町へ行こうよ!―自他ともに認めるお上りさん―
夜が明け、簡単な朝食をとってから野営地の片付けをするベッセル村御一行。
手際よく片付け、昨日と同じように馬車に乗り込む。今日は昨日よりも乗車時間が長い。つまり、暇なのだ。
でも警戒を行っている大人の邪魔にはなりたくなくて、何気なしに自身の収納に入っている物品一覧に目にやる。
これが無限に近い容量とかなら見ごたえもあるだろうが、俺の収納容量は大型トラック一台分程度。
ちなみに容量はコミュニティでの情報共有の範囲内で、色んなものを収納してある程度の容量を測らされる。
いま中に入っているのは野営の道具や食料、うちで収穫した野菜(特に腐りやすいトマトとか)、俺用の農具やバケツ、着替え。トランプやジェンガなどのおもちゃと教科書。
あとは土嚢。空き時間に作ったり中身を入れ替えている。土嚢は畑用の他に台風や害獣対策に使うのでなんぼあってもいいですからね。収納持ちは運搬と積みが楽だし。
そして、細工用の藁も入っていた。
そういえば近所のおばちゃんに藁細工習ったんだった。小遣い稼ぎにできないかなって。家の手伝いや魔法の練習で忙しすぎてそんな暇なくて忘れてたけど。大量にあることだし、これで暇潰すか。
揺れる馬車の中でせっせせっせと藁を編む。
「そろそろ着くぞー」
御者席からハル兄ちゃんが声をかけてきた。俺は作業の手を止め、手袋を脱ぐ。何度か挟まれた休憩時間以外はずっと藁を編んでいたので体中が凝り固まっている。ちょっと背を伸ばすとバキンと音が鳴り、隣にいるリヒト兄ちゃんが「すごい音」と小さく笑った。
「鍋敷き、いっぱいできたね」とリヒト兄ちゃんが話を振ってきた。
そう、俺がせっせと作っていたのは鍋敷きだ。何を隠そう、俺は鍋敷きしか作れないので!
「鍋敷きいっぱいできた!」
リヒト兄ちゃんにどや顔を向ける。彼は不思議そうに「鍋敷きじゃないの?」と小首を傾げた。
「鍋敷きではあるんだけど、鍋敷きこんなにいらないし、売るには不格好だし。でも着火剤や薪のかわりにはなるでしょ」
見るからに素人の作りで編み込みが甘くて隙間があったりしてとても売れるものではない。
最後の方は流石に上達したが、土嚢と違って鍋敷きは『なんぼあってもいいですからね』とはならんだろう。ショタの作った鍋敷きマニアでもいない限りは売れないだろう。いねーよ、そんな趣味の奴。
俺的にはこだわりの作品というわけではなく、ただの暇つぶしだったので後はどうでもいい。
「あっさりしてるなぁ」
同乗者のおじさんが思わずといった様子で口を挟んだ。
「これがもっと凝った細工品とかだったら違うんだけどねー」と俺は返した。
草鞋とか帽子とかみたいな、それこそいくつあってもいいような実用品。鍋敷きでも染めた藁とか使っていたらまた違うのかもだけど、細工用に整えただけの藁だし。
鍋敷きは芋焼くときの焚火にでも使おう。
不意に馬車がガタンと大きく揺れ、停まる。どうやら着いたようだ。
馬車の前方、つまりは御者席を目指して荷台を這う。よっこいしょ、と顔を出せば御者席にいる父と兄が笑った。
父が「おいで」と俺を引っぱり出し、父と兄の間に座らせてくれた。ちょっと狭いけど、走行中ではないから落ちやしないだろう。
俺はきょろきょろとあたりを見回す。目の前には他の馬車や馬、旅人らしき人々が並んでいる。その先にあるのは城壁のような高い石壁と大きな門があった。
元日本人で海外旅行の経験も無かった俺は西洋の城壁を実際に目にしたことはなく、実にファンタジー感溢れている。昨日寄ったラチェットは石垣だったのでなおのこと派手に見えた。
今並んでいるのは入場チェックの列だろう。一定以上の規模の都市では入場時の身分証明が必須らしい。
とはいえ、基本的には居住する場所の証明書やギルドカードを見せ、いくつかの質問で通してくれるらしい。流石に記録は残すだろうけど。一般人は通す。冒険者も通す。不審者は通さない。
ベッセル村の人たちはちょくちょく来ているし、特に父とおじさんとおばさんは顔も覚えられているだろう。
列はどんどん進んでいき、あっという間にベッセル村御一行の番だ。
「やあ、ベッセルさん」
入場チェックを行う担当のお兄さんがにこやかに父に声をかける。案の定顔見知りらしい。その人とは別にもうひとり居て、そちらは「荷台確認しまーす」と後ろに回った。
「どうも。今年も忙しそうだな」
父の言葉に、担当さんは「そりゃあ、もう」と頬を掻く。こんだけ大きい町の大きな祭りとなればそうなるだろう。
彼は手にしたバインダーの紙に何やら書き込んでいく。これ見ててもつまらんなと思った俺はさらに見回した。ザ・お上りさんである。
とはいっても、門の向こう側に詰所らしきものが見えるのと、あとは町を囲う石壁しかない。
石壁にはでっかい傷がいくつもついていた。ひっかいたようなものだったり、擦ったような感じだったり。それも大人の背よりも高い位置。
それなりに古そうだし、補修もされているようだがかなり目立っている。
もしかしなくても魔物の襲撃跡だろうか。こわすぎぃ!!! ベッセル村の周辺では大きくても熊系の魔物ぐらいしかでない。いやそれも充分ヤバいと思うけど、ここまででかくはない。
えぇ……この辺なにが出るんだろ……。ハル兄ちゃんの結界なしで野営とか絶対したくない。
「ロクソンへようこそ!お祭り、楽しんでね」
人知れずビビっていると、チェックが終わったのかお兄さんが俺に向けてそう言った。
そうだった! 祭りに来たんだ! この場にいない獣にビビってる場合じゃない!
