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第119話 言いかけた言葉

今回は、屋上庭園のあと。

咲也と田中さんの短いお話です。


屋上庭園の施錠を終えた咲也は、来た道を戻った。


エレベーターホールの近く。



田中はまだそこにいた。




咲也を待っていたらしい。




「田中さん」




声をかけると、田中が顔を上げる。




「あ、高宮さん」




咲也は手にしていた鍵を差し出した。




「これ、お返ししますね」




「いえ。こちらこそ、本当にすみませんでした」




田中が鍵を受け取る。




「大丈夫でした?」




「はい。お客様が一人いらっしゃいましたが、それ以外は何も」



屋上庭園で見た指輪。




七年前の話。




そして。



ルシアンの寂しそうな笑顔。



『ずっと。今もね』



そこで。




咲也は、口を開きかけた。




「田中さんは……」




けれど。




言葉を止める。




果たして。



自分がそこまで踏み込んでいいのだろうか。




「……いえ」




咲也は首を振った。




「何でもありません」




田中が少し不思議そうに見る。




けれど。




何も聞かなかった。



「そうだ。



高宮さん、今日遅番ですよね」



「はい」



「十一時まで?」




「その予定です」




田中は少し考えて。




「じゃあ、仕事が終わったら一杯どうです?



僕もそろそろ上がりの時間なので」



「え?」



「さっきのお詫びです。奢らせてください」



「いや、いいですよ。大したことじゃないし。お互い様ですから」



「いいえ。それでは僕の気がすみませんので」



「それに、少しだけ」

田中は、ふっと笑った。


「話をしたい気分なんです。高宮さんさえよかったらですが」



そう言われたら断れなかった。


タイトルは『言いかけた言葉』。

咲也が言葉を飲み込んだ代わりに、今度は田中さんの方から少し話をしてくれそうです。


次回は日曜日ごろに更新予定です。

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