9 -組合支部長-
______ろ。_____きろ。
ん......?誰だ、私の眠りを妨げるのは。
いや、待てよ。確か、何か用事を忘れているような......。
「起きろ、と言っているんだ。娘っ子」
「誰、だ?眠い......」
脳の覚醒に時間がかかりすぎている。
面と向かって魔物と戦うという事が、無意識の内に疲れとなっていたのだろう。
「冒険者組合モズー第一支部のギルドマスター、ダグレスだ。君のような少女がミノタウロス・バーサーカーの角を持ってきたと言うから、直々に話しに来た」
忘れていた。私はギルドに来ていたんだった。
長身でがっしりとした体型、白髪混じりの黒短髪。恐らく人間だろう。
その表情には少し胡散臭い笑みが張り付けられており、真面目とは程遠い存在に見える。
「私の何が知りたいんでしょう?ただのお子様ですよ」
「ただのお子様は、Cランクのモンスターを単独で討伐しないんだよ」
それは、一理ある。
しかし、私はこの世界では間違いなくただのお子様だ。
どう説明すれば穏便に報酬だけ貰えるだろうか。
「君の事は少し調べさせてもらった。盗賊団と共に、国境沿いの森から現れた少女。立ち振る舞いも、言葉遣いも貴族のようで、恐ろしく魔法に長けているとのこと」
......あの盗賊の頭領か。私の事を話せないように魂に刻んでおくべきだった。
「こんな話を知っているか?隣国の貴族の御息女が1人、家から逃げ出したらしい。理由は分かっていないが、風魔公が兵を連れていたところを見ると、何かやらかしたんだろう、との事だ」
「あら、貴族様でもやんちゃをするんですね。もっとお淑やかなものを想像してましたよ」
「はは、そうだな。俺もそう思うよ、ルミ殿」
どうやら完全にバレているようだ。しかし、私はバレて困るような事はしていないはずだ。
この男......ダグレスといったか。ダグレスがユースデクス家に依頼されて私を探しでもしていない限りは、問題無い。
「隠しても仕方なさそうですね。如何にも、私は元ユースデクス家長女のルミ・ユースデクスです。以後お見知り置きを」
「これはまた丁寧に。正直なところ、そこまでは分かってるからどうでもいいんだ。俺が知りたいのは、どうやってミノタウロス・バーサーカーを単独で倒したか。それとついでに、なんで仮想敵国にもなってるこの帝国に逃げてきたかだ」
ふーむ......。
この場で、この男に私の秘密を話してしまって良いものか。
何処で誰が聞いているかも分からないし、今の私は睡眠の対策をされたらただの少し魔法が出来る女児だ。
だが、この男が何も話さずに逃してくれるとも思えん。
______ええい、面倒くさい!私は眠いんだ!
「闇属性中級魔法《静寂》か。一応人払いは済んでいるが。それほど重要な事なのか」
「えぇ。というか、私は眠いのでさっさと済ませます。この情報を渡す条件は2つ。私の後ろ盾になる事、そしてこの秘密を私に対して不利になる相手に話さない事です」
「随分とまっすぐものを言うな。まあいい、契約魔法は必要か?」
「勿論」
契約魔法というのは、無属性魔法の一種だ。
一方が契約の条件を声に出し、もう一方が承諾すると締結される。
紙で行う契約魔法もあるが、証拠として残したい場合や、契約内容が長い場合などしか使われない。
「我、ルミが契約魔法を行使する。契約内容は、『私が契約対象に対して嘘偽りなく情報を提供する代わりに、契約対象は私の後ろ盾になり、得た情報を私の不利益にならない様にする。2つ目の内容に関しては、過失であればその罪は問わない。契約に反した場合は、自らの魔力によってダメージを受ける』とする」
「我、ダグレスはルミの契約魔法を承諾する」
お互いの体内に、契約魔法の鎖が巻きついていく。
思えば、これも魂に作用する魔法なのだろう。知らずに使っていたが、明らかに魂に命令を刻む私の夢魔法に酷似している。
つまり、契約魔法の伸びる先を見れば、魂のどの部分に命令を刻むべきかが分かるかもしれない。これは研究のしがいが......。
