Season 3, Episode 9: Arrival in New York (ニューヨーク到着)
登場人物
アラン・ゼンズバーグ/詩人、シンディの叔父
※アレン・ギンズバーグではありません
ジェイク・ケンドリック/作家、詩人、アランの親友
※ジャック・ケルアックではありません
田所トシキ/東大休学中、シンディの恋人、マザコン好青年
シンディ・ゴールドバーグ/アランの姪、カヨの弟子
ステラ・サリンジャー/ジェイクの元妻、お菓子屋経営
コールデン・サリンジャー/ステラの甥 ※ホールデン・コールフィールドではありません
☆なんちゃって参考文献
アレン・ギンズバーグ「HOWL」
ジャック・ケルアック「路上」
JDサリンジャー「ライ麦畑でつかまえて」
※読んでなくても大丈夫!
シーン1: ニューヨーク、マンハッタン
ハイウェイ、マンハッタンのビル群が見えてくる。
走るマスタング。街の喧騒。
ハンドルを握るジェイクの手がわずかに震えている。
助手席のアランは外の景色に目を向けている。
アラン「We’re here.(到着したな)」
ジェイク「Yeah.(そうだな)」
アラン「Nervous, huh? Well, whatever happens, happens.(緊張してんのかよ、まあなるようになるだろ?)」
ジェイク「Yeah. Whatever happens. Worst case, I get shot right off the bat.(ああ、なるようになる。最悪、いきなり撃たれる)」
アラン「Ha! Well, you’re the one who shot her first! Besides, she probably won’t even remember you!(ハハハ!まあ最初に撃ったのはお前だしな!まあ殺されやしないだろ?お前の事なんて覚えてないかもしれないしな!)」
ジェイク「Right… Still, to me… she was special.(そうだな…とにかく俺にとって、彼女は特別だったんだ…)」
後ろのシートから、トシキが身を乗り出す。
トシキ「Jake-san, where is Stella's place?(ジェイク、ステラさんの家は何処なの?)」
ジェイク「Brooklyn. She… I heard she's doing something with baking. A shop, maybe.(ブルックリン、お菓子屋か何かやってるらしい。確かな…)」
シンディ「Baking? What kind of shop?(どんなお菓子屋なの?)」
ジェイク「I don't know the details. We haven't talked in 40 years.(さあ、詳しくは知らない。40年も連絡してないからな)」
アラン「Hey, look at this. Is this her…?(おい見てみろ、この記事もしかして…)」
スマホをジェイクに見せる。ジェイク、ちらりと横を見る。
アラン「'Madame Stella's Cookies.' It's blowing up everywhere. Good reviews all over.(これじゃないか?『マダム・ステラのクッキー』なんだよ評判いいぞ?)」
ジェイク「What?(何だと?)」
シンディ、助手席の隙間から覗き込む。
シンディ「This article? Seriously! It looks huge! Look at this photo, there's a massive line outside.(この記事?ホントだ!なんか有名みたいよ?ほら、この写真、人が結構並んでいるわ)」
ジェイク、前を向いたままハンドルを握る。
ジェイク「'Madame Stella'?(マダム・ステラだって?)」
アラン「That's what they called her.(そう呼ばれてたな)」
ジェイク「Madame? Was she ever that kind of person?(マダムってガラだったか?)」
アラン「People change when they succeed. Unlike us.(昔とは違うってことだろ)」
ジェイク「Yeah. We just got older, that's all.(俺たちは歳食っただけだよな)」
シーン2: ブルックリン、マダム・ステラのクッキー店
住宅街。
小さな店。
看板: “Madame Stella’s Cookies”
シンプルだが、洗練された店構え。窓から見える店内には客の姿があり、店の外にも長い行列ができている。
マスタングが静かに停まる。
4人が車から降りる。
ジェイク、目の前の光景を見上げる。
ジェイク「It’s doing good business.(繁盛してるな)」
アラン「Good? Look at the line outside.(繁盛してるなんてもんじゃない。店の外にも並んでるぞ)」
シンディ「Should we stand in line too?(私たちも並ぶ?)」
ジェイク「No. Let's go around back and ask if Stella is in.(いや、裏に回ってステラはいるか聞いてみよう)」
店の裏。
小さな勝手口。
ジェイクがノックする。
数秒の沈黙のあと、ドアが開く。
若い女性店員が顔を覗かせる。
店員「Yes?(はい?)」
ジェイク「I’m… I’m here to see Stella. I’m an old friend.(ステラに会いに来た。古い友人だ)」
店員、視線をジェイクに向ける。
店員「Your name?(お名前は?)」
ジェイク「Jake. Jake Kendrick.(ジェイク。ジェイク・ケンドリック)」
店員の表情が変わる。
