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「急にマリアンヌ姫様がお越しになるなんて・・・準備何もしていないわよ」
母のロレーヌが茶器を用意しながら文句を言っている。
王家が家に来ることなど初めてで、おもてなしができるような家ではないのだ。
お金がないとかではなく、迎えする準備をしていない。
家の中で一番見栄えがする茶器を棚の奥から出して洗い乾いた布で拭いている。
マリアンヌ姫様とアルベルト様は客室にお通しして、祖父と父が相手をしている。
家の中の事はほとんど私と母あとは通いで来ているお手伝いさんでやっているため急な来客は大変困る。
「お姫様、凄く綺麗だったわね。さすが世界一綺麗な姫といわれているだけあるわ」
姫様の綺麗さを思い出しうっとりしている私に母は頷いた。
「パーティーでお見掛けしたことはあってもお近くでしっかり見ることはないものね。意外と気さくでいい方そうだったわね。・・・・駆け落ちしてきたらしいけれど?」
「違うらしいよ。お二人は気があるわけではなくて、姫様がバイウェイ?って人と結婚できないから家出をしてきたって言ってたよ」
私が言うと母がニヤリと笑った。
「あー!聞いたことあるわ。バイウェイって人は姫様の護衛騎士の隊長さんよ。昔、ウチに何度か来たことがあったわ。普通のいかつい感じのおじさんって雰囲気だった気がするわ。・・・人の趣味ってわからないものね、お母さんだったらアルベルト君にするわ。かっこいいもの」
「バイウェイさんは見たことが無いけれど、私もアルベルト様はカッコいいと思う。あんな方と結婚出来たら幸せだろうなぁ」
ティーポットに紅茶の葉を入れて、摘んだばかりの薔薇の花を入れる。
沸いたお湯を入れるとバラの花の香が漂ってきた。
「ウチの領地には居ないぐらいの美形よね。私もアルベルト君みたいな息子が出来たら嬉しいわぁ・・・。サラちゃん、前向きに考えてみたら?」
「えっ?」
母親の爆弾発言に目を丸くして驚いてしまう。
「無理よ・・・可愛くもない普通の私をアルベルト様が気に入るはずないじゃない」
「世界一美しい姫様の傍にいても惚れないアルベルト君の趣味は案外地味な子が好きなのかもよ。大丈夫よ、サラ」
全く慰めになっていない母の言葉に落ち込んでしまう。
美人だとは思ったことは無いが、まさか親から地味な子だと思われていたとは。
「・・・お母さま、私のこと地味だって思っていたの?」
「え?地味でしょ?王都いる貴族の娘たちと違うじゃない。綺麗なドレス着て過ごして、午後はアフタヌーンティーを飲んで噂話をする生活をあなたはしていないでしょう!」
「田舎暮らしでは無理でしょ」
「田舎暮らしでも、派手な子は居るわよ」
茶器をワゴンに乗せて客間へむかった。
客間では、お爺様とお父様が並んで座りその向かいにはマリアンヌ姫様が背筋を伸ばして座っている。
アルベルト様は姫様の後ろで手を後ろに組んで立っていた。
私たちが入っていくと姫様はにっこりと微笑んだ。
あまりの美しさにボーっとしながらティーポットからカップに注いでテーブルの上に置いた。
「つまり、姫様は護衛騎士隊長のバイウェイ・ウィルソンが結婚してくれないから腹をたてて、アルベルトと駆け落ちして我が家に来たで間違いないですかな?」
お爺様が確認するように言うと、マリアンヌ姫様が頷いた。
「そうですわ」
「違います、駆け落ちでは無く、姫様の家出です。俺は巻き込まれただけです」
後ろに立っていたアルベルト様が姫様を睨みながら言った。
お茶を配っていた母が何かを思い出して声を上げた。
「あっ!思い出した!バイウェイ君って確かお子様居なかったかしら?」
思わず声が出てしまった母が慌てて姫様を見て口をつぐんだ。
まずいことを言ってしまったと姫様を見るが、微笑んで頷いている。
「はい。可愛らしいお子様がお二人いらっしゃいますわ。私はそれも含めて愛しているのです」
「えっ?奥様は?」
思わす口に出てしまった私の言葉にも姫様は優しく微笑んで答えてくれる。
「奥様は残念ながら3年前に亡くなられてしまったのです」