「うん! ありがとう」
俺はお兄さんに礼を言う。
来たからには楽しんで、留守番組にお土産持って帰らないと。馬車はゆっくり進み始めた。
門を潜り、目に映るのはとにかく建物! 淡い色合いの煉瓦でできた建物が建ち並んでいる。
大体は二階以上の作りで、遠くの方には五階建てぐらいの建物が見えた。洗濯物や何やら植物を干しているので集合住宅なのだろう。すげー。今世でアパート初めて見た。
町のそこかしこには青や白の布やら花やらの飾りが施されている。実に爽やかだ。
建物同士をゆるく紐で繋ぎ、飛行船形にカットされた青や白に染めた半透明アクリル板のようなもの(正確には硬化スライム素材)が吊るされている。それらは日の光を受けてキラキラと輝き、地面に青と白の色を映していた。
「きれー。あれなに?」
俺は飾りを指差し、父に訊ねる。父はちらりとそちらに眼をやり「ああ、あれか」と口にした。
「記念祭の期間中は空の色と雲の色をイメージした飾りつけがされているんだ」
飛行船のお祭りだからな、と父は続ける。なるほどー。
ここまで大々的ならかなり人が多くなるのではないだろうか。そういえば宿とか馬車とかどうするんだろう。今から借りられるのかな。
「馬と荷台はどうすんの?」
そう訊ねると、今度は兄が教えてくれた。
「馬繋場と荷台の預け場があるんだよ。当日だと料金凄く高いし取れるか微妙だけど、俺たちは随分前からベッセル村名義で予約いれてるから大丈夫」
曰く、予約なしだと通常料金の倍はかかるらしい。予約していると1.5倍程度。安くても1.5倍なのは繁忙期価格ってやつだ。
今後自前の馬車旅なんてすることないだろうけど勉強になる。
なお、ベッセル村においてこういった経費は旅のメンバーで割るらしい。今回だと7人で割ってそれぞれ負担。うちは父が四人分出すことになる。
このまま町の城壁沿いにある馬繋場へ向かい、預けて解散の流れだ。そして、明々後日の早朝に集合してここを発つ予定となっている。
馬繋場についたら全員降りて、父が手続するのを見守った。
馬繋場は屋根がついているだけのガレージみたいなものを想像していたが、牧場とかにあるような小屋だった。所謂厩舎である。長期預かりも想定してこの形なのかもしれない。知らんけど。
「どこに泊まるの?」
同じく隣で待っているリヒト兄ちゃんに訊ねる。リヒト兄ちゃんは去年から同行していることだし知っているだろう。
「父さんの友達がやっている宿……とは違うかな? 貸し部屋を借りるんだよ。ベッセル村でも旅人には村長の家の離れを貸すでしょ? あれに近い感じ」
「へー。稼ぎ時に貸してくれるなんて優しいね」
民宿とかウイークリーマンションとかみたいなもんだろうか。貸主の住む家の一部か、独立したタイプかで違ってくるだろうけど。前者ならベッセル村と同じ民宿タイプとなる。どうでもいいけど民宿ってハードル高くない?
今回みたいな友人知人経営じゃない場合、食事が他の客やオーナーと同席タイプだったら気まずいなって思ってしまう。前世で利用していたのは大体ビジホかシティホテルだった。
「そうだね。普通の宿屋だとこの時期高いのに、通常価格で貸してくれるんだって」
詳しいなリヒト兄ちゃん。そして父や兄が嫌な意味での友達価格派じゃなくてちょっと嬉しくなった。
「あっ。もしかしてリヒト兄ちゃんの文通相手の家?」
去年から始まった兄の文通。知り合う機会があるとすればここだろう。
リヒト兄ちゃんは「そうだよ」と頷いた。
「男? 女? 何歳ぐらい? ……虫は平気?」
村の外の子供の存在に興味が出て、俺は思わず次々と質問を浴びせる。
村の子供は大体虫に強く、俺を揶揄ってくるような奴もいる。転生者であるため自分の精神年齢は高いほうだと思っているが、それでも揶揄われるのは好きじゃない。
「女の子だよ。ルディより二歳上だったかな。……虫は平気みたいだけど、揶揄うような子じゃないから大丈夫」
揶揄われたら嫌だなぁ……という俺の心配はお見通しだったらしい。
「きっと仲良くなれるよ」
リヒト兄ちゃんのその言葉に、俺は『そうだといいな』と思った。
よくよく考えればリヒト兄ちゃんと一年近く文通している相手である。しかも返事が届くときにはいつも嬉しそうに受け取る。嫌な奴であるはずがない。
手紙の内容は知らないし、本人に会ってみないことには何ともいえないが――未来の義姉になる可能性もある。
やばい。そう考えるとちょっとテンション上がってきた。
「すげー楽しみ!」
俺の言葉に、リヒト兄ちゃんは嬉しそうな笑みを浮かべた。
ぽ〇あポケ〇ンやっていたら大分間が明きました。
ちょっと短いけどキリがいいのでここまで。




