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ヤンお祖父さまの葬儀


平穏だった我が家に、突然悲しい知らせが飛び込んで来た。


療養所で生活していたヤンお祖父さまが亡くなったのだ。


危篤の知らせを受けた私達は大慌てで療養所に向かい、何とか死に目に会うことが出来た。


ヤンお祖父さまはほとんど意識がない状態だったが、私達が病室に入ると薄目を開けて私達を視界に入れたと思う。


そして、眠るように安らかに逝った。


お父さまはヤンお祖父さまに縋りついて慟哭し、お母さまは静かに涙を流しながら、お父さまの背中を擦っていた。


私は弟二人の手を繋ぎながら、溢れそうになる涙をぐっとこらえていた。


弟たちの目も赤かった。


ヤンお祖父さまは本人の希望で療養所近くの墓地に埋葬されることになった。


療養所はモレル大公国との国境近くにあり、とても風光明媚なところだ。王都からは少し離れているけど。


ヤンお祖父さまは自分の死を予想していたのだろう。遺書も含めて、私達の負担にならないように周到に準備していたようだった。


療養所に頻繁に慰問に訪れていた教会の牧師さんから葬儀についても事前に希望を聞いているので、手配をしても良いかと聞かれ、お父さまは「お任せします。ありがとうございます」と頭を下げた。


葬儀が行われたのは古いが手入れが行き届いた綺麗な教会だった。


埋葬される墓地の隣には小高い丘があり、その奥に森が広がっている。鬱蒼とした森はお伽話に出てきそうな雰囲気があった。


葬儀には私達家族以外に、療養所の医師、看護師、介護士といったスタッフ以外にもヤンお祖父さまと親交のあった多くの患者の皆さんが来てくれた。


勿論、出歩けるだけの体力があって医師の許可が下りた人たちだけだったが、それでも沢山の人が来てくれて、私は嬉しかった。


「ヤンさんはとても優しくて・・・」


「面倒見がいいから、みんなが頼っていたのよ」


「工作が上手でね。他の人にも丁寧に教えてくれて・・・」


「あなたがリュカね。自慢の息子だってヤンさんがいつも話していましたよ」


と言われる度にお父さまは涙を流し、お母さまと一緒に頭を下げて感謝の言葉を伝えていた。


ヤンお祖父さまは療養所の人たちに好かれていたんだな・・・。


大変なこともある人生だったけど、穏やかな晩年だったんだろうなと想像する。


弟たちはお祖父さまやお祖母さまと一緒に何か話している。


私はフランソワとセルジュと共に、何となく所在無げに立っているだけだった。


今日のセルジュはどことなく生気がない。


元々元気一杯なタイプではないが、今日は特に疲れている様子で顔色も悪い。大丈夫かな・・・?



埋葬が終わり、簡単な軽食や飲み物を教会が用意してくれていた。


故人を偲んで参列者が思い出話をすることが出来るようにという教会側の配慮に私達も感謝した。


しかし、教会のホールに設けられたテーブルに置かれた軽食を見た瞬間、フランソワの顔色が変わった。


一枚のクッキーを手に取ると


「・・・これはっ!?ミシェルが作ったものと同じ魔力だ・・・」


と急いでお祖父さまとお父さまに話に行く。


大人たちの顔色が変わった。


それでもお父さまは落ち着いた表情で教会の牧師さんと話をしに行く。


牧師さんは驚愕の表情を浮かべていたが、お父さまの話に頷いていた。


ミシェルが作った危険薬物は全ての食べ物に入っている訳でないらしい。


フランソワが一つ一つ確認して、一部の皿を下げるように指示している。


参列客は話に夢中で何が起こっているのかは気が付いていない。


私は少しほっとした。


ヤンお祖父さまのお別れの思い出に傷をつけるようなことはあって欲しくない。


フランソワが私のところに戻ってきて、大きな溜息をついた。


「何でミシェルがこんなところにまで入り込んでいるんだ?」


「目的は何かしら?」


「分からない。でも、用心に越したことはない。今日だけは頼むから危ないことはするなよ」


とフランソワが私を睨みつける。


なんで私はそんなに信用ないんだろう?


その時開いていた窓から強い風が入って来た。


ふと窓の方向を見ると、フードを被った人が走って去っていくところだった。逃げているようにも見える。


再び強い風が吹いて、その人が被っていたフードが外れた。


驚くほどピンクの髪が現れて、へえ、こんな髪色があるんだ、と感心して見ていたら、隣にいたフランソワが顔面蒼白になりながら


「まさか・・・そんな」


と呟いた。


フランソワだけじゃない。お父さまとお母さまも亡霊を見たかのように窓の外を眺めている。


次の瞬間、フランソワ、お父さま、お母さまがものすごい勢いで外に走り出した。


その騒動に参列者に動揺が走ったので、お祖父さまとお祖母さまは参列者を落ち着かせるために色々と言い訳をして宥めているようだ。


私はそれをぼーっと眺めていたが、ふと気づくとセルジュが居なくなっていた。


あれ・・・?セルジュ・・・?


辺りを見回してもセルジュの姿は見えない。


ついでに私の護衛の姿も見当たらない。まあ、いつものことだけど。


セルジュは少し様子がおかしかったし・・・体調が悪いのかな?・・・トイレかな・・・?と不安を覚えていると、窓の外に見える小さな丘の上の木々の間にセルジュの姿が見えた。


黒い髪の毛が見えるし、服装もさっき見たのと同じだ。


間違いない・・・でも、なんであんなところにいるんだろう?


強い不安を覚えて、私は外に走り出た。


外に出ると転移魔法を使ってセルジュがいた丘に転移する。


あれ?セルジュがいない?と思っていると、森の奥にセルジュの背中が見えた。


もう!どこに行くのよ。こんな大変な時に!と腹が立つ。


今度は走って追いついてやる。


・・・おかしいな。私は相当足が速い。


それなのに全然セルジュに追いつかない。


私は意地になっていた。必死でセルジュの背中目掛けて走り続ける。


「セルジュ!セルジュ!」と大声で何度も呼びかけているのに、セルジュは振り返らない。


気が付くと私は深い森の奥に入りこんでいた。


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