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翌朝、いつも通り日の出とともに起きる。
変わりない朝だが、昨日姫様達の急な来客により疲労はまだ残っている気がしたが気合を入れて身支度をしてキッチンへと向かった。
アルベルト様が居るから少しでもいいワンピースを着て少しでもおしゃれをしようかと思ったが今更だなと思って普段通り少しくたびれたワンピースにした。
いつもは私より少し遅く起きてくる母が既に朝食の準備を始めていた。
「おはよう。早いね」
「おはよう。姫様達が来て気を使っているのかしらね。良く寝れなかったわ」
「気分が落ち着くハーブティーをブレンドしようか?」
私が提案するが母は顔をしかめている。
「あの草たちちょっと臭いのよね」
ハーブティーが苦手な母には不評だが、私のブレンドしたお茶は母以外には好評だ。
「鶏の餌あげてくる」
いつも通り、水を入れたバケツと籠を持って鳥小屋へと向かう。
剣がぶつかり合う音が聞こえて草むらをかき分けて覗く。
お爺様とアルベルト様が剣をぶつけ合っていた。
私の姿に気づくとお爺様が笑顔で挨拶をしてきた。
「サラ!おはよう」
「おはようございます、お爺様。良かったですね。剣の稽古相手が見つかって」
「うむ。我が家で剣の稽古をする相手がいるとはすごく嬉しい」
「俺も、アローム殿に稽古をつけてもらえるなどありがたい事です」
汗を拭きながらアルベルト様はキラキラした笑顔で私とお爺様を見た。
朝からなんてカッコいいのだろうとアルベルト様の顔にくぎ付けになってしまう。
「鶏小屋に行くのか?」
アルベルト様は私の手に持っている籠を見て言ったので私は頷いた。
「はい」
「俺も行っていいだろうか」
「どうぞ。ただ餌を上げるだけですけれど」
「アローム殿、訓練ありがとうございました」
アルベルト様は綺麗に頭を下げて、剣を鞘に収めた。
「いや、わしも楽しかった。また明日」
「はい」
明日の約束もこぎつけてお爺様はニコニコしている。
アルベルト様はさりげなく私が持っていたバケツを手に取ると歩き出した。
後ろからペロが嬉しそうに後を付いてくる。
「ペロ、すっかり懐きましたね」
「昨日は一緒の布団で寝たんだ。犬は可愛いな」
ジャンプをするペロの頭を撫でながらアルベルト様は優しい顔をしている。
「ちなみに猫も居ますよ」
「なんだと!猫は見かけていないな」
触りたくて仕方ないとあたりをキョロキョロしているアルベルト様に私もあたりを見る。
「猫は気まぐれですからね、お爺様のお布団には入りに行くみたいです。あとペロが良く手を出して猫が嫌そうにしているのを庭で見ることが多いですね」
「間違いなく可愛いだろう。その光景を見たいなぁ」
鶏小屋に着くと、アルベルト様が嬉しそうに鳥小屋を覗いている。
「水と餌をあげたら卵を回収して籠にいれていただけますか?」
「まかせてくれ」
何が嬉しいのかアルベルト様はニコニコと笑みを浮かべて鶏の世話をし始めた。
彼の後姿を眺めながら鳥小屋の掃除をする。
「回収できた」
「ありがとうございます」
嬉しそうに卵を見せてくるアルベルト様は少し可愛い。
「あとは畑に水をあげますけれど一緒に行きます?」
「もちろんだ」
なぜか嬉しそうにアルベルト様は畑までついてきた。
バケツに水を汲んで一緒に畑に水を撒く。
「これはハーブだろう?ミントかな?」
ただの草にしか見えないと言われるミントを指さすアルベルト様。
「凄いですね、草に見えません?」
「薬草に興味があって、ハーブもその一環だろう?」
確かにそうかもしれないと頷く。
「いつか庭がある家に住んだらハーブを育てて自分のブレンドティーを作るのが夢だったんだ」
少年の様に語るアルベルト様。
「意外です。お爺様は剣の稽古ばかりで薬草など興味ないから騎士ってそんなものかと思っていました」
「俺ぐらいだと思うけれどね。昔爺さんの家で野菜をそだてたりしていたんだ。摘んでいく?」
聞かれて私は頷いた。
