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少し気まずい夕食が終わり、後片付けをしてあとはおフロに入って寝るだけだと一息ついて、ふと姫様は大丈夫だろうかと心配になった。
「お母さま、マリアンヌ姫様大丈夫かしら。侍女の方も居ないし一人でお風呂とか支度できると思う?」
お茶を飲みながら一息ついている母はしばらく考えている。
「・・・大丈夫でしょ。普通の家にお嫁に行きたいのだからそういう準備はしていると思うわよ」
「ちょっと様子を見てくる」
心配になって台所から出て廊下を歩いているとアルベルト様が前から歩いてくるところだった。
「サラ殿、夕ご飯はとても美味しかった」
「ありがとうございます」
笑顔で言われるとうれしさが倍だ。
アルベルト様の手には本が数冊あり私に見せるように持ち上げた。
「アローム殿から借りてきた。剣術の本と農業の本だ」
「剣術はわかりますけれど、農業?」
首をかしげる私にアルベルト様は頷く。
「興味があるんだ。いい機会だから少し勉強しようかなと思ってな」
「そうなんですね。剣術はさっぱりですけれど、作物なら何でも聞いてください」
「頼もしいな」
「アルベルト様、姫様は侍女の方がいらっしゃらないでお一人で準備など大丈夫でしょうか」
不安に思っていることを言うと、アルベルト様は頷いてくれた。
「大丈夫だよ。あれだけ普通の家にお嫁に行きたいと何年も言っているからね。バイウェイ隊長と王に認めてもらおうと必死になって手伝いなしで暮らせるように頑張っているから」
ホッとしている私にアルベルト様は微笑んでくれる。
「サラ殿は優しいね」
「とんでもないです」
真っ赤になって否定する私の後ろからペロが飛び出してきてアルベルト様に飛び掛かった。
アルベルト様はペロを受け止めて頭を撫でている。
姿を見ないと思っていたらずっとアルベルト様と一緒にいたようだ。
「ペロ邪魔じゃないですか?」
「全く、ずっと離れないんだ」
嬉しそうに頭を撫でて言うアルベルト様。
「ベッドまでついて行きそうですね」
「一緒に寝てもいいのか?」
少年のような笑顔で言われて私まで幸せになってしまう。
「いつも私と一緒に寝ていますので大丈夫ですけれど、足を洗ってから布団にあげてくださいね」
「わかった。ペロ、今晩は俺と一緒に寝ような」
嬉しそうなアルベルト様に答えるようにペロもワンと吠えた。
ペロを連れたアルベルト様と別れて、大丈夫だと言われたけれど心配なので姫様の部屋を訪れることにした。
軽くノックをすると、まだ起きていてくれたようで返事ともにドアが開かれた。
「マリアンヌ姫様、なにかお手伝いしましょうか?」
「大丈夫よ。ありがとう」
「明日の朝も大丈夫ですか?お風呂とか入れます?」
余計なお世話かと思ったが、心配で聞いてしまう私に姫様は気品ある笑みを浮かべて頷いてくれる。
「大丈夫よ。ちゃんと一人で着替えもできますし、お風呂なども心配ないわ」
「それは良かったです。お茶をお持ちしたのでお入れしますね」
「ありがとう」
持ってきたポットを部屋のテーブルに置いてお湯を入れる。
カモミールとレモンバームの中心のハーブティーだ。
「数分置いてから飲んでくださいね。気分が落ち着いてよく眠れると思いますよ」
ソファーに座る姫様に言うと優雅に頷いてくれた。
ただ座っているだけなのに、気品と漂うオーラはやはり普通の人と違う。
我が家に場違いな美ししい顔を見ているとため息が出てしまう。
隣国の王子が結婚を申し込むのも理解できる。
「サラは何でもできて羨ましいわ」
姫様が寂しそうに私を見て言った。
「そうですか?生活をするために仕方なくって感じですけれど」
「サラだったらバイウェイも結婚をしてくれたかしら」
「どうでしょうか。姫様はバイウェイ様が本当に好きなんですね」
私が姫様だったら、前の奥さんを忘れられないと言う人と結婚しようとは思わない。
そこまで人を好きなるなど凄いことだ。
「大好きよ。彼以外考えられないわ」
「姫様がそこまで一人の人を想うことを私は羨ましいと思いますよ」
私がそう言うと、すごくうれしそうに笑ってくれた。
「私、料理の勉強をしようと思うのだけれど教えていただけるかしら」
「いいですよ。朝は忙しいので昼とお菓子作りでも一緒にしましょうか」
少しでも姫様の力になれるならと頷く私に姫様は両手を胸の前に組んで私を見上げる。
「ありがとう、私には必要ないと言われて誰も教えてくれなかったの・・・」
もしかして、手を怪我するからや手が荒れるなどの理由から禁止されているのだろうか。
不安になるが約束をしてしまったのでもう断れないと腹をくくる。
一応明日、アルベルト様に確認をしよう。