「おい。それで、どうやってミノタウロスを倒したのだ」
全く。人が考えている所を邪魔しないでほしいのだが。
まあ、ギルドの長として大切な事なんだろう。新人の情報というのは。
「魂、と言って分かりますか?」
「......禁術の一種だと聞いたことがある。実体のない、第二の心臓のようなものと。......唐突にそんな話をするということは、まさか」
意外だな。ギルド支部長とはいえ、一介のギルド職員が知っているという事は帝国では大した情報ではないのだろうか。
いやしかし、禁術ではあるような口ぶりだった。帝国でも使用を禁じられていたら面倒だな。
「ええ、私は魂に干渉する魔法が使えます。帝国の法に触れる可能性を考え、《静寂》と契約魔法という保険を掛けさせていただきました」
「信じがたいが、契約魔法によるダメージがないのを見ると本当なのだろう。帝国では禁術だろうが何だろうが、使う分には問題はないぞ。禁術指定された魔法を用いた犯罪は、かなり罪が重いが」
ならば問題はない。当然犯罪を犯す予定はないし、仮に犯しても魂をいじればバレることはない。
そして、私の魔法を知ったダグレスは得心がいったようだ。
「つまり、禁術を知ってしまったが故に国を追われ、この国に来たという事だな」
「話が早くて助かります。それでは」
私が帰ろうとすると、彼はなぜか私を静止する。
なにやら、まだ情報が欲しいらしい。
「当然だ。その魔法も見ずに情報とは呼ばんだろう」
「......眠いと申し上げた筈ですが。お望みであれば今貴方の魂を貰ってあげてもいいですよ」
私の眠気を邪魔しよってからに。
ギルドの長として、盗賊の雑兵よりは強いだろう。
強さによって魂の質が変わるかどうかも実験したいし、丁度いいか。
「馬鹿者が。俺に何か異常があれば疑われるのは君だ。それに、君に殺されるほど柔ではない」
......ッ、間違いない。
眠気で正常な判断が出来てないとはいえ、言われて分からないほどではない。
「それに、今すぐ見せろというわけではない。明日は忙しいから......2日後、訓練場に来てくれれば良い」
「わかりました。代わりに、幾つか用意してほしいものがあります。代金は......ミノタウロス・バーサーカーの角の報酬から引いてください」
私は非力だ。いずれエクソーバーとなるなら、出来ることは増やさなくてはならない。
そのためにも、色々とほしい物がある。ミノタウロス・バーサーカーの角の代金で足りるといいのだが。
「よかろう、揃えておく。代金は足りないが、これからの君への投資と考えて負けておいてやる」
正直、非常に助かる。眠るのに必要な金は減らせないからな。
さて、では帰るか。
「待て。最後に、聞きたいことがある」
......この男、私の眠りを妨げることを目的にでもしているのか?
いずれ殺してやってもいいかもしれない。
「君は、何を求める?」
本気で聞いているようだな。
この男が先ほどまで浮かべていた、不敵な笑みが消えた。
惰性でギルドマスターをやっていると思っていたが、根にはこの街を守りたいという心があるのだろう。
仕方ない、殺すのはやめておいて、真面目に答えてやろう。
「私の欲するものは、最高の睡眠だ。力も、金も、なにもかも......その為の過程にすぎない」
「ほう?その年齢で禁術を習得するほどの努力と才能は、全て好きなだけ寝たいからだ、と?」
「当然だ......いえ、当然ですよ。眠りより優先される事項など、この世に存在しません」
「......くっ、はっはっはっは!!面白い、面白い娘っ子だ!気に入った、俺は、君のその野望に全面的に協力しよう」
変わった事を言っている自覚はあるのだが、気に入られるとは思わなかった。
契約魔法で後ろ盾になってもらうことは確定しているのだが、更なる協力を得られたのは思わぬ収穫だ。
しかし、そんなことより私の眠気を解消することが最優先だ。
挨拶もせず、急いで宿屋に向かった。
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