見上げた。


 「……これから、どうするんですか?」


 彼は視線を畑から外さずに答える。


 「まずは肥料を調査する。これがまずこの領地にしかないものだ。現時点で一番怪しいと言える」

 「これまで調査は?」

 「土壌調査の中に含まれているが単体ではまだだ。一度やってみた方がいい」


 迷いのない声。


 「ヴァルターさんが?」


 そう問うと、彼は小さく首を振った。


 「いや。ここで調べられることには限りがある。王都の研究所にサンプルを送る。詳細な成分分析は、そちらで行うべきだ」


 なるほど、と頷きかけて──私は眉をひそめた。


 「それって……けっこう時間がかかるんじゃないですか?」

 「……そうだな」


 ヴァルターさんの顔が苦しげに歪んだ。

 今この瞬間にも進行している病があるのに、そんな悠長でいいのだろうか。


 『なあ』


 頭の奥で、紗奈が口を開く。


 『セレナが魔法でババっと調べられへんの?』


 私は一瞬、言葉に詰まる。


 『できなくはないわ』


 心の中で答える。


 『鑑定魔法っていうのがあるの。対象の構成物質を読み取る魔法。ただし、既知のものしか分からない』

 『ほな、やっぱ研究所送りなんやな』

 『ええ。未知の物質が混ざっていたら、私では判別できないから』


 紗奈が、少しだけ間を置いてから言う。


 『……でもさ』


 嫌な予感がした。


 『まずはセレナが調べてみたら?』


 やっぱり。


 『あたしの知識もあるやろ。こっちの世界ではまだ発見されてない物質とか、もしかしたら引っかかるかもしれへんで?』


 私は、畑の端を見る。

 積み上げられた肥料袋。

 見慣れた、青と銀の紋章。


 心臓が、ひとつ強く打った。


 ──やってみる、か。


 私は一歩、踏み出す。


 「セレナ嬢?」


 ヴァルターさんの声が背後から飛ぶ。

 構わず、袋の前にしゃがみ込む。

 口をほどき、手を差し入れる。

 ざらり、とした感触。

 指の隙間から、細かな粒がこぼれ落ちる。


 「何を……!」


 明らかな動揺の声。

 振り返らずに、私は答える。


 「少し、確かめたいことがあって」


 掌に収めた肥料を見つめる。

 ただの土にしか見えない。

 けれど──


 「鑑定魔法を、使います」


 空気が、わずかに張り詰めた。


 私は深く息を吸い、体内の魔力を練り上げた。


 掌の上の肥料は、ただの灰色の粒にしか見えない。

 だが、その奥にある“何か”に、意識を向ける。


 静かに、言葉を紡ぐ。


 「──鑑定」


 魔力が、掌から流れ込む。

 瞬間、

 情報が、流れ込んできた。


 土壌成分。

 腐植質。分解途中の植物繊維。微生物由来の有機残渣。


 無機物。

 窒素化合物──硝酸態窒素、アンモニウム塩。

 リン酸塩。

 カリウム塩。


 微量元素。

 鉄、銅、亜鉛、マンガン。

 作物の生育を補助するための添加。


 保水材。

 細かな粒子が水分を抱え込み、土壌に留める構造。


 結合剤。

 粒状を保つための樹脂状物質。


 魔力残滓

 これはこの肥料を作るときに使われた魔法の残り滓のようなものだ。


 『分かるかもって言っといてごめんやけど、専門外やしそんなに分からん……。組み合わせで毒が発生してるのでなければ、知ってる限り有毒なもんは入ってなさそうやけど……』


 私はさらに詳しく調べようともっと魔力を注ぎ込む。


 もっと深く。

 もっと細かく。


 「──っ」


 情報の流入が、急に増えた。

 層が、剥がれる。

 表層の下に、もう一段。


 さらに奥へ、意識を沈める。

 層が、剥がれる。

 その下に、また層。


 そして──


 (……なに、これ)


 規則的すぎる。

 自然物とも、人工物とも違う。

 いや、自然物でも人工物でもあるような──

 整いすぎているのに、意味が分からない。


 『ちょっと待って、それなんなん!?』


 その瞬間、

 情報が、跳ねた。

 どくん、と心臓が打つ。


 「──っ」


 一気に流れ込む。

 速い。多い。重い。

 理解が追いつく前に、押し込まれる。


 『やばい、これ止め──』


 声が途切れる。

 頭の奥が、軋む。


 いや、違う。

 軋んでいるんじゃない。

 押し広げられている。

 容量を超えて、無理やり。


 「やめ──」


 言葉にならない。

 視界が歪む。

 音が遠のく。

 思考が、割れる。

 これ以上、見たら──


 「っ……!」


 限界を迎えた瞬間、

 すべてが、弾けた。


 「セレナ嬢!?」


 その声すら、遠い。

 光が、すっと細くなる。


 すべてが、沈む。

 音も、感覚も、思考も。

 黒に、溶ける。


 ──落ちた。


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