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揉め事


学力テストの結果が発表され、上位成績者の名前が壁に貼りだされた。


フランソワによると一位は間違いなくセルジュだろうが、彼は目立ちたくないので試験を受けなくて良かったのかもしれない。


一位 クラリス・ルソー

二位 スザンヌ・マルタン

三位 ジェレミー・ベルナール

四位 パトリック・リシャール


という結果で、私は二位でなかなか頑張ったな、と満足していた。


クラリスはものすごい努力家だ。


将来の王太子妃としての厳しい教育も真面目に受けているし、勉強熱心だ。


厳格なエレーヌ王妃にも気に入られているという。


そんなクラリスの次っていうのは、私エライ、と密かに思っていた。


しかし、背後から


「なんだ、両親に比べたら・・・」


「大したことないのね・・・」


「・・・親は二人とも一位以外は取ったことなかったのに」


「母親は全属性で成績もトップ・・・娘は魔法も成績も振るわないし、がっかりね」


なんていう陰口が聞こえてきた。


はぁ、なんか凹むなぁ、なんて思っていたら、それを聞いたらしいパトリックが突然いきり立って怒鳴りだした。


「おい!今スズの悪口を言った奴らはどいつだ!」


王太子とは思えない口の聞きように、その場に居た全員がフリーズした。


「スズはものすごい努力をしているんだ。二位だってすごいじゃないか!俺なんて四位だ。それに悪口を言った者達は皆四位の中にも入ってないってことだろう?自分より努力している優秀な奴を馬鹿にして楽しいか!?」


というパトリックの言葉に言い返せるものは誰もいなかった。


みんな逃げるように散り散りに去って行った。


「ありがとう。パトリック。庇ってくれて嬉しかった」


不覚にもちょっと涙目になってしまった。こんな風に言って貰えるなんて思ってなかったから・・。


ふと顔を上げてパトリックの目をじっと見ると、彼の顔が真っ赤に染まった。


どうしたんだろう?と思っていると、ジェレミーに肩を叩かれた。


「おめでとう!スズ。さすが優秀だな。僕は勉強には自信があったんだが。次は負けないよ」


とニッと笑われる。彼の言葉にも救われた。


クラリスも登場して、お互いに健闘を称え合う。


私はこんな素敵な仲間がいてくれて良かった、と心から思った。



教室に戻ると大きな揉め事が起こっているようだった。


朝からなんだろうと教室を覗き込むと、ジゼルと別な女生徒が言い争っていた。


近くにいた生徒に「何があったの?」と聞いてみると、ジゼルがくじに外れたのにポーションのクラスが選択できるのはおかしいと別な女生徒が怒っているらしい。


彼らの近くにボーっと立っているアメリという生徒がポーションの授業の当たりくじを引いたのだが、それを辞退してジゼルにあげると約束したのが揉め事の発端らしい。


「アメリだって、あんなにポーションの授業を楽しみにしていたのに、なんで突然辞退するなんて言うの?おかしいじゃない?!しかも、仲の良い私じゃなくて、なんでこんな女に権利を譲るなんて言うのよ?!」


と女生徒が食ってかかっている。


アメリと呼ばれた生徒は


「私はジゼルさんにあげたいから・・・」


と答えている。


それが怒りに火を注いだようで


「あんただってジゼルのこと嫌ってたじゃない?!パトリック様と馴れ馴れしくして厚かましいって。ねえ、アメリ、あなた最近おかしいよ。何があったの?」


と言い募る。


堪らなくなったのだろう。パトリックが仲裁に入った。


「おい、もう止めろ。くじ引きの結果を人に譲渡していいと先生の許可は取ったのか?」


と言うと、ジゼルが顔を赤らめて


「・・・パトリック様。私を心配して来て下さったんですね。ありがとうございます。先生の許可はまだ取っていませんが、問題ないと思います。だって、トータルの人数は変わらないんですよ?」


といつものようにパトリックの上着の襟を指で摘まむ。やっぱり距離感が近いな~~。


その時


「残念だったな。辞退することは問題ないが、それを誰に譲渡するかを決めるのは俺だ。生徒同士のやり取りはトラブルの元だ。禁止にする」


というきっぱりとしたフランソワの声が聞こえた。


ジゼルはいつものホンワカした笑顔を捨てて、きっとフランソワを睨みつける。


その表情の変化にパトリックが怖気づいた。


パトリックが見ているのに気づいたのだろう、ジゼルは再びにこやかな表情を見せると


「・・・そうだったんですね。申し訳ありません。私が勘違いしていました」


とフランソワに頭を下げた。



その後の授業でもジゼルは相変わらずパトリックに机を近づけて、顔を寄せたりしていたが、心なしかパトリックの腰が引けていることに私は気が付いていた。


最後の授業の後、フランソワが今度はアメリを準備室に呼び出した。


女生徒たちの嫉妬の眼差しに晒されるアメリ。でも、彼女は全く気にならないようで、相変わらずぼーっと準備室に歩いていく。


私は心配になって準備室まで付き添うことにした。クラリスも一緒に来てくれる。


準備室に行くと、フランソワが


「ん、ああ、お前達も来たのか?」


と言いつつ、扉を閉めて鍵を掛ける。


アメリは相変わらずぼーっとしている。


フランソワがアメリに


「最近誰かから貰った菓子を食べたか?」


と聞くとジゼルから貰ったクッキーを食べたという。


「・・・やっぱり」とフランソワはアメリの目や喉を調べ、問診した後


「君は魅了チャームがかかった媚薬を摂取したんだ。解毒剤があるが、それを飲みたいか?」


と聞く。


アメリはぼーっとしたまましばらく考えていたが、コクリと頷いた。


フランソワはアメリに解毒剤を渡し、彼女がそれを飲んだ。


すると彼女の目の焦点が定まってきて、顔面蒼白になった。


私達を見て


「・・・私、なんであんなことをしたのかしら?」


と尋ねる。


「君はポーションの授業を辞退するつもりはあるのかな?」


というフランソワの質問に


「私は元々薬草学に興味があったんです。高名なポーションマスターであるフランソワ先生の授業を是非受講させてください」


とアメリは熱く答えた。


「分かった。では、そのようにクラスメートに説明してきなさい」


と言ってフランソワはアメリを準備室から帰した。


フランソワは私とクラリスに


「やはりミシェルが作った媚薬だと思う」


と説明した。


摂取した人間を思い通りに操ることが出来るという。ジゼルがミシェルから入手したものだろうというフランソワの言葉に私も納得する。


やっぱり彼女は怪しい。でも・・・


「でもジゼルはどちらかというとパトリックが目当てというか・・・私を狙ってる感じはしないんだけど・・・」


「そうだな。パトリックを狙っているというのは同意だ。あいつもスズと同じくらい無防備だから気をつけるように伝えてくれ」


・・・私と同じくらいって(怒)。


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