ユリクス王子反対派
ミーネルの嫌がらせが消えたことで、シャーロットの計画に支障をきたしたのか、ここ数日平穏な日々を過ごせている。
エルナとはちゃんと友人になることができ、最近は二人で過ごすことが多い。ユリクス王子も毎日のように私と無駄な貶し合いをする気はないらしく、私がいる前では彼は私たちの元には来ず、別のクラスメイトと関わりを持つようになった。彼がエルナに惹かれる前に手を打っておいて正解だったわ。きっと惹かれていたら問答無用で話しかけて来ていたでしょうから。
そしてミーネルはというと、シャーロットに変な噂を流されたせいで1人静かに教室で過ごすことを強いられるようになった。たまにクラスメイトから彼女に対する悪口を耳にするが、当の本人は気にしないようにしているのか、もう諦めているのか、突っかかろうともせず無視を貫いている。
「―――は〜い! みんな授業始めるよ〜!」
そう言いフレア先生は私たちの視線を自身に集める。
「魔法大会まであと1ヶ月を切ったから、今日からはそれに向けて実践的な魔法の練習をやっていきます!」
魔法大会。
それは1体1で魔法のみを使用し、戦う大会である。クラス内で予選をし、勝ち上がったものだけが本戦に出場することが出来る。本戦では他クラスとも戦うことになるので、優勝したものは必然的に学年で1番の魔法の実力者ということになるのだ。
「それじゃあ、二人一組になってもらいます―――」
そう言いフレア先生は独断でランダムに二人組を作っていく。きっと魔法大会を意識してのことだろう。色々な人と練習をした方が実戦経験を積める。
「よ、よろしくお願いしますアセロナ嬢⋯⋯⋯⋯」
眉毛を隠すほどの前髪とあどけなさの残る優しい瞳を持つ少年。カッコイイよりも可愛いという方が先行してくる。だがその表情には自信のなさなのか、何か悩みでも抱えているのか、暗く、落ち込んでいるように見える。
彼は確かルイ・エードルトね。
エードルト男爵家の落ちこぼれ。そんな噂を聞いたことがあるわ。
お兄さんが生徒会に所属する優秀な人だから、比べられてそんな事を言われているのでしょうね。
「よろしくルイくん」
そしてクラスメイト全員が二人組を組んだところで、フレア先生は口を開く。
「それじゃあ、今からその二人組で戦ってもらうよ! 魔法大会のルールと同様、あんまり強い魔法は使わないでね!」
そして先生の指示を元で、順番に二人組は試合をする。ユリクス王子は何の因果かエルナとペアーで、簡単に勝っていた。それもエルナが傷つかないよう配慮し、最後は座り込んだエルナに手を伸ばし、甘い言葉を吐いていた。
やっぱり隙を見せるのは良くないわね。
そして私たちの番が回ってきた。
私たちは対面に向き合い、お互いに見つめ合う。そして戦闘態勢に入った。
「それじゃあ―――始め!」
フレア先生の合図とともに私たちは魔法を詠唱する。
「<蔦掌>」
「<岩弾>」
ルイは【土の魔法】の使い手。
彼から放たれた野球ボールサイズの岩は、そこまで速いとは思えなかった。
容易に対処できるレベルのものだ。
私は蔦をしならせて、その岩を弾く。
「えっ⋯⋯⋯⋯」
それを見てルイは驚いた顔をする。
そして次の攻撃に転じようと、彼は再び詠唱を始める。
だがもう遅く、私の蔦が彼を捉えようとしていた。彼は体をひねり、何とか蔦を避ける。
そして出来た私の隙を逃さず。
「<岩弾>」
そう唱えてルイは私目掛けて岩を飛ばしてくる。
「<薔薇棘>」
私は棘を放ち、その岩を迎え撃つ。
棘は岩を容易に砕き、尚も速度を落とさずにルイ目掛けて飛ぶ。そして彼の頬を掠めて地面に刺さった。
「嘘っ⋯⋯⋯こんなにも⋯⋯⋯」
ルイは既に戦意喪失しているように見える。
圧倒的な実力差の前に唖然とし、次の手を打つまでに一息遅れた。
「<蔦掌>」
私はそんな彼に容赦なく蔦を放ち、彼の目の前で止めた。勝負は着いたのだ。
「そこまで! 勝者アセロナ嬢!」
私は魔法を消し、ルイに駆け寄る。
「大丈夫かしら?」
私は座り込む彼に手を伸ばす。
「⋯⋯⋯はい。大丈夫です⋯⋯⋯」
彼はその手を取らず自分で立ち上がる。
「すみませんアセロナ嬢。僕なんかじゃ練習にもなりませんよね⋯⋯⋯⋯」
そう言う彼の顔には先程よりもいっそう自信のなさが目立つ落ち込んだ表情が伺える。
「そんな事ないわ。むしろ良くやった方よ。だってあなた<花の魔法>の不利属性じゃない。魔法の打ち合いでそう簡単に勝てるものじゃないわ」
「⋯⋯⋯⋯ありがとうございます。励まして頂いて⋯⋯⋯⋯。でも僕の実力不足には変わりません⋯⋯⋯⋯」
