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動物大作戦!


翌日、私はトンボたちから得た情報を、何とかフランソワに知らせようと必死だった。


しかし、何をどうやっても伝わらない。


私の肉球ではペンを持つこともできないし、これだけ膨大な量の情報を書けるとも思えなかった。


せめて、セルジュの居場所だけでも伝えたいと思って、トンボと一緒に『付いて来て!』とジェスチャーしながら進もうとしたら、あっという間に抱き上げられ頬ずりされた。


そして、私を抱き上げた後、フランソワはトンボには全く関心を払わない。


猫好きじゃないんかい!?とツッコミを入れたくなるわ。



しかし、私が朝食の席でもパンを落とし、それをトンボがどこかへ運ぼうとしているのを見て、フランソワは思案気に顎に手を当てた。


「スズ・・・お前達は、どこかに食べ物を運んでいるのか?」


私はコクコクと頷く。


「誰かのために運んでいるのか?」


またコクコクと頷く。


「まさかと思うが・・・セルジュか?」


と聞かれて、ようやく通じた!とコクコクコクと何度も頷く。


フランソワは信じられないという表情で


「猫のトンボは・・・セルジュの居場所を知ってるんだな?俺をそこに案内してもらえるか?」


と言ったので、ようやく意を得た私はまたコクコクコクと頷いた。


トンボも同意して「にゃ~お」と鳴く。


「信じられない」と言いながらもフランソワは真剣な面持ちで、自分のカバンから武器やポーションなどを取り出して準備を始めた。


神龍から貰った鱗も取り出して「お守り代わりだな」と持って行くことにしたようだ。胸のポケットに大切にしまう。


準備万端整えて、いざ出陣、というところで突然ナターリヤ姫の部屋の扉が開いた。


女装していないフランソワは焦って隠れようとしたが、ノックもせずに開けたのはゼイゼイと息を切らしたジャックだった。


ちなみに姫は今日公務で留守である。


ジャックが


「ま、魔王の剣が・・・ぬ、盗まれた!」


と息を切らして訴える。


フランソワの顔色が変わった。


「なんだと!?剣はどこに?」


「皇帝は魔王の剣を自分の寝室に隠していた。皇帝の従僕が裏切ったんだ・・・」


フランソワの顔が焦りで歪む。


「・・・ジャック、俺は今からセルジュのところに向かう。恐らくフィリップは剣を手に入れてセルジュを切るつもりだ。剣を取り戻すならそれが最後のチャンスだろう」


「・・・・・は!?」


と絶句したジャックは悪くない。


簡潔に事情を説明すると、ジャックは私とトンボを交互に見つめて


「・・・猫がねぇ・・・」


と呆然と呟いた。


しかし、すぐに気を取り直して


「分かった。俺も一緒に行く!」


と意気込んだ。


フランソワは少し思案していたが、それが良策だと判断したのだろう。


黙って頷くとトンボに向かってお辞儀をしながら


「トンボ。手間をかけるが、案内してもらえるか?」


とお願いした。


「にゃ~あ(ついて来て)」と答えるトンボ。


トンボは隠し通路を通った方が近道だと言い、隠し扉のある壁をガリガリ引っ掻いた。


それを見てジャックが素早く扉を開ける。


どうか無事で!