店員「Jake Kendrick? THE Jake Kendrick?(ジェイク・ケンドリック? あのジェイク・ケンドリック?)」
ジェイク「…Yes?(そうだが?)」
店員「Wait here! I’ll get Madame Stella!(ここで待て! マダム・ステラを呼んでくる!)」
店員は扉をあけたまま、奥へと消える。
数秒後。
ステラ・サリンジャーが扉を開けて姿を現す。
60代。白髪混じりの髪にエプロン姿。
額の真ん中には、白っぽい小さな丸い傷跡がある。
ステラはジェイクをとらえ、明るい笑みを浮かべる。
ステラ「Jake! I can’t believe you’re here! After all these years!(ジェイク! 信じられないわ! 何十年ぶり?)」
ジェイク「I… I…(ああ…俺は…)」
ステラ、ためらうことなく踏み出し、ジェイクを力強くハグする。
ジェイクは腕のやり場に困ったように硬直する。
ステラはすぐに体を離し、ジェイクの顔をまじまじと見つめる。
ステラ「You got old! Well, we both did.(歳をとったわね、お互い)」
ジェイク「…So did you.(ああ、だが君はまだ若々しい)」
ステラ「I know! Isn’t it great? We survived! You're still wearing that permanent frown, though!(そう? ありがとう! そうよ! 人生楽しんでるからね、あなたは相変わらず眉間に皺がよってる!)」
ジェイク、言葉を失う。
ステラ、アランの姿に気づき、表情を明るくさせる。
ステラ「Allan! You too!(アラン! あなたも来てたのね!)」
アランと軽くハグを交わす。
アラン「Good to see you, Stella.(会えて嬉しいよ、ステラ)」
ステラ「You look good! Still writing?(元気そうね! まだ書いてるの?)」
アラン「Yeah. Still writing.(ああ。まだ書いてる)」
ステラ「Good! And who are these two?(いいわね! それで、この若い人たちは?)」
シンディ「I’m Cindy. Allan’s niece.(シンディです。アランの姪です)」
ステラ「Nice to meet you!(会えて嬉しいわ!)」
トシキ「I’m Toshiki. Cindy’s boyfriend.(トシキです。シンディの彼氏です)」
ステラ、目を輝かせる。
ステラ「Japanese! How wonderful! Welcome to New York!(日本人なのね! なんて素敵なの! ニューヨークへようこそ!)」
トシキ「Thank you.(ありがとうございます)」
ステラはすぐにジェイクへと向き直る。
ステラ「Come in! Come in! I’ll make tea! And you HAVE to try my cookies!(入って! 入って! お茶を淹れるわ! それと私のクッキー、絶対試して!)」
ジェイク「Stella… I…(ステラ、俺は…)」
ステラ「What?(何?)」
ジェイク「I came to apologize.(ずっと謝りたかったんだ)」
ステラ「Apologize? For what?(謝るって? 今更どうしたの?)」
ジェイク「For… for shooting you. For the book. For everything. I treated you poorly, and then I shot you. Writing that book was just self-indulgence… I hurt you.(ずっと君を邪険に扱っていた。そして君を撃った。本を書いたのも結局自己満足だった、君を傷つけた)」
ステラは軽く手を振る。
ステラ「Oh, that! It was the worst, but it was 40 years ago! And considering all the men in my life, you were actually one of the better ones!(そうね、最悪だったわ、でも大昔のことよ。それに今まで関わってきた男どもに比べたら、あなたはマシな方!)」
ジェイク「What?(なんだって?)」
ステラ「Besides, you kept carrying it around all this time, didn't you? That's enough for me. Come on inside!(それに、ずっと気にしてくれてたんでしょ? それだけで十分! 中に来て!)」
ステラはそのまま店の中へと消えていく。
ジェイクは立ち尽くしたまま。
アランがボソッと耳打ちする。
アラン「Well. At least you didn't get shot again.(おい、とにかく撃たれなかったな)」
ジェイク「…No. Not at all what I expected.(ああ、予想してたのとまるで違う)」
シーン3: 店の中、厨房
清潔な厨房。大きなオーブンから甘く香ばしい匂いが漂っている。
ステラがお茶の準備を進め、ジェイク、アラン、シンディ、トシキの4人がテーブルを囲んで座っている。ジェイクはまだどこか現実を受け止めきれていない面持ちでいる。
ステラ「So! Tell me about the trip! You drove from LA?(それじゃあ旅の事を教えて!LAから車で?)」
ジェイク「Yeah. In the old Mustang. The one Nick gave me.(ああ。覚えてるかな? 例のマスタング。ニックがくれたヤツ)」
ステラ「That old thing still runs? You drove all the way to New York in that?(ちょっと待って? 何十年前の車よ、それでニューヨークまで来たの?)」
