決断
短いです
「エリシーさん……」
スケルトンが去った後、沈黙を破ったのはチコだ。しかし何か言いたげな視線を送るだけで言葉は続かない。
「……そうね。私はしばらくここに身をおくのも良いと思うわ。いつでも辞められるってことだし、今後の身の振り方を考える時間ができるのは大きいのよね。このまま町に戻ってもどうにもならないし、食料も殆ど持ってない。この現状で一番必要なものを提供してくれるって言うことなんだから請けてもいいんじゃないかしら? あくまでダンジョンマスターが裏切らないって前提だけど」
「……私達をここに置くことでダンジョンマスターはどんな利益を得るんでしょう?」
チコはやはり賢い子だ。人が善意だけで動くことは少ないと知っている。
「ダンジョンマスターの話を鵜呑みにするなら、本当に掃除要員が欲しいのでしょうね。昨日風呂に入った時にも角の方には泥が溜まっていたし、風呂以外でも泥汚れやゴミがどんどん持ち込まれちゃうわ。何時冒険者が来るか分からないのにこんな浅い階層までダンジョンマスターが掃除にくる訳にはいかないんでしょうね。」
「……じゃあ、私達を騙そうとしていた場合は?」
「そりゃあいろいろ有るでしょうよ。冒険者が来た時に囮とか人質に使うとか、人体実験するとか……。私達に人質としての価値は無いけど、そんなことダンジョンマスターが知ってるとは思えないし……」
「なら素直に従ってしまうのは良くないんじゃ……」
「んー、そうねー。この話を断ったとして、結局私たちの扱いって大して変わらないのよね。よっぽど心優しい主人にでもめぐり合わない限り、奴隷なんて使い捨ての消耗品扱いよ。2人のいた町ではどうか知らないけど、私のところでは食事も満足に与えられずに死ぬまでこき使われる奴隷が沢山いたわ。だったらここのダンジョンマスターに賭けてみるのも有りだと思うの」
思った以上に奴隷の扱いがひどかった。年少組2人も自分たちの置かれた状況に不安を隠せないようだ。
「それに、ここなら少なくとも2人とも一緒に居られるわ。同じ主人に買われるなんてまずないわね。そもそも女奴隷は労働力じゃなくて……まあこれはいいわ。とにかく、ここを出たら奇跡でも起きない限り奴隷として生きることになる。そして幸福なんて望むだけ無駄ってこと」
そこでエリシーは言葉を切った。
長い沈黙を破ったのは、今まで口を開かなかったチヤだ。
「……お姉ちゃん。ここに居よう。お姉ちゃんまで居なくなるなんてやだよ」
「チヤ……。でも……そうだね。うん、ずっと一緒にいよう」
瞳に涙を湛えてすがる妹の言葉に、ずっと難色を示していたチコが折れる。
エリシーもほっとしたような表情で2人を見ていた。