「そ、そうなんですね。ならまぁ・・」
奥様が居ないのならいいのではないかと頷く私に、祖父と父が余計なことを言うなという視線を向けてきた。
もう何も言いませんと軽く手を振って答え、私は一番遠いソファーに腰を掛ける。
姫様がバイウェイさんを愛していても、バイウェイさんは普通に亡くなった奥様を愛していたら結婚はありえないのではないだろうか。
姫様は家出をするほど好きでも、相手は亡くなった奥様を思っていたら間違いなく答えてはくれないと思うが、どうするのだろうか。
「私、バイウェイが結婚してくれる約束をしてくれるまでは帰りませんわ」
きっぱりと宣言するマリアンヌ姫様に父親の顔色が悪い。
それはそうだろう、ウチは姫様がお泊りできるような屋敷ではないのだから。
父は細々と目立つことなく生きていたいと言う人だ、姫様が我が家に来たこともストレスだろう。
この家に婿に来てから領地運営をがんばってやっていた父は私と同じく運動音痴。
祖父とその娘の私の母とは違うのだ。
父の気持ちが痛いほどわかり、祖父を見ると納得したように頷いている。
客間の扉がノックされて顔を出したのは通いで来ている執事のセバスだ。
祖父と同じく70歳を過ぎているセバスは腰が痛いのかゆっくりと歩きながら手紙をお爺様に渡した。
「早馬で着ました。城の騎士様はお帰りになりました」
「バイウェイだった?」
期待を込めた姫様の瞳にセバスは首をかしげる。
「違うと思います」
「そう、ありがとう」
がっかりしたように落ち込んだ姫様は紅茶のカップを手に取った。
「国王からだ」
「お父様から?」
まさかの国王からの手紙に私たちに緊張が走った。
手紙を読み進めて祖父はゆっくりと姫様とアルベルト様を見る。
「国王はすべて把握しているとのことだ。あとは隣国の王子がマリアンヌ姫に求婚してきているらしく断ることができる状態にないため、しばらく身を隠すのもいいだろうとのことだ」
「隣国の王子様から求婚?」
王子様から結婚の申し込みなどなんてロマンテックなのだろうと目を輝かせている私に姫様は冷めた目で私を見た。
「隣国の王子はフェル王子よね?」
「そうのようですな」
祖父が頷くと姫様は嫌な顔をする。
「あの人、大嫌いよ。好みではないわ。ナルシストで自分勝手で、愛人が20人居るらしいわよ。愛人との子供も5人も居るとかいう話よ」
「そうなんですか」
王子と言っても姫様の好みではなかったようだ。
愛人が20人もいるような人は私も嫌だ。
「国王はマリアンヌ姫が家出ではなくて、王子との結婚が嫌で側近と駆け落ちしたということにしておいてほしいとのことだ」
「はぁぁぁ?俺の名誉が傷つきます!」
アルベルト様が必死に言うがお爺様は軽く眉を動かしてニヤリと笑っている。
「そのまま結婚してもいいとのことだが」
「絶対に嫌です!好みではありません」
姫様とアルベルト様の声が見事に重なった。
アルベルト様も姫様もお互い結婚できないときっぱりと言っているのを聞いてうれしくて顔が笑ってしまう。
必死に無表情を装っていたが母がちらりと私を見て微かに笑っている。
「アルベルト君は恋人や婚約者はいるのかしら?」
「は?おりませんが」
「なら、いいじゃない。私たちは駆け落ちではないって解っているから」
母の言葉にアルベルト様が首を振る。
「姫様と同じようなことを言わないでください。俺の心が傷つきますし、兄上夫婦にも迷惑をかけてしまいます」
「まぁ、なんとかなるだろう。隣国の王子は今なんとか結婚を回避しようとしているらしいから」
祖父の言葉に姫様が頷いた。
「はい、お父様を信じます。あとは、バイウェイが私と結婚してくれれば家に帰ります」
一生我が家にいるのではと思ったのは私だけではないようで父と母がうんざりした顔をしていた。
それに気づかない姫様は紅茶を一口飲んで顔を輝かせた。
「まぁ、バラの香りがするわ。とても美味しい」
「ありがとうございます。先ほど摘んだばかりのフレッシュなバラですよ」
私が言うと姫様は美味しいとまた褒めてくれた。
世界一美しいと言う姫様でも意外と気さくで人間っぽいのだ。