ジェイク「Barely. Nick fixed it up in Colorado.(ああ、コロラドでニックに直してもらったがな)」
ステラ「Nick! How is he?(懐かしい… 彼は元気なの?)」
ジェイク「Same as always. Still juggling tools. He was even toying with Toshiki along the way.(相変わらずさ。工具でジャグリングしながら仕事してんだよ。トシキのことも色々弄りながらな)」
トシキ「Eh? Me?(エッ? 俺、イジられてたの?)」
シンディ「You didn't even notice? Unbelievable.(シンディ 逆に気が付いてなかったの?って感じ!)」
一同、思わず笑い声をあげる。
ステラ「Of course he is! And Carol? How is she?(もちろんそうでしょうね! そういえばキャロルは?)」
アラン「She’s learned to match him. She's tough now.(今もニックと一緒、彼女も逞しくなってたよ)」
ステラ「Smart woman. I'd love to see them again someday.(そうなんだ。いつかまた会いたいわ)」
ステラは皿に盛ったクッキーをテーブルに置く。
ステラ「Here! Try these! My signature chocolate chip!(はい!試して!私のシグネチャーチョコチップ!)」
全員がクッキーを手に取り、口に運ぶ。
トシキ「Delicious!(美味しい!)」
シンディ「Oh my god. This is amazing.(すごい。素晴らしいわ)」
ステラ、嬉しそうに目を細める。
ステラ「Right? Everyone loves this, it's my masterpiece! I'm so glad you guys like it!(でしょ? これ、好評なのよ、自信作! あなたたちにも気に入ってもらえて嬉しい!)」
アランは一口食べて目を大きく見開く。
アラン「Stella, this is Michelin-star level, this is art! This cookie alone could be the purpose of a cross-country trip!(ステラ、これは三ツ星級、芸術だよ! このクッキー自体が旅の目的になりうるレベルだ!)」
ステラ「Thank you, Allan!(ありがとう、アラン!)」
ジェイクは静かにクッキーを口に運んでいる。
ステラはジェイクの様子を見つめ、声をかける。
ステラ「Jake? What do you think?(ジェイク、どう?)」
ジェイク「…It’s good. Really good.(美味いよ、本当に美味い)」
ステラ「Just ‘good’? You’re a writer! Say something more articulate! Like Allan over there!(美味いだけ? 作家なんでしょ! もっと上手に感想を言って! アランみたいに)」
ジェイク「I mean it, I'm being honest. Coming all the way here was worth it just for this.(だから本当に美味いと思ってるよ。ここまできて良かった)」
シンディ「Aw, that's actually a sweet review!(イイじゃない、素敵な感想ね!)」
ステラ、楽しそうに笑う。
ステラ「That’s better!(その方がいいわ!)」
アランは厨房を見回している。ステラが手際よくクッキーを焼いている様子を凝視している。
アラン、小声でジェイクに囁く。
アラン「Jake… Look at her. The way she moves. The focus. The mindfulness.(おい、本当によく見るんだ。彼女の動き、集中、あれこそマインドフルネスだ)」
ジェイク「Allan…(おい、アラン)」
アラン「She IS Zen. The pure state of doing, absolute mindfulness, there's even a divinity in it. Jamie never reached this, and it's the exact opposite of Nick…(彼女こそ禅だ、ありのまま、なすべき手順、神々しさすらある。ジェイミーもこの境地には及ばない、ニックとは正反対の…)」
ジェイク、小さく溜息をつく。
ジェイク「Allan, seriously, cut it out.(おい、アラン、イイ加減にしろ)」
アラン「Cut it out? No, don't you understand?(いい加減? そうじゃない、君には分からないのか?)」
ジェイク「You don't have to tie everything to Zen. She's just focusing on baking, that's all.(なんでも禅に絡める必要ないだろ? 普通に集中して作ってる、それだけだ)」
アラン「Focus IS Zen!(集中こそ禅だ!)」
トシキ、少し笑いながら。
トシキ「Allan, you're totally losing it.(アラン、なんか暴走してる)」
シーン4: 額の傷について
厨房。全員がお茶とクッキーを楽しんでいる。
シンディがステラの顔をじっと見つめている。額にある小さな丸い傷跡に気づいたが、聞くべきか迷っている。
ステラはそれに気づき、柔らかな笑みを浮かべる。
ステラ「You’re looking at my forehead.(もしかして、額のキズ?)」
