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数日が過ぎたが、姫様とアルベルト様は変わらずに我が家に居る。

姫様が居る生活もだいぶ慣れ、昼食とお菓子作りにはキッチンで私か母に教わりながら手伝ってもらっている。


お爺様と剣の稽古をしているアルベルト様はその後、私と一緒に鶏の世話や野菜を収穫したりなどして過ごし午後は、姫様を交えてお茶を飲む生活が当たり前になりつつあった。


アルベルト様は相変わらずかっこよくて、幻滅するところが一つもない。

惚れているからなのか、知れば知るほど好きになっていっている。

私も姫様のように叶わない恋愛をしているのではないかと不安になる毎日だ。


夏もだいぶ近づき、昼間は汗が滲むような暑さになった。


大きな籠を持っている私に気づきアルベルト様がペロを連れて声を掛けてきた。


「どこかへ行くのか?」


「裏山にエルダーフラワーの花が咲いているので収穫しようかとおもいまして」


「そうか、俺も行ってもいいか?」


当たり前のように私の横に並んで歩き始めたアルベルト様を見上げた。


「いいですけれど、ただ花収穫するだけですよ?」


「俺にとっては楽しいんだ。荷物持ちだと思ってくれ」


そう言って私の手から籠を奪って歩き始めた。

慌てて私も彼の後をついて行く。

獣道をアルベルト様と並んで歩く。

夏の日差しは熱く照らしているが木々の葉が遮っていて暑さは感じなかった。


「マリアンヌ姫様にお料理を教えているのですが大丈夫ですかね?お城では危ないからとやらせてもらえなかったと言っていましたけれど」


アルベルト様の顔を見上げて言うと、彼は軽く笑った。


「大丈夫だよ。城だと、コックが教えることになるだろ?面倒だからさ、そう言っていただけ。コックも暇じゃないからね。かといって新しく人を雇って教えてもらうって言うのも大変だし。お付きの侍女の達もそれなりの貴族だから料理なんてしたことないからそう言っているんだよ」


