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フランソワの失恋

*これから数話は恋愛モード全開になります。胸やけしそうに糖度が高まる可能性がありますので、苦手な方はご注意下さい(#^^#)

*またフランソワ視点です。


俺がようやく公爵邸に辿り着いた時、辺りは既に夕闇に包まれていた。


門番に挨拶し、馬車が軽やかな音を立て敷地に入っていく。


ああ、もう我慢できない。


馬車が止まると俺はそこから飛び降りて、屋敷に飛び込んだ。


執事が目を丸くして


「フランソワさま・・・」


と俺を呼び止める。


「スズは!?スズはどこだ?彼女は大丈夫か?」


と俺が叫ぶと、公爵夫人のカロルが現れた。


「まぁ、フランソワ。お帰りなさい。無事で良かったわ。・・・スズに会うのは待ってちょうだい。あなたとまず話をしてからね」


という彼女に丁寧にお辞儀をしながら


「ただいま戻りました。・・・どういう意味ですか?スズに何かあったのですか?」


と答えた。


カロルの何とも言えない表情に俺の胸は不安で一杯になる。


「・・・スズは元気よ。呪いも無事に解けたわ。ただ・・・あなたのことは何も覚えていないの」


・・・・・・・・・・・は!?


もう一度言う。


・・・・・・・・・・・は!?


「・・・どういうことですか?」


抑えようとしても手が震えるのを我慢できない。


カロルがこんな冗談を言わないのは分かっている。


その時


「お祖母さま、何かあったのですか?」


という俺の恋い焦がれた声が聞こえた。


階段を軽やかに降りて来るスズ。


あぁ、人間に戻れたんだな。・・・綺麗だ。俺の記憶のスズより実物の方が遥かに美しい・・・。


ふうわりといい香りもする。スズの爽やかな香りを嗅ぐと体がゾクッとして、彼女を抱きしめたくて堪らなくなる。


ああ・・・スズ。愛してる。会いたかった。


ただただ溢れる万感の想いを込めてスズを見つめていると


「どちら様ですか?」


俺を見てスズが放った第一声に、俺は愕然とした。


「スズ!?俺が分からないのか?」


「申し訳ありません。どこかでお会いしましたっけ?」


俺は思わず乱暴にスズの手首を掴んでしまった。


「きゃっ」


と言うスズの瞳には怯えと戸惑いしか表れていない。


彼女の平坦な感情しか映さない熱を失った瞳に俺は衝撃を受けた。


その時、背の高い美丈夫が現れて、スズを引き寄せた。


スズが安心したようにそいつの顔を見上げる。その瞳には昔は俺に向けられていたような熱が籠っていて、俺の心はグサグサと傷ついた。


嫉妬で顔が歪むのが分かる。


こいつは何者だ!と顔を覗き込むと、どこかで見たような既視感を覚える。


「フランソワ。俺はセルジュだ。・・・俺も神龍の呪いにかけられていたんだ」


という声にも聞き覚えがある。


「・・・ほ、本当にセルジュなのか?神龍の呪い?どういうことだ」


「フランソワ。まず事情を説明するからこちらへ」


とマーリンは俺を別室に連れて行った。しばらくすると公爵夫人のカロルもやって来た。


そこで話を聞いた俺はあまりのことに頭を抱えた。


事実を理解はできたが、受け入れることが出来ない。


「・・・じゃ、じゃあ、スズは俺のことを・・・忘れるために?惚れ薬を飲んだのか?そして、セルジュ・・・今はマーリンか・・・マーリンと恋仲になったのか・・・?」


カロルが


「スズは子供の頃からずっとフランソワのことが好きだったのよ。あなたは、そんな彼女の気持ちをずっと傷つけてきた。少しは彼女がどんな気持ちだったか思い知るがいいわ」


と俺を睨みつけた。


「・・・スズが今も俺を好きでいてくれることは・・・知らなかった」


「嘘よ!あんなに感情が分かりやすい子はいないでしょう!?」


カロルは攻撃の手を休めない。


「・・・確かに、ちょっとは・・・期待していた部分はある」


「スズの気持ちに胡坐をかいて安心しきってたんでしょ!どうせこの女は俺に惚れてるから、どこにも行かないだろうとか。ホント馬鹿ね。あんなイイ子を放っておいたら、すぐに誰かに取られちゃうって思わなかったの?」


「・・・そりゃ、思ってた。だから、今回戻ってきたら告白してプロポーズするつもりだったんだ!」


俺の言葉にカロルもマーリンも疑わしそうに俺を見る。


「フランソワ、俺はスズがお前のせいで泣くのを何度も見てきた。そんな風に思ってるんだったら、どうして今まで何もせずに彼女を泣かせてきたんだ?」


マーリンの台詞に俺は何も反論できなかった。


「それにナターリヤ姫と口付けしてたんでしょ?スズがそれを見て、どれだけショックを受けたか分かってるの?」


「・・・・・・」


何も言えない。


俺は傲慢にもスズの愛情を当然と受け取っていた部分があった。それがどれだけ貴重で尊く、かけがえのないものであるかを分かっていなかったんだ。


失ってしまったスズの愛情を考えると気が狂いそうになる。


自分の馬鹿さ加減に呆れるしかない。


公爵夫人の怒りも尤もだ。マーリンにも反論できない。


・・・・それでも


「俺がどれだけ大バカ者だったか、分かっています。でも、それでも俺はスズを諦めたくない。俺はスズを愛しています。これからは絶対に彼女を泣かせるようなことはしないと誓う」


