鳥たちの話
学院長の話の後、すぐに解放されたので教室に戻ると、待ち構えていたかのようにセルジュはクラスメートたちに囲まれた。
「五属性なんてすごいわ!」
「能ある鷹は爪を隠すって言うわよね!」
「顔見せて・・・」
「ねえ、今度一緒に・・・」
と口々に話しかけられてセルジュはパニックになったらしい。
何も言わずに慌てて教室から逃げ出した。
彼を追いかけるとセルジュは中庭の茂みの中に隠れて居た。
近くに鳥が止まっている。
その鳥と話をしているようなので、話が終わるのを待つことにした。
すると別な鳥が飛んできて話に加わる。すぐにセルジュが私を見て手招きをした。
「声を掛けてくれればいいのに」
とセルジュが言うので
「・・・話の邪魔をしたくないし」
と答えると
「だからスズは好きだって鳥たちが言ってるよ。スズならいつでも歓迎だって」
とセルジュが笑った。
でも、すぐに表情を翳らせて
「教室に戻りたくないな」
と呟く。
「セルジュの魔力がすごいから、みんな話を聞きたいんだよ」
「いや、何か僕を利用できるんじゃないかって考えてるんだ。人間は怖いよ」
「そこまで疑わなくても・・・。私達はセルジュを利用しようなんて思ってないよ」
「それは分かってるよ。スズたちは特別だから。でも、鳥たちが気をつけるようにって今も言ってくれていたんだ」
「気をつける?」
「怪しげな人間が学院に出入りしているらしい」
「ここはものすごい警備が厳しいんじゃなかったっけ?」
「うん。だから、余計に心配なんだ。フードを深く被った女がたまに学院内に入りこんでるらしい。この学院のことを良く知っているみたいなんだ。僕は・・・あの、僕が記憶を失くして目を醒ました時にいた男女の二人組の女の方じゃないかって気がするんだ・・違法薬物を作っていたミシェルという女」
セルジュの告白にびっくりする。
「・・・学院に入りこんで何がしたいのかしら?」
「僕はスズが狙いじゃないかと思ってる」
「わ、わたし?なんで?」
「昔、セドリックとクリスマス休暇で船旅に出た時に、ジャックという海賊の話を盗み聞きしたって話をしてくれたよね」
あ、そういえば・・・。男女の二人組の様子がセルジュの言っていた二人組に似ていたので、彼に話をしたんだった!
「黒いマスクをした男とおしゃべりな女。多分、僕が知っている二人組のことだと思う。そして、オデット様に恨みを抱いている。オデット様は簡単に隙を見せるような魔術師ではない。余程弱いところを攻撃しないと駄目だ。スズ。君は自分がオデット様の最大の弱みの一つだって自覚はある?」
と聞かれて、私は唸ってしまった。フランソワにも昔似たようなことを言われた気がするな・・・。
「君への攻撃が成功すれば、オデット様が動揺して下手すると大陸の結界にまで影響を及ぼすかもしれないんだよ」
うぅ、そんなプレッシャーをかけないで・・・。
「まぁ、リュカ様もオデット様もそれが分かってるから、ジルベールがいつもスズに付きっ切りなんだろうけどね」
とセルジュは大人びた言い方をする。
「・・・僕も・・・きっと悪い奴らにとって利用価値があるんだと思う」
セルジュが深刻な顔で俯いた。
「利用価値って・・・?」
「その海賊は魔王の剣の話もしていたんでしょう?」
「・・・そういえば。ミシェル達がタム皇国に伝わる魔王の剣を欲しがってるとか・・・?」
「魔王復活のための剣に神龍の力を纏わせることが出来たら、魔王の封印が解けるって奴らは考えてるみたいだ」
私は話の行方が分からなくて、ただ頷きながらセルジュの顔を見つめる。
「スズが好きな本があるだろう?『神龍の探し物』っていう」
また、話が飛んだなと思ったが黙って頷く。
「本の中に神龍が捨てられた赤ん坊に甘露を与える場面があるよね?その赤ん坊は成長するにつれて神龍から貰った力を発揮するようになるんだ。例えば、動物の言葉が分かる・・・とか」
・・・・!?
「僕は・・・自分も神龍に甘露を与えられたんじゃないかと思うんだ。それを知ったミシェル達が僕を誘拐して記憶を消したんじゃないかな?魔王の剣で僕を切るなりして、剣に僕の血を吸わせれば、剣に神龍の力が宿るかもしれない。それがあの二人の目的だったんじゃないかな?」
「・・・セルジュ・・・そんなことをずっと考えてたの?」
「うん・・・」と頷いたセルジュは蹲って体をブルブル震わせている。
私は思わずセルジュを抱きしめた。
「セルジュ、大丈夫よ。私達が絶対にそんなことさせないから!」
と言うとセルジュは弱々しく微笑んだ。
「僕は・・・スズや他のみんなが好きだ。人間を好きだと思えるようになったのはスズのおかげなんだ。絶対にスズたちを傷つけさせないし、魔王復活なんてさせない。僕はあんな奴らの手に落ちて利用されないように頑張るよ。見つからないように目立たないことを心がけるし。・・・だから、スズもどうか気をつけて欲しい。スズはオデット様の弱点であるだけでなくて、僕達全員にとっての弱点だって自覚して欲しいんだ」
「私が・・・みんなの弱点なの?」
何となく面白くなくて口を尖らせるとセルジュが噴き出した。
「みんなスズが大好きだからさ。例えば、スズを人質に取られたら身動きが取れなくなるよ。だから、気をつけてね、ってこと」
「・・・私だってみんなが大好きだから、みんなを人質に取られたら私も身動き取れなくなるよ」
とボソッと言うと、セルジュは私の首に抱きついて
「僕はスズに会えて、すごく幸運だと思ってる」
と耳元で囁いた。
「僕は・・・多分、純粋な人間じゃないと思うんだ。『神龍の探し物』にあったみたいに半分精霊で半分人間だったとしても驚かないよ。だから・・・背も伸びないんじゃないかな・・・と思う」
セルジュは暗い顔をしてそう言った。
普段は全然そんな様子を見せないけど、セルジュはやっぱり身長のことを気にしてるのかな?
「でも、スズもパトリック達も誰もそんなこと気にしないんだよね。スズたちと一緒にいると身長のことを気にするなんて莫迦らしいって思えるんだ」
明るく笑うセルジュに安堵して、私はセルジュのほっぺにちゅっと口付けをした。
「私達はみんなセルジュが大好きよ。大切な仲間だもん。友情って一番大事だと思う!」
と言うとセルジュが真っ赤になって私が口付けた頬を押さえた。
いつも冷静なセルジュが珍しくオタオタしているので、可笑しくなって噴き出してしまった。
「スズは・・・たちが悪いよね」
と私を睨みつけるセルジュ。
そこで鳥たちがまたピーピーと囀りだした。
セルジュの顔が真剣になる。
「鳥たちによると、ミシェルはジゼルとこっそり会っていたらしいよ」
・・・・え!?ジゼルが?と衝撃を受ける。違法危険薬物を作るようなお尋ね者と接触するなんて・・・深刻な問題だよね。
「どうしてジゼルが・・・?」
「・・・分からないけど。スズは警戒心がないから心配なんだ。いい?僕達以外は信用しちゃダメだよ」
とセルジュに念を押されて、私は素直に「ハイ」と頷いた。