シンディ、慌てて視線を逸らす。
シンディ「Oh! I’m sorry! I didn’t mean to stare!(ごめんなさい! つい気になっちゃって)」
ステラ「It’s OK. Everyone asks about it.(大丈夫よ、みんなに聞かれるの)」
ステラは自分の額を指さす。
ステラ「This? It’s my ‘mark of wisdom.’ That’s what my customers call it.(これはね。私の『知恵の印』。どう? そういう風に考えると素敵でしょ?)」
トシキ「Mark of wisdom?(知恵の印?)」
ステラ「Yeah. They say it looks like a Buddha’s third eye.(そう。ブッダの額の第3の目みたいじゃない?)」
アランは身を乗り出す。
アラン「The urna! The white dot between the Buddha’s eyebrows!(白毫か! ブッダの眉間の白い印!)」
ステラ「Exactly! You know about it?(その通り! わかってるわね!)」
アラン「Of course! It represents divine vision! Spiritual insight!(もちろんだ! 神聖な視覚、精神的な洞察の象徴だ!)」
ステラ、楽しそうに肩をすくめる。
ステラ「Well, I don’t know about ‘divine vision,’ but customers started saying it, so I just rolled with it.(それはよく分からないんだけど、お客さんもそんな事言う人がいたから乗っかることにしたの)」
ジェイクは黙ったまま、カップを見つめている。罪悪感が拭えない。
ステラはそんなジェイクの様子に気づき、優しく声をかける。
ステラ「Jake? What's wrong?(どうしたの? ジェイク)」
ジェイク「…I'm just thinking. It's all my fault.(俺のせいだ…改めて考えてた)」
ステラ「Yeah, 40 years ago, right?(そうね、大昔の話でしょ?)」
ジェイク「You begged me not to… and I left a permanent mark on you.(君は泣いて俺に撃たないで、と懇願した…そして消えない傷をつけた)」
ステラは少し真剣な表情になる。
ステラ「Yeah, I did. I hated it at first. When you published that book and people realized I was the model, it was a rough time. But you know what? This scar became part of my brand.(そう、そうよ、この傷、ホントイヤだった、あなたが本を出して、そのモデルがワタシだって知ってる人もいっぱいいて、苦しい時期もあった…ただね、これ、今ではワタシのブランドの一部になったわ)」
ジェイク「Your… brand?(君のブランド?)」
ステラ「Yeah! ‘Madame Stella and the Mystical Mark.’ My shop logo is even based on it. It's ‘Madame Stella,’ not ‘Aunt Stella’—this sounds much more sophisticated, don't you think?(そう、マダム・ステラの神秘の印。ワタシの似顔絵もそうなってるでしょ? ステラおばさん、じゃなくてマダムステラ。こっちの方が味も上品よ)」
ジェイク、圧倒されて言葉を失う。
ジェイク「I… I don't know what to say. You've completely moved on.(参ったな…君は…完全に前を向いてる)」
ステラ「Exactly! Why drag the past around? I ran away, I came to New York, and I went through plenty of hard times since then. Honestly, you're not even trauma-worthy compared to everything else! But now I'm doing what I love, and it's working. This mark became my identity.(そういう事! 過去は引きずっても苦しくなるでしょ? あなたと出会って、逃げ出してきて、ニューヨークでもイヤな事はたくさんあったわ! あなたなんてトラウマにもならないくらいにね! だけど今はやりたい事をして、上手くいってる。そして額のアザはワタシのアイデンティティになったの)」
ジェイク「Your identity?(アイデンティティ?)」
ステラ「Yeah. So, in a way… if you hadn't shot me, I wouldn't be who I am today. So thanks to you, Jake.(そう、だからアナタに撃たれたから私は今の私なの。あなたのお陰ね)」
ジェイクは完全に意表を突かれ、ただただ言葉を失う。
シーン5: アラン、禅を語る
アランはスッと立ち上がる。
アラン「Stella. Can I watch you bake?(ステラ。お菓子を焼くところを見てもいい?)」
ステラ「Sure. I’m about to make a new batch.(もちろん。ちょうど新しいバッチを作るところよ)」
アラン「Perfect.(完璧だ)」
