テストプレイ①
「なあ。俺必要か? この面子で」
エリザに連行されてきたアークが、マリーナとナデアを見ながらこぼした。
「当たり前です。これから先、この『初級ダンジョン』で問題が起こった時に解決するのは貴方なのですから、中の構造は誰よりも詳しく知っていてもらわなければ困ります」
「……つーか、俺はいつまでここにいればいいんだ? もう随分長いこと住んでるぞ?」
「あぁ。伝えてませんでしたね。もうずっとここに居てください。貴方の代わりは見つけましたし、ダンジョンマスターとフランクに会話できる人材を町に戻すような勿体無いことはしません。もう正式にダンジョン支部の配属にしてあるので今後も励むように」
アークは口を2~3度開いたり閉じたりして、結局一言も発することは無かった。
仕事もせずに駄弁っているだけなら町での問題が解決したら呼び戻されると踏んでいたらしいが(本人談)、それが仇になってそのまま飛ばされてしまうとは。
実に哀れだ。
「ふむ。来た時に新しい通路ができているとは思ったが、ここが初級ダンジョンなのか。ギルドカウンターの目と鼻の先とは、色々と便利そうだな」
「おそらくしっかりと考えての配置なのでしょうね。ダンジョンに入る冒険者の管理、監視、有事の際の対応をギルドに任せたいということでしょう。良かったですね。エリザさん。信頼されているようですよ?」
ナデアにはすっかりお見通しのようだ。エリザも頷き返している。
此方から言うつもりは無かったが、そういうつもりで動いてくれるならそれに越したことは無い。
「アーク。いつ完成したんだ?」
「……さあな。お前らが来る数時間前にはもうあったぞ。それまではただの壁だった」
「ならば此方の到着を見越して造ったのか。ダンジョン内の改変は本当に一瞬でできるのだな。短時間でどの程度のダンジョンができているのか。楽しみだ」
別に一瞬で全部作ったわけではないが。
「マリーナ。私達はダンジョンに入るのですよ。気を引き締めてください」
「む。そうだな。これではエリシーの事を強く言えないな」
「皆さん。それでは出発します。本物のダンジョンに臨むつもりでいきましょう」
エリザの号令で、一行は歩き出す。彼女達にはまだ帰還用扉の鍵を渡していないので通路途中の向かって右側の扉に入ることになる。つまり、順路通りというわけだ。
「やはりダンジョン内にも扉があるのだな。今のところ少し薄暗いことくらいしか違いが無いが」
「確かに珍しいかも知れません。私も聞いたことはありませんね。ギルドの資料を遡れば似たようなダンジョンが見つかるかも知れませんが」
ドアで仕切ってしまったのは失敗だっただろうか。
いや、一先ずはこれで行こう。作り直すメリットが少ない。魔力食うし……。
「おい。今日中にかたをつけるんだろう? ドア一つにいちいち立ち止まるなよ」
「私達は審査員として呼ばれたのです。ギルドの信用と冒険者達の安全のためにも細かい所まで見るべきです」
別にそんな大それたものではないのだが……。
「そうかい。もう好きにしてくれ」
「やはり、最初のモンスターはスケルトン……なのか?」
ドアを通るとすぐ目の前にはスケルトンが一体。索敵範囲は狭く設定してあるから入って直ぐに向かってくるようなことはない。
「なぜこのダンジョンではスケルトンを重用しているのでしょう? ダンジョンマスターを知る手がかりになるかもしれませんね」
「武器は槍……いや棒か?」
この初級ダンジョンの人型モンスターの武器は全て安全設計にしてある。槍の先に刃の代わりに布がグルグル巻きになっているし、柄は木製で軽い。弓兵もいるが槍同様に矢じりは無く、弦も緩々にしてあるから目にでも当たらない限り大事にはならないだろう。
確かにこのスケルトンの武器は槍というより棒かもしれない。
「ダンジョンとは言え死者がでないよう徹底しているのでしょう。Eランクの冒険者でも潜ることができるかも知れません。そこまで見据えて難易度を見極めましょう」
「よし。まずは私が行こう」
マリーナがゆっくりと近づき、索敵範囲に入った。
このスケルトンは槍は構えるが基本的に待ちの姿勢だ。最初の敵だから冒険者に攻撃の主導権を与えた方が良いかと思ったのだ。
「む、来ないのか……」
さらに歩を進め、槍の間合いに入った途端突きを放つ。狙いは腹だ。
マリーナは冷静に剣で左に受け流すが、折角作った隙は狙わずに一歩引いてしまった。
「速度はそれなりだな。だが軽い。追撃も無しか」
恐らく後ろのメンバーに向けて解説しているのだろう。短いダンジョンだがこの調子で今日中に終わるのだろうか?
