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誤解

*スズ視点に戻ります。



モレル大公国行きの船に乗りながら、私は果てしなく続く大海原を眺めていた。


タム皇国からモレル大公国までの船旅は普通のペースで三日~四日、魔力を使った動力源を併用すれば約二日で到着する。


今回は約二日の船旅だ。


セドパパとミレーユの父親でもある船長は、私に土下座せんばかりの勢いで謝罪した。


私がどんなに気にしなくていいと言っても、激しい罪悪感があるらしく、私の方がいたたまれなくなってしまった。


ミレーユもこの船に乗っているはずだが、全く姿を見かけない。


セドリックはたまに見かけると笑顔で手を振ってくれるが、今までのようにすぐに走り寄って来る親しさは見せてくれない。


悲しいけど、仕方がないのかな・・・。


ふと背後に人気を感じて振り向くとフランソワが立っていた。


「どうした?元気ないぞ」


という言葉には温かみがあって、私は軽く微笑んだ。


「・・・なんでもないの」


「セドリックともよそよそしくなってないか?お前達はうまくいってると思っていたんだが・・・」


「フランソワには関係ないじゃん!」


と言うと、フランソワが酷く傷ついた顔をした。


「・・・確かに、俺には関係ないことだな。悪かった」


そう言って離れて行こうとするフランソワの腕を咄嗟に掴んでしまった。


「・・・どうした?」


怪訝な表情のフランソワ。


「ごめんなさい!心配してくれたのに酷い態度を取って。セドリックとは・・・もう何でもないの。だから・・・その・・・もう気にしなくて大丈夫だから」


とつい本当のことを言ってしまった。


フランソワの顔が怒りに歪む。


「・・・どういうことだ?セドリックにお前が泣かされたなら俺は許さない」


「ち、違うの。その・・・性格の不一致というか・・・方向性の違いというか・・・お互いに納得して、別々の道を歩もうって。私もセドリックもこれがベストな選択だと思ったの。だから、心配しないで」


フランソワは虚をつかれたように私を見つめる。


「・・・お前はそれで・・・いいのか?好きだったんだろう?」


「うん・・・でも、その・・・何と言うか・・・」


まさか、まだフランソワが好きだから、とは死んでも言えない。更にフランソワに警戒されないように、セドリックと別れたとしても、もう恋愛なんてしないという決意を強調する必要がある。頑張れ、私!


「もう恋愛は一生しなくていいかな、と思っているの。恋愛なんかしなくても人間幸せに生きていけるからね!」


それを聞いたフランソワは顔色を変えた。


「いや、恋愛を諦めるには、は、早すぎるんじゃないか?恋愛もきっといいものだぞ」


「・・・フランソワは、恋愛なんてしなくても生きていけるって言ってたよね?自分は一生独身だって言ったくせに」


「確かに・・・。いや、俺は最近少し考え方を変えた方がいいかと思っている・・・。れ、恋愛してみてもいいかな・・とか・・・」


顔を赤らめて言うフランソワを見て、私は「やっぱり!!!」と確信した。


昨夜のナターリヤ姫との再会で考えが変わったんだ。


二人で並ぶ姿はとてもお似合いで、私が立ち入る隙間なんて全く無さそうだった。


くっぅ、泣きそうだ。


「・・・ナターリヤ姫と連絡先は交換したの?」


フランソワはポカンとした表情で私を見る。


「随分、話が飛んだな。何の話だ?」


「誤魔化さないでよ。ナターリヤ姫と文通するから連絡先を交換したんでしょ?」


「・・・文通?俺は良く知らない女と文通する趣味はない」


「・・・ホント?」


フランソワを見上げながら訊ねると、何故か彼は口を手で覆い、顔を背けてぷるぷる震えている。


「夕べは何を話してたの?」


「・・・何だったかな・・・?ああ、昔マーケットの本屋で会ったんだ。その時俺が薬草の本を買ってたのを覚えてて、まだ薬草の勉強をしているのかって聞かれたから、俺はポーションマスターだって答えたよ」


ふーん。


「それで、不眠症に聞く薬とか聞かれたから、薬に頼るよりハーブティーのようなリラックスさせるものの方がいいんじゃないかって、幾つかハーブを勧めたよ」


ふーん。


「・・・え?何か怒っているのか?俺が何かしたか?」


「別に・・・フランソワの顔がにやけてたくらいで」


「にやけ・・っ?!それを言ったら、お前だってジャックに頭を撫でられて嬉しそうだったじゃないか!ジャックと何を話してたんだ」


「・・・姫とフランソワの出会いについて聞いてたのよ」


「俺と姫の出会い・・・?そんなのあったか?」


私は、はぁと溜息とついた。


「・・・ナターリヤ姫は瞳が綺麗な緑色なの」


「ん?そうだったか?気づかなかったな」


「姫のことになるとずっと曖昧に誤魔化してばかりだよね。出会った時のことも私には言いたくないみたいだし。」


「・・・誤魔化す?どういうことだ?彼女の瞳が緑色だと何だっていうんだ?」


珍しくフランソワが本気で狼狽えている。


でも、私は腹が立って仕方がなかった。ナターリヤ姫のことを聞くと、曖昧な返事しか返ってこない。


「もう船室に戻るわ!」


わざとドスドスと足音をたてながら、船室に戻る。


脇目もふらずに立ち去ったので、背後でフランソワがどんな表情をしているかは分からなかった。


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