ステラは手際よくクッキー生地の準備を始める。
大きなボウル、正確に計量された材料。
無駄のない正確な動き、静寂、そして圧倒的な集中力。
アランはその横に張り付き、食い入るようにじっと見つめている。
シンディは小声でトシキに囁く。
シンディ「Uncle Allan is… staring. Could he be trying to learn how to bake?(アランおじさん、すごく真剣に見てる……。お菓子作りでも覚えたいのかな?)」
トシキ「Is that what he's doing? Probably not… Is he okay?(そうだね、お菓子作りを覚えたいって事?ではないよね……大丈夫?)」
ジェイクは小さく溜息をつき、カップルに視線を向ける。
ジェイク「Leave him be. He's just interested.(ほっとけ。ただ興味があるだけだろ)」
ステラはリズムよく生地をこねている。
その無駄のない手際の良い動き。
アランは息を飲み、目を輝かせる。
アラン「This… this is it…(これだ…これだ…)」
ジェイク「Allan…(アラン…イヤな予感がするぞ)」
アラン「No, Jake. LOOK. Really look. She’s not just baking. Everything is mindfulness, natural, flowing, doing what needs to be done. It looks like meditation. Her every movement is Zen itself.(いや、ジェイク。見ろ。本当に見ろ。ただお菓子を焼いてるんじゃない。全てマインドフルネス、ありのまま、流れるように必要な動きをする。瞑想のようにも見える。彼女の一連の動きは禅そのものだ)」
ステラ、楽しそうに笑う。
ステラ「Allan, I’m just baking cookies. Naturally, not mindfully, just doing what I always do.(アラン、いつものようにクッキーを作ってるだけよ。ありのまま、じゃなくていつものまんまね)」
アラン「You don't even realize it? But without a doubt, this is a Zen spectacle!(君自身、気付いてないのか? だが間違いなく、これは禅的な光景だ)」
アランはさらに熱を帯びて語り出す。
アラン「Stella. You ARE Zen. You embody it. Through baking, you have accepted your past and overcome your pain. Turning your pain into power, making that scar your own strength—it is so noble. This is ENLIGHTENMENT!(君自身を体現しているんだよ、クッキー作りを通して。過去を受け入れ、痛みを乗り越えている。過去のキズを自分の力へと変える君は、とても尊い。これこそ悟りだ)」
ステラ「I don’t know about enlightenment… but maybe you’ll reach Nirvana if you eat a cookie?(それはどうかわからないけど…きっとクッキーを食べたら悟りは開けるかもね!)」
アラン「EXACTLY! You don’t need to know, you ARE it! Jamie Stone talked about Zen. Nick Cassidy lives in chaos. But you? You’ve transcended! Your cookies, your mind, your spirit—it all proves it!(やはり! そうだ! 間違いない! ジェイミーは禅について語った。ニックはカオスそのもの、そして君は? 超越してる。君のクッキーが、思考が、精神が! それを証明している!)」
ジェイクは頭を抱えてため息をつく。
ジェイク「He’s not going to stop…(スイッチ入ったな…もはや手遅れだ)」
トシキ「I have no idea what he's talking about…(なに言ってるのか分からないね)」
シンディはあきれ顔で小声で言う。
シンディ「He turns any topic into Zen now. Uncle Allan is totally in his element.(今はどんな話題も禅の話になっちゃってる。アランおじさん、ノリノリね!)」
ステラは生地をオーブンに入れ、タイマーをセットして振り返る。
ステラ「Allan. I appreciate the enthusiasm. But really, I’m just doing what I love. It's totally normal.(アラン。本当に好きなことをしてるだけよ、アラン。こんなの普通よ)」
アラン「That’s EXACTLY it! Doing what you love! Without ego! Without attachment to outcome! PURE ACTION!(そのマインドこそ神聖なんだよ、好きなことをする、エゴも執着もない、なんて純粋なんだ!)」
ステラ、楽しそうに笑う。
ステラ「OK, Allan. If you say so.(わかったわ、あなたがそういうなら、そういう事なのよね)」
アラン「I DO say so! In fact, I need to write this down. Do you have paper?(その通り! この感動は記録しなきゃ! 書くものある?)」
