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母と二人で姫様とアルベルト様が滞在する部屋を掃除して、洗ったばかりのシーツをベッドにかけた。
何とか部屋へ案内できる状態になり、夕食まで部屋で休んでいただいている。
クタクタになりながらも夕食は何にしようかと考えていると玄関ホールでアルベルト様がペルの頭を撫でていた。
「可愛い犬だな。中型犬か?」
「はい、ペルです。家の中も外も自由に歩き回っているので、洋服が汚れてしまいますよ」
アルベルト様はいつの間に着替えたのか騎士服ではなく白いシャツに黒いズボンとブーツ姿だった。
「犬を飼うのは夢だったんだ。今は寮暮らしだから動物を飼うことは出来ないからなぁ」
アルベルト様に撫でられて気持ちがいいのかペルは横になってお腹を見せている。
ペルのお腹を容赦なく両手で撫でている。
「ご実家は遠いのですか?」
「兄夫婦が住んでいるから俺は邪魔だろう。両親が早くに亡くなってしまったから居づらくなり城の騎士寮に住んでいる」
憧れのアルベルト様の生活を知り感動をしながらもさりげなく、彼に近づいてペルの傍に私も座った。
「サラ殿とこうして話すのは初めてだな。いつも挨拶ぐらいだったから」
「そうですね」
初めて名前を呼ばれたとまた感動をしてしまう。
「姫様の我儘にも困ったものだ」
犬を撫でながらアルベルト様が言った。
「我儘ですか・・・」
「今朝突然、家を出ると言って馬車に乗ってしまって、俺が一人で護衛担当だった。他のものは席を外していて。慌てて付いてきたけれど、全て王はご存じだったわけだ」
「他の方は来ないのですか?」
「荷物を届けには来るんじゃないかな?俺以外は皆家族持ちだからなぁ。俺が泊まり込みでここにいれば問題ないだろう。アローム様もいらっしゃるし。賃金を沢山もらおうと思う」
アルベルト様からまさかお金の話が出るとは思わず顔を見てしまう。
整った顔がすく傍にあり、エメラルドグリーンの瞳が私を見ていた。
「まぁ、お金は大切ですよね」
思わず言ってしまった言葉にアルベルト様は笑った。
「そうだろ?ここはとても過ごしやすそうだし。しばらく休暇をもらったと思って過ごさせてもらおうかな。なんでも手伝うので言ってくれサラ殿」
「そんな・・・お客様に手伝ってもらうことなどありませんよ」
「それは残念」
アルベルト様は立ち上がって歩き出した。
「外を見回ってくる。特に立ち入り禁止区域などは無いよね?」
「ありません。あ、姫様とアルベルト様は食べられないものなどありますか?」
アルベルト様は立ち止まって少し考えて首を振った。
「俺は特にないけれど、姫様はどうかな?好き嫌いは無いはずだけれど。夕食はサラ殿が作るの?」
「はい、私と母で作ります」
「それは楽しみだ」
素敵な笑顔を残してペルと外へと行ってしまった。
「凄いカッコよかった・・・」
呟いて夕食は何にしようと困ってしまう。
豪華なものを作ろうかと思ったが後々大変なことになりそうなのでいつもと変わりないメニューにしようと思った。
「まぁ、すごくおいしいわ」
ハーブで焼いた鶏肉と、蒸したジャガイモにバターを乗せ、それとサラダとパンといういつもの我が家の献立に姫様は喜んで食べてくれている。
よかった、美味しいと言ってもらって。
城のコックが作る料理よりははるかに味が下がるだろうに姫様は嫌な顔一つせずに微笑んで美味しいと何度も言って食べてくれる。
「このハーブはここで育てているものか?庭に生えているのを見た」
アルベルト様が鶏肉を綺麗に切りながら言ったので私は頷いた。
「はい」
「この子、ハーブとか野菜を育てるのが好きで。最近は庭が凄いことになっているのよ」
母が言うとアルベルト様は感心している。
「なるほど、ハーブが入ると料理もおいしくなるからな。俺も庭があったら育てたいですよ」
「へぇ、アルベルト君興味あるのねぇ」
珍しそうに言う母にアルベルト様は頷いた。
「祖父が生きていたころは良く田舎に行っていろいろ育てて食べていましたから。もう屋敷もありませんが。今は寮暮らしなので何かを育てることもできません。興味はあるんですがね」
「あらぁ、いい事よ。私もお父様も農業なんて興味なかったけれどサラが凝っちゃって。でもハーブを使うようになってから料理の幅が増えたわね」
「草などどれも同じようにしか見えない」
祖父がワイン片手に言うと姫様も頷いている。
「わかりますわ。薬草なのか、食べられるものなのか勉強しても理解できませんもの」
「マリアンヌ姫様は、そういう知識は必要ないのでは・・」
料理を出してくれるコックが居る生活をしているのだろうから。
そういう生活に憧れるが姫様は首を振った。
「いいえ、私は料理も覚えないといけないのです。バイウェイは普通のご家庭ですもの。私が料理を覚えてお子様にふるまわないと・・・」
「えっ?普通のご家庭?どういう事かしら?」
詳しく知りたいという母は顔を輝かせて姫様の方に身を乗り出した。
姫様のお相手のことが少しでも知りたいらしい。
私も興味はある。
「バイウェイ隊長は剣一本でのし上がってきた人なんですよ。貴族でも何でもない普通のご家庭で育って、前の奥様も普通の方らしいですよ」
アルベルト様がパンをちぎりながら言った。
「あー・・・」
母が言葉を失ったように私を見てから祖父を見た。
確かに身分が無いそれも子持ちが姫様と結婚するのは難しいだろう。
「今も、普通の家に住まれているんですか?」
私が聞くとアルベルト様は頷いた。
「隊長まで上り詰めたから給料が良くなったから家は買ったみたいだけれど、子供たちは家政婦さんを雇って昼間見てもらっているらしいよ」
「へぇ・・・そうなんですね」
聞けば聞くほど、姫様とは合わない気がする。
姫様もどこに惚れたのだろうかと不思議になってしまう。
「恋するのは自由ですしね」
苦し紛れに言った母の言葉に祖父も頷いた。
「そうだな。身分は何とでもなるだろう。誰かの養子にはいるとか、一代限りの伯爵の身分を与えるとか」
「あぁ、隊長そういうの大嫌いだから断るでしょうね」
アルベルト様がきっぱり言うと、夕食を食べていた私たちは一瞬シンとする。
やはり姫様がいくら望んでも結婚なんてできるはずがないと家族全員が思ったに違いない。
「お互い愛し合っていれば身分なんて関係ないわよね」
冷や汗をかきながら言う母にアルベルト様が追い打ちをかける。
「バイウェイ隊長が姫様に気があるかどうかは誰もわからないんです。愛しているのは、亡くなった妻だけだ!って毎日言っていますよ」
にこやかに言うアルベルト様にマリアンヌ姫様は俯いてしまった。
「確かにバイウェイはそう言っているけれど、私は彼のことが好きなのよ」
「好きでいるのは自由ですけれど他人に迷惑をかけないでほしいですね」
もしかしたら二人は仲が悪いのではないかと思えるほどの険悪な雰囲気に母が渇いた笑いを上げる。
「何とかなるわよ。前途多難そうだけれども・・・」
「そうだといいですけれどね」
アルベルト様が頷いた。