「そう。まあ努力を忘れないことね。そうすればもう少しは戦えるようになるんじゃないかしら」
私がそう言うとルイは浮かない顔をする。
そして独り言のように。
「⋯⋯⋯努力ですか⋯⋯⋯」
とまるで努力しても報われない、とでも言いたげな口調でそう口にした。
※
授業が終わり放課後を迎えた。
魔法の授業以降、エルナをユリクス王子に取られてしまい、私は一人帰路に着く羽目になってしまった。フレア先生は何を考えて彼らを同じペアーにしたのか、問いただしたいわね。
そして私は教室を出て校門へと向かう。
その途中、校舎の影でルイが他クラスの数人と話している様子が目に入った。
何を話しているのかは分からないが、嫌な予感がしてならない。だって彼と話している相手というのはゲーム本編に悪役として登場するネームドキャラの1人なのだから。
⋯⋯⋯⋯あまり関わらない方がいいかしら。
でも彼がルイに接触したということは⋯⋯⋯⋯魔法大会で起こるあの事件の準備をしている可能性が高いのよね。
そんな事を思いながら横目で彼らを見ていたところ、不意にルイと話す男と目が合った。
するとその男は、まるで獲物を見つけた捕食者のように私を視界に捉えたまま視線を逸らさない。
そして企の笑みを浮かべて私の方へと歩み寄ってきた。
「初めましてだよな。アセロナ・ヴィルハート」
肉食獣かのような鋭く威圧感のある瞳。
ガッチリとしており、自信に満ち溢れているような身体を持つ男。
「私に何か用かしら? というかあなた誰よ」
「知らねぇのか? それは残念だな。オレはゼノバイド・ディーベル。一応公爵家の人間なんだぜ」
「そう。私は他の家のことなんてあまり興味が無いから知らなかったわ」
私がそう言うとゼノバイドは何か見透かしているような表情を浮かべ。
「そうか? そうには見えなかったけどな。ほんとはオレのこと知ってたんじゃねぇか?」
彼は私の真意を読み取ろうと私に視線を向けてくる。私はそんな彼を睨みつける。
ゲーム本編に出てくるのだから当然ゼノバイドのことは知っている。でもこうして実際に会ったのは初めて。関わり合いを持ちたい相手ではないし、わざわざ歩み寄る必要もない。
「⋯⋯⋯まっ、どっちでもいいさ。たまたま目に入ったんで、挨拶でもしておこうと思っただけだからな」
「そう。じゃあついでだから聞きたいのだけど。私のクラスメイトと何を話していたのかしら?」
私がそう言うとゼノバイドは含みのある笑みを浮かべて。
「他愛もない話さ。少なくともアセロナには関係ねぇことだ」
「なら誰に関係があるのかしら? エルナ? それとも―――ユリクス様?」
「⋯⋯⋯⋯ユリクス⋯⋯⋯⋯。そう言ったらどうする?」
「気にしないわよ。勝手にすればいいわ」
「⋯⋯⋯クハハハハ、そうか。冷たい女なんだなお前」
ゼノバイドはそう言い私に興味示すような視線を向けてくる。
「⋯⋯⋯⋯だけど関係のない他人を巻き込むのはやめてもらいたいわね。やるならあなたとあなたのお仲間でやってくれないかしら?」
「⋯⋯⋯心配すんな。ルイはオレの仲間だからよ」
「そう。それなら良いのだけど」
そしてゼノバイドは去り際に。
「まあオレの邪魔はしないことだな。そうすりゃあ痛い目に遭わずに済むぜ。だがオレとしては一度くらいお前と戦ってみてぇところだ」
「出来ることなら遠慮したいわね」
「そうか」
その後、ゼノバイドは仲間を連れてこの場を去っていった。残されたルイに私は歩み寄る。
「何を話していたのか教えてくれるかしら?」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
ルイはまるで誰かに口を押さえつけられているかのごとく、開けようとせず何一つ話さない。
「ゼノバイドに関わってもいいことないわよ。早いところ」
「―――すみませんアセロナ嬢。僕行かないといけないんで」
どこまでも暗い表情を浮かべ、俯いたまま彼は立ち上がると逃げるように私の元から去っていった。
シャーロットの波が落ち着いたと思えば、次はゼノバイドね⋯⋯⋯。
彼のやることはシャーロットと違った意味で容赦がない。他人に傷をおわせることだって厭わない暴力的な男。
関わり合いになりたくはないけど、見過ごしたままというのも私にとっては危険かもしれない。
なぜなら彼、ゼノバイド・ディーベルは―――『ユリクス王子反対派』のリーダーなのだから。
ユリクス王子の婚約者である私にとって、ゼノバイドと関わり合いにならないなんて無理がある。邪魔しなければ良いって話だけれども。
そう簡単にいくとも思えないし。
どうしたものかしら⋯⋯⋯⋯。