ステラ「In the office. Down the hall.(オフィスに。廊下を下って)」
アランは大急ぎで廊下のほうへ走っていく。
ジェイクは去っていくアランを見送り、それからステラを見る。
ジェイク「Sorry about him. He’s always like this.(あいつ、相変わらずだろ?)」
ステラ「Don’t be. He’s sweet. In his own chaotic way.(そうね、相変わらず! 勝手に感動して、勝手に興奮して、いい人よ)」
ジェイク「He’s obsessed with Zen. With finding meaning in everything.(何にでも感化されて大喜びする、子供みたいな爺さんだ)」
ステラ「We all have our obsessions. Look at us. We're old now, aren't we?(そっか、もう私たち、爺さん婆さんなんだ)」
ステラは優しくジェイクを見つめる。
ステラ「You OK, Jake? You seem… uncomfortable.(どうしたの? ジェイク)」
ジェイク「I… I expected you to be angry. Or to hate me.(いや、憎まれてるんじゃないか、って思ってたんだ)」
ステラ「I was. For years. But like I said…(そんな時もあったわ、でも言ったでしょ? あなたとの時間があったから、今の私があるの)」
ジェイク「I came all this way expecting… I don’t know what. But nothing is like I imagined.(ここに来て、何もかも予想してたものと違ったから、頭がおっつかない)」
ステラ「So you came all the way from LA to New York to apologize, is that it?(なるほどね! あなたは謝罪しにLAからニューヨークまできたって事なのね! 要するに)」
ジェイク「…Yeah. Basically.(まあ、そういう事だ)」
ステラ「Sorry to disappoint. Did you want me to nag and chew you out?(ガッカリした? もっとネチネチ言って欲しい?)」
ジェイク「I’m not disappointed. I’m… confused. Completely.(ガッカリな訳ない。ただ混乱してるだけだ)」
ステラは楽しそうに笑う。
ステラ「Good. Consider it payback. You used to drive me crazy all the time.(いいわね、立場逆転よ! 昔はこっちが混乱させられてたからね!)」
シーン6: 夕方、コールデン登場
店の外。日が暮れ始めている。
ジェイク、アラン、トシキ、シンディが店から出てくる。
ステラが入り口で見送っている。
ステラ「Come back tomorrow! I’ll make breakfast!(明日また来て! 朝食作るから!)」
ジェイク「Are you sure?(本当にいいの?)」
ステラ「Of course! We have so much to catch up on!(もちろん! 話すことたくさんあるわ!)」
ジェイク「OK. Tomorrow.(分かった。明日)」
その時。
一人の少年(10代後半、高校生くらい。リュックサックを背負い、ヘッドフォンを首にかけている)が店に向かって歩いてくる。
コールデン・サリンジャー(Colden Salinger)。
ステラに気づき、声をかける。
コールデン「Aunt Stella. I’m home.(おかえり……じゃなくて、ただいま。ステラおばさん。帰ったよ)」
ステラはパッと顔を輝かせる。
ステラ「Colden! Perfect timing. Come meet some old friends.(コールデン! 完璧なタイミングよ。古い友人が訪ねてきてくれたのよ)」
コールデンはジェイクたちをちらりと見る。表情は変えない。
コールデン「…Hi.(こんにちは)」
ステラ「This is Jake. And Allan. And Cindy and Toshiki.(こちらはジェイク、アラン、それからシンディとトシキ。LAからきてくれたの)」
コールデンはジェイクの顔をじっと見つめる。
コールデン「Jake Kendrick?(ジェイク・ケンドリック?)」
ジェイク「…Yes.(ああ)」
コールデン「The traveling writer and poet.(放浪作家で詩人の?)」
ジェイク「…Yes.(まあ)」
コールデンは小さく頷く。
コールデン「Interesting.(面白いじゃん)」
そして、そのまま店の中へと入っていく。
ジェイクは去っていくコールデンの背中を見送り、ステラを見る。
ジェイク「Your nephew?(彼は……甥っ子?)」
ステラ「Yeah. Colden. He lives with me.(ええ。コールデン。一緒に住んでる)」
ジェイク「He seems… unique.(彼は……変わってる?)」
ステラ「Quiet? Intense?(静か? それともめんどくさい?)」
ジェイク「…Yeah.(まあそうだね)」
ステラは少し笑う。
ステラ「He’s a good kid. Just… a handful. A bit like someone else I used to know.(いい子なのよ。ただ、めんどくさいとこあるけどね、あなたとは違う系統ね)」
ジェイクは苦笑いする。
ジェイク「Great.(なるほどね)」
店の中。
コールデンは窓から外のジェイクたちをじっと見つめている。
表情のない、鋭い眼差し。