そして、二人と一匹が消えた後、私には別な任務がある。


私はセミとアリと最終打ち合わせをした。


動物たちの情報網にはただただ驚かされる。


セミは仲間の鳥たちと合流するため飛び立った。


アリの散歩の時間は毎日決まっており、アンジェリックが飼うサルーキの散歩の時間と重なっていることは事前調査済みだ。


今日は、姫の代わりに侍女が散歩をさせるためにやって来た。


アリは私を咥えたまま散歩に出ると主張した。私も大人しくされるがままになっている。


侍女は


「ダメですよ。猫ちゃんはお留守番です」


と困惑しているが、アリは諦めない。


最終的に侍女が折れた。


「仕方ないですね。でも、猫ちゃんは私が抱っこしていきますから」


と侍女に抱きかかえられる。と言っても手のひらサイズだからね。


アリのリードを握って散歩を始めるが、アリはいつもの散歩ルートとは違う方に向かって力づくで歩いていく。


「・・・アリ!そっちじゃないでしょ」


と侍女が叫ぶが、アリは彼女を無視して裏の庭園に向かって歩いていく。


その庭園が昨日施肥したばかりなのは、鳥たちからの情報で分かっている。


そして、サルーキも同時刻にそこに現れるはずだ。予定ではミシェルも一緒のはず・・・。


どうか、予定が変わっていませんように!と心の中で祈る。


庭園に到着するとすぐに派手なアンジェリックとミシェルが現れた。やった!


「もう、散歩ルートが違うわよ!ちょっと、ここ臭いし!サルーキ!サルーキ!止まって!」


とアンジェリックが文句を言っている。


やった!サルーキ、エライ!


ちゃんとここに連れてきてくれたのね。


サルーキが無理矢理アンジェリックとミシェルを引っ張ってきたんだ。


私は姿を見られないよう侍女の腕の中からすり抜けて、地面に飛び降り茂みの中に隠れた。


「あ!?猫ちゃん!?」


と侍女は焦るが、第二皇子夫人とその客人の前で礼を失する訳にはいかない。


侍女が丁寧に挨拶をすると、アンジェリックが


「あら・・・また例の頭の悪そうなプードルを連れて・・・」


と嫌味を言い始めた。


プードルは頭の良い犬種で有名なんだぞ!と心の中で反論しながら、私は魔力を高めるために集中を開始する。


「お高くとまった姫はまた公務ですの?嫁き遅れてしまって気の毒に・・・。公務くらいしかすることがないんでしょうけど・・・ほほほ」


というアンジェリックの隣でミシェルは退屈そうに欠伸を噛み殺している。


私は土と意識が繋がったのを感じた。


感じた瞬間、施肥したばかりの堆肥混じりの土を大量に持ち上げて、それをミシェル目掛けて思いっ切りぶちまけた。


ものすごい悲鳴があがり、ミシェルが怒り心頭で土を体から振り払う。


アンジェリックと一緒に洗浄魔法で綺麗にしようとするが、私は土魔法で服の繊維の奥深くまで土が入りこんで取れないように頑張った。


「くっ!一体誰がこんなことを!」


とミシェルが悔しそうに周囲を見渡しても、他に人影は見当たらない。


侍女に向かって


「あんたが何かやったでしょ!」


と責めるが、彼女は魔法が使えないと説明すると


「ふん!最低!」


と唾を吐き捨てた。


アンジェリックが


「ちょっと・・・部屋に戻って着替えた方がいいわ。臭いし・・・」


と鼻を摘まむ。


「分かってるわよ!」


とミシェルがドスドスと部屋に向かって歩いていくのを、近くにいた鳥が確認して飛び立った。


ありがとう!セミに伝えてくれるのね。


その後、アンジェリックは「それじゃ、失礼するわ。おほほ~」とサルーキと一緒に立ち去り、私は侍女の腕の中に戻ってアリとの散歩を終え、私達は姫の私室へと戻って行った。


後は鳥たちの頑張り次第だ!


ミシェルは浴室で服を脱ぎ、体を洗うだろう。その時に首にかけた小袋も外すに違いない。


堆肥の匂いが酷いので、浴室の小窓は換気のために開けるのではないかと私達は予想した。


セミの指示の下、体が小さく速く飛べる鳥たちが集団で小窓から飛び込みミシェルを混乱させ、どさくさに紛れて小袋を奪うという作戦だ。


・・・ああ、上手く行きますように・・・と必死で祈る。


アリが心配そうに私に寄り添ってくれる。


なんて優しい動物たちだろう。私は幸運だな・・・と感謝した。


しばらく待った後、ばさばさと羽音が聞こえた。


セミが戻って来た!


私達が窓辺を見ると、セミが誇らしげに小さな袋を嘴に咥えていた!


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