「ミントとレモンバームを摘んでいきましょうか。今日のおやつの時間に飲みましょう」
「楽しみだな」
アルベルト様はしゃがんで、長い指でミントの葉を摘んで籠に入れて行く。
ペロも撫でてほしいと足元に来るのでアルベルト様は撫でながらもハーブの葉を摘んでいく。
「こういうのを幸せというのだろうなぁ」
犬を撫でながらしみじみ言いうアルベルト様に私は首をかしげる。
「そうですか?ずっといると田舎すぎて嫌になるかもしれないですよ」
「そうか?俺はこういう生活が好きだな」
王都の華やかな暮らしの方があっていそうな顔をしているのに、こんな田舎がいいなどと変わっている。
きっと日々の忙しさに疲れているのだろう。
少しのんびり過ごせば王都の暮らしが恋しくなるに違いない。
私は微笑んで庭を見ているアルベルト様にそれは良かったと私は頷いた。
回収したばかりの卵をもってアルベルト様とペロと一緒に屋敷へ戻る。
客間にはすでに、しっかりと身支度をした姫様とお爺様がソファーに座って談笑しているところだった。
そこへ、アルベルト様も加わったため私はキッチンへと向かう。
「アルベルト様が一緒に卵の回収してくれたのよ」
「あら、良かったわね。朝からイケメンとお話しできるなんて幸せねぇ」
憧れのアルベルト様と長くお話しできたことは嬉しい。
「そうね。嬉しかったわ」
「ウチにお婿に来てくれたいいのに」
ワゴンに朝食を乗せながら言う母に私は苦笑する。
「こんな田舎には合わないわよ。今は物珍しいから手伝ってくれているけれどそのうち飽きるわよ」
きっと今だけだと自分にも言い聞かさせる。
「長く居てほしいわよね」
生まれてからずっとこの家にいる母は王都暮らしに憧れはあるらしく田舎にずっといられない人の気持ちは判ると頷いている。
「お爺様みたいに王都とウチを往復するって言うのもありだと思うけれど・・・」
私が呟くと母は目を輝かせた。
「そうよね、お父様は騎士をやりながらウチから通っていたわけだからできないことは無いわよね」
「いくら私やお母さまが婿にと思っても相手がその気にならないと無理なんだけれどね」
姫様とバイウェイさんの事を思い母と私はため息を付いた。
「急に姫様の気持ちがわかるわ。絶対に結婚するなんて無謀だと思っていたけれど頑張っているだけ偉いわね」
私が言うと母は頷いた。
「そうね、初めから無理というのはダメよね。私もアルベルト君に気に入られるように頑張るわ。婿に来てくれるようにオーガスにも言っておくわ」
オーガスとは私の父つまり母の夫だ。
ワゴンに朝食を乗せて客間に行くとなぜかアルベルト様がお茶を配って歩いていた。
お爺様もお父様も気が利かないので結局アルベルト様がやっているのだろう。
「すいません。アルベルト様」
慌てて謝るとアルベルト様は嫌な顔一つせずに私の席にもお茶を置いてくれた。
「お茶を入れるのは得意なんだ」
「はぁ、そうなんですね」
何と答えていいか分からず頷いて、ワゴンから食事をとって並べるとそれすらアルベルト様は手伝ってくれる。
驚いている私と母を見てアルベルト様は肩をすくめた。
「寮暮らしが長いからこういうのも慣れているんですよ」
そう言ってスマートに姫様の前に食事を並べた。
「ありがとう。アルベルト」
「どういたしまして」
背筋を伸ばして座ってお礼を言う姫様と胸に手を当てて頭を下げているアルベルト様も恰好は普段着なのに姫と騎士に見えて感動してしまう。
「凄い、本当の姫様と騎士って感じですね」
「本当の姫様とその護衛騎士だからね」
物静かな父がボソリと言った。
「お爺様もアルベルト様のように護衛騎士だったのでしょう?こんな風にカッコ良かったのかしら?」
私が言うと祖父は鼻を鳴らした。
「当たり前だ。あまりにもカッコよすぎて女性が列をなしていたわ」
嘘くさいと思ったが感心したように頷いておいた。
今日の朝ごはんは取れたての卵を使ったスクランブルエッグとサラダとパン。
それとかぼちゃスープだ。
今日も姫様は美味しいと言って残さず食べてくれた。