姫様ほどの人になると下々の事情というものがあるようだ。

お城暮らしも私が思うよりはるかに窮屈な世界なのだろう。

恋愛も自由にできず、やりたいこともできない姫様が少し可哀想になった。


「まだ上まで歩くの?」


「はい、近所のおじいさんがちょっとした畑にしていて勝手に取っていいよって言ってくれるんです」


しばらく歩くと、白い花や紫色の花達が一面に咲いている場所へと辿りついた。

山の中の少し開けた場所は村のおじいさんがいろいろ手入れをしてくれているのだ。

白い花をつけたエルダーフラワーをもぎ取っていく。


「適当に切って籠に入れてください」


「わかった」


アルベルト様は私が花を採っているのを見て同じように取って籠に入れていく。


「これをどうするの?」


手を休めることなくアルベルト様が聞いてきた。


「花をシロップにします。ジュースにしたりハーブティーに入れたりすると美味しいんですよ」


籠がいっぱいになったところで私たちは花畑の端で腰を下ろした。

籠の中に入れていた水筒からカップに中身を注いでアルベルト様に渡す。

タオルで包んできたからまだ少し冷たい。


「これが今採った、エルダーフラワーのジュースです。去年作ったものですけれど」


「へぇ」


珍しそうにカップの中のジュースを見て一口飲んだ。


「甘いがすっきりしていて旨いな」


「砂糖とレモンシロップで味付けしています。風邪とかアレルギーにいいらしいですよ」


「体にもいいなんて凄いな」


感心しているアルベルト様は二杯目もすぐに飲み干した。

私たちが座っている場所から村を見下ろすことができた。

家と、畑が広がる自慢の村だ。

山が重なりその奥、遠くには海が見える。


「いい天気だな」


アルベルト様はペロを撫でながら呟いた。


「そうですね」


青い空に白い雲がゆっくりと流れている。

隣に座るアルベルト様をそっと見た。


「ここは落ち着くなぁ」


アルベルト様は大きく伸びをするとそのまま横になってしまった。

金色の髪の毛が風に揺れて目元に前髪がかかっている。

邪魔じゃないのだろうかと思わずアルベルト様の前髪に手を伸ばして撫でつけてしまい慌てて手をひっこめた。


「すいません・・・目にかかって邪魔じゃないかなと・・・」


「ありがとう」

アルベルト様は口元に頬笑みを浮かべ私を見て、そしてまた空を見た。

「夏の雲だね」


「そうですね」


ゆっくりと動いている入道雲を見ながら私も頷いた。




「さ、そろそろ帰ろうか」


しばらく寝転がっていたアルベルト様は起き上がって軽く服に着いた土を払って私に手を差し伸べる。

驚いて見ている私に、アルベルト様は右手を差し出したままだ。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