マリーナがまた同じように踏み込む。
今度は彼女から見て左側から大きく薙ぐように槍が振るわれるが、しかしこれは垂直に構えた剣でしっかりと受け止めた。
間合いから引かない彼女に対するスケルトンからの攻撃は続く。柄の中心を支点にクルリと半回転させることで石突きの側がマリーナの右側面に迫った。
「おぉ!」
しかしこちらも難なく受け止めてしまう。どういうわけか嬉しそうにも見える。
槍での攻撃に押し出されるように飛びずさり、再び間合い外に出た。
「ふむ。やはり追っては来ないか」
実はこのスケルトンは幾つかの制約を付けた以外は野生種(?)と殆ど同じだ。
頭、胸、背中は攻撃しない。出血、意識不明者は攻撃しない。索敵範囲を指定。回避と定位置に戻るため以外は自ら移動しない。などなどだ。
だから壁際なら素通りできるし、遠距離からの大技を準備する時間もある。
「戦闘技術もそれなり……ただパワー不足だ。近接戦闘だけならDランクでも一対一では厳しい者がいるかも知れないレベルだな」
「マリーナさん、Eランク5人のパーティならどうでしょうか?」
エリザだ。
「そうだな……」
そう言って、おもむろに腰から果物ナイフの様な小さな短剣を取り出してスケルトンに向けて軽い調子で投げつけた。反応しきれず左肩に当たったが、骨の体には小さな傷が付くだけだ。
「ふむ。……ナデア。そこから撃ってくれ。低威力低範囲、速度それなりで頼む」
「分りました」
ナデアは右手の指を胸の高さに構えると空中に何かを描き始めた。指先の辿る軌跡に赤い光のラインが走り、複雑な図形がもの凄い速さで出来上がっていく。
いつだかにアークから魔法について教えてもらったが、彼女のはどんな分類なのだろうか。
魔法陣か、紋章魔法というやつだろうか。それとも他のものか……。
そうこうしている内に魔法が完成したようだ。五秒もかかっていないようだが、やはり前衛がいないと厳しいのだろうか。
後衛のいる戦闘を見たことがないから良く分らない。
空中に浮かび上がった紋様はねじれるように中心に集まり、拳くらいの火の玉となる。そして次の瞬間には一直線にスケルトンに向かって行き頚椎を貫いた。というか消し飛んだ。
索敵範囲外からの攻撃だったため反応が遅れたようだが、それにしても低威力と低速度は何処に行ったと物申したい。
達磨落しのように、支えを失った頭が落ちて消滅していった。
一通り観察していたマリーナが先ほどのエリザの問いに答える。
「まあ、多少戦闘経験があるパーティならばなんとかなるだろう。駄目でも大怪我をすることは早々無いな。というか、5人で挑んで勝てないようではそいつ等は冒険者に向いていない」
「そうですか。命の危険が少ないということですし、未熟な新人の訓練所としても十分役立つかもしれませんね。あとは……魔石ですね」
やはりそこに関心が行くか。
エリザは奥の方を気にしながら魔石を拾い上げる。薄暗いとはいえ、奥にスケルトンがまだいることには気付いていたようだ。
「……大雑把にですが、大体8等級といったところですね。この位あれば色々と用途があります。冒険者がメインの収入源にするには少し少ないですが、安全に得られるメリットはありますね」
及第点をいただけたようでなによりだ。これならリビングアーマーの魔石は喜んでもらえるかもしれない。
「まあまだモンスター一体だ。進んでみるとしよう」
本当はテストプレイ編はまとめて一話にしたかったのですが、今週中に出したかったので、分割で。
たぶん④くらいまでかかるかも。
まあまだ書いてないんですけどね。
それと、別に一ヶ月更新を意識してるわけではないんですよ。
前話(大幅カット前)は先々週くらいにはほぼ出来上がってたので。
こんなこと言っても意味ないですね。
……はあ。お待たせして申し訳ないです。
…………まだ待ってくれてますよね?