だから、解毒薬を・・・と言い終わる前にマーリンが冷たく


「惚れ薬はスズがどうしても飲みたいと言ったんだ。解毒薬も彼女が飲みたいと言わない限り渡すつもりはない」


と告げた。


・・・確かに、そうだよな。でも・・・


「・・・もし、俺が彼女を口説き落として、彼女がまた俺に好意を持ってくれたら・・・」


とマーリンの顔を見ると


「勿論、彼女が望めば、俺はいつでも解毒薬を渡すつもりだ」


と頷く。


「じゃあ、俺次第ということか」


「・・・お手並み拝見というところだな」


「マーリンはそれでいいのか?お前もスズが好きなんだろう?」


マーリンはしばらく黙って考えていたが


「ああ、俺もスズにずっと惚れている。だから、俺も全力を尽くすさ」


と挑戦的な表情でニヤリと笑った。


・・・くそ、美形め!


ま、負けられないと慌ててスズを探しに出ようとすると、カロルから


「まず、自分の部屋に戻って着替えて来なさい。もう夕食の時間はとっくに過ぎているのよ」


と叱られた。



夜遅くなった晩餐のテーブルは静かだった。


皆口数が少なく、カチャカチャというカトラリーの音だけが響く。


スズも俯いて、品よく食事をしている。


あぁ、可愛い。彼女は姿勢がいいから、凛とした一輪の百合の花のように見える。


俺の視線を感じたのだろう。スズがこちらを見て、曖昧に微笑んだ。


可愛い・・・が、明らかに社交辞令と分かる微笑みを返されて気持ちが落ち込んだ。


昔のような笑顔はもう見せてくれないのか、と思うと、胸が苦しくなる。


「・・・先ほどはすまなかった。怖がらせるつもりはなかったんだ。ただ、俺のことをすっかり忘れているというのがショックで・・・俺はフランソワだ。オデットの義理の弟にあたる」


「そうだったんですね。大丈夫です。どうかお気になさらないで下さい。お母さまの弟君でいらっしゃるのね。叔父様とお呼びすれば宜しいですか?」


というスズの言葉が俺の心を切り刻む。


マーリンは、惚れ薬の効能をスズに説明したから、昔彼女がフランソワという人間を好きだったことは知っていると言っていた。


だけど・・・今の彼女にとって俺は本当に単なる親戚の叔父さんなんだな、と泣きそうになる。


・・・今すぐ、記憶が戻ればいいのに。


7年前に時を戻せたら・・・。


もう一度、どうかもう一度、俺を見てくれないか?


どうして、もっと早く彼女に告白しなかったのか?


こんなに愛しているのに・・・。


切ない想いに俺の心は千々に乱れた。


自分の馬鹿さ加減に呆れる。過去の自分を殺してやりたい。


なに余裕ぶっこいてたんだよ!大バカ野郎!


何も返事が出来ない俺をスズは怪訝そうに見ていたが、再び明らかに義理と分かる愛想笑いを浮かべて


「叔父様はついさっきタム皇国からご帰国されたんですよね?タム皇国はいかがでしたか?」


と尋ねる。


「あ、ああ。訪問の目的は達成できたので良かったです。スズ・・・さんもタム皇国にいらしたんですよね?どう思われました?」


俺も一緒に滞在したんだ。彼女の中で記憶はどうなってるんだ?


「実は・・・タム皇国でのことは全てが曖昧で・・・あまり覚えていません。やっぱり猫だったからかもしれませんね」


・・・そうか。俺は失望した。


それでも


「大変でしたね」


とスズに声を掛けると


「ええ。でも、マーリンが助けてくれましたから・・・」


と彼女はマーリンと熱い視線を交わす。俺は嫉妬で叫びだしそうだった。


彼女の他人行儀な言葉遣いも、叔父様と呼ぶことも、マーリンへの愛情を露骨に示すことも、全て止めてくれ!と叫びたかった。


その度に心臓にナイフを突き立てられているように感じる。俺の胸からどくどくと血が滴り落ちるようだ。


しかし、元はといえば自分で蒔いた種だ。


自業自得といえば、これほどピッタリな状況もないな、と内心で自嘲する。


食事の後、俺は自室に戻りベッドに横になった。


子猫のスズと一緒にこのベッドに寝たことを思い出す。


あの時は幸せだったな・・・。


あの時、彼女が人間の姿だったら、と想像して、体がカッと熱くなった。スズは子猫でも堪らなく可愛くて、もう手放せないと思った。


スズ、恋しい。お前が愛しい。愛してる。だから、どうかもう一度チャンスをくれないか?


そう願いながら就寝したが、マーリンと微笑み合うスズの姿が何度も夢に現れて、ほとんど眠ることは出来なかった。


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