アルベルト様の右手に私の手を重ねると力強く握り返されゆっくりと起こしてくれる。

少し気恥しかったが、アルベルト様は慣れているのかいつもと変わらない。

姫様のエスコートをしているのだから当たり前かと思うが私の手を放さず歩きだした。


「足元が危ないのでエスコートをさせていただきます」


戸惑う私にアルベルト様は恭しく頭を下げた。


「はぁ」


恥ずかしくて反応が出来ずにいる私の手を握ってアルベルト様は歩く。

この山は一人で何度も来ているので慣れているのだがそれを言うと繋いでくれている手を放されそうな気がしてそのままアルベルト様と手を繋いで歩いた。

ペロが私たちの前を嬉しそうに歩いていた。



山を降りて屋敷に近づくと門の前に人が立っているのが見えた。

アルベルト様と同じ騎士服を着ている大柄の男の人だ。


「バイウェイ隊長!」


アルベルト様が大きな声で呼ぶと私たちに気づき大きく手を振ってきた。


「アルベルト・・・お前、姫様の護衛は?」


私たちの繋がれた手を見てバイウェイさんは低い声を出した。

アルベルト様より頭一つ大きな背のバイウェイ隊長は存在だけで威圧的だが声も低くかなり怖い。

顔つきもかなり厳ついので騎士服を着ていなければどこのゴロツキだろうかと思ってしまう。


「アローム殿が居るお屋敷の中で危険もないですよ。心配なら隊長がお守りすればいいと思いますが」


アルベルト様が平然と言うとバイウェイ隊長は眉間に皺を寄せた。


「・・・状況は変わりないか」


「全く変わりありません。あ、姫様が誰かさんの為に料理を習い始めました」


「・・・変わりがないならそれでいい。また来る」


何か言いたそうにしていたが、諦めて馬の手綱を握って屋敷に背を向けた。


「あれ、会っていかれないんですか?姫様の護衛騎士隊長なのに」


私も心の中で姫様に会ってあげてと念じた。

せっかく来たのだから顔ぐらい見せてあげれば姫様も喜ぶに違いない。


「・・・俺に会う資格は無い」


「資格ねぇ」


アルベルト様が呟くと玄関が騒がしくなり、マリアンヌ姫様が小走りに出てきた。


「バイウェイ!」


世界一美しいと言われている姫様はバイウェイ隊長を見て微笑んだ。

恋する乙女の顔をした姫様が美しくて私もドキドキしてしまう。

バイウェイ隊長は表情を変えずに姫様に騎士の礼をした。


「お久しぶりでございます。お変わりなくお過ごしで何よりです」


「バイウェイ・・・そんな畏まらないで・・私悲しくなってしまうわ」


顔を曇らせて下を向いてしまった姫さまにバイウェイ隊長の表情は変わらない。


「私はただの護衛騎士ですので」


そう言ってまた頭を下げるバイウェイ隊長を姫様は残念そうに見つめている。


「あの二人はいつもあんな感じなんですか?」


バイウェイ隊長の態度を見ていると姫様が結婚したいという気持ちになったのがさっぱりわからない。

見た目もゴロツキみたいだし、専属の騎士にしては他人行儀すぎる。

私は隣に立っているアルベルト様に囁いた。


「うーん。もう少し打ち解けている二人だったけれど、今回の件で隊長は一線を引いた感じだね」


アルベルト様も小さな声で教えてくれた。

落ち込む姫様と無表情のバイウェイ隊長。

それを見守る私とアルベルト様。

何とも言えない空気が流れていると、お爺様が剣を担いでやってきた。


「おう、バイウェイ。せっかく来たんだ。お茶でも飲んで言ったらどうかね」


「アローム様、ご挨拶が遅れ申し訳ございません。今回はご迷惑をおかけしております」


「気にするな。我が家ほど安全な場所もあるまい。アルベルト君が居ると剣の稽古もできてわしは嬉しい」


カラカラと笑うお爺様にバイウェイ隊長はまた頭を下げた。

お爺様のことは断れないらしくバイウェイ様は諦めたように屋敷に中へと歩き出した。

姫様は明るい表情になり、バイウェイ隊長の後ろを付いて歩く。




バイウェイ様を客間にお通し、姫様と私はキッチンへと向かった。

「どうしても昨日作ったチェリーパイを食べてもらいたいわ」

顔を赤らめている姫様に私と母はあまりの可愛さに目を細めて頷いた。


「どうせならお茶もお入れしてあげたら?」


母の提案に姫様はパァッと明るい顔をした。


「チェリーパイに合うハーブをブレンドしましょうか」


私が言うと姫様は首を振った。


「バイウェイはハーブティー嫌いだと思うの。普通の紅茶がいいかもしれないわ」


「わかるわ。慣れないと臭いもの」


母の言葉は無視して、私は最高級の紅茶の茶葉を出した。

これならばお城にも引けを取らないだろう。

姫様は思いを込めて紅茶の茶葉をティーポットに入れてお湯を注いだ。

懐中時計をセットしてワゴンに乗せる。

何度か紅茶を入れる練習はしたので大丈夫だとは思うが心配だ。


「大丈夫ですか?私が運びましょうか?」


ワゴンを倒したらと心配する私に姫様は首を振った。


「大丈夫ですわ。バイウェイに最初から最後までお世話したいの」


「わかりました。お気を付けて」


私と母が見守る中、ワゴンを押してキッチンを出ていきゆっくりと客間に入っていった。


「ちゃんとできているか心配」


姫様が消えた客間のドアを見ながら言う私に母はもどかしそうにしている。


「それより、様子を見たいわね。バイウェイ君、姫様を避けているわよね」


「他人行儀なほどだった。前は違う感じだったみたいだけれど・・・」


「姫様と頼れる騎士ぐらいの仲だったと思うけれど」


いつの間に来たのかアルベルト様が後ろに立っていた。


「二人は、くっつきそうなの?」


ズバリ聞く母にアルベルト様は首をかしげる。


「どうですかねぇ。隊長の様子では無理でしょうね」


「あんなに綺麗な姫様に恋をされたら私だったら直ぐにお付き合いしてしまうけれど」


美しい姫様を思い浮かべて言う私にアルベルト様は肩をすくめた。


「好みは人それぞれだからね。俺は姫様好みじゃないな」


「変わってますね」


「そうかな?」


アルベルト様は面白そうに私を見て笑った。


バイウェイ様はチェリーパイを食べ、姫様が心を込めて淹れた紅茶を堪能して帰って行った。

同席した祖父曰く、姫様が一方的に話してバイウェイ隊長は終始無表情だったとのことだ。

それでも、チェリーパイと紅茶は美味しいと褒めてもらい姫様は泣いて喜んだらしい。

人様の恋に口を挟むわけにもいかず私たちは黙って見守るしかない。

姫様には幸せになってもらいたいが、バイウェイ様の気持ちを考えると姫様の気持ちに答えられないのもわかる。

アルベルト様と手を繋いで歩いた時間は私も幸せだった。

姫様もほんの少しでも好きな人とお茶をすることができて幸せを感じられたのなら良かったと思った。




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