66 -褒賞-
「ん?聞いていないのか?」
そんな話は聞いていないし、言ってしまうなら自分がどうやって戦ったのかもあまり覚えていない。
炎魔公の炎に全く近づけず、最終的に権能で焼かれた記憶しかない。
「そうですね......従魔の2人が何かしたという事でしょうか?」
「副隊長のエニエニが、貴様が倒れた瞬間に炎魔公を蹴り倒したと聞いている」
エニエニ......『雷脚』とかいうエクソーバーだったはずだ。
確かに私はアイツを操っていたが......ああ!思い出したぞ。
「そういえば、戦いを始める前に『私の命令に従って炎魔公と戦い、私が負けたら隙を見て炎魔公を攻撃しろ』と命令したことを思い出しました」
そう、私はあの時負けると分かっていた。
ならば、相手が最も油断するであろう私の無力化を終えた瞬間を狙いたかったのだ。
幸い、一度刻んだ命令は私が気絶しようともしばらく消えない。
それが上手く働いたという事か。
「想像より良いところに命中したようで、一撃で気絶させたようだ」
嘘だろ。
『雷脚』というのは伊達じゃないようだな。
格闘術という面で言えば、やはりエクソーバーとして相応しい火力を持っているらしい。
「保険のつもりで命令したのですが、上手くいっていたのですね」
「機転の利く戦いが出来る者は強い。道理だな」
随分買ってくれているようだ。
しかし、私としては棚ぼたなので褒められてもあまり実感がない。
「そこで、一応聞いておきたい。帝国に仕える気はないか?ある程度の身分は保証しよう」
来たか。
当然私はそのつもりは無い。
皇帝もそれが分かっているようで、あまり本気で勧誘してこない。
「申し訳ありませんが、私は貴族としての身分を捨てた身です。自由を求めて逃げた私に、その座は相応しくありません」
「そういうだろうと思っていた。しかしそうなると、貴様は何を求める?ユースデクス子爵領を事実上の単騎制圧だ。褒賞が何も無しでは示しがつかん」
貴族というのはそういうものだ。
良い働きをした者に、働きに見合った褒賞を与えられなくば上に立つものとして舐められてしまう。
皇帝の面子を保つためにも、私は何かを要求しなくてはいけない。
幸い私は、求めるものがいくつかある。
「私がユースデクス子爵領を制圧した理由にもなるのですが、私の家族の命を助けていただきたいのです。恐らく父上や母上は民も守りたいと言うでしょうが、私は家族さえ守れればそれで構いません」
普通、侵略された領地を治める一族はまとめて処刑される。
その領地を取り返すための神輿として担ぎ上げられる可能性があるからだ。
今回のように降伏しようとも、良くて軟禁が当たり前。
しかしそれでは、私がわざわざ守りに行った理由がない。
「何を言っている、私はもとよりユースデクス子爵領を害する気はない。帝国への忠誠を誓うのならあのまま土地を治めてもらった方が面倒も少ないからな」
......この皇帝は、私が思っていたより甘い男のようだ。
私としては願ったり叶ったりだが、これではあまりに危険が伴う。
「......お言葉ですが。私の両親があのまま領地を治めるというのは、あまりに危険かと。仮に謀反を起こすとなった場合、王国の軍が隠れる良い隠れ蓑になりかねません」
私はユースデクス家の皆を守りたいとは思っているが、かといって帝国を害する気も無いのだ。
どれだけ私が止めようとも、ライ兄上がどういう判断をするかなどの不安材料は付きまとう。
それをどうにかするには、ユースデクス家の解体が一番良いはずだ。
「ふむ......己の利益より、帝国の安全を取るか。余は貴様の意見を尊重しよう。しかし、既に上手くいっている領地に余計な手を加えるのは勿体ない」
皇帝は私の意見に頷きつつも、決定を覆す気は無いようだ。
と思っていたのだが、皇帝の言葉はまだ続いた。
「なので、こうしよう。貴様をユースデクス子爵領の所有者とし、その統治をユースデクス家の者に任せるかどうかは貴様に委ねる」
......なるほど?
この男、ただ甘いだけかと思っていたがやはり優秀だ。
ミェンが名君だというのも理解できる。
帝国からすれば、私に領地を与えるという褒賞の問題の解決。
そして帝国の人員を割かずに新たな領地を治めることが出来るという効率の良さ。
更に、何か問題があった場合は私の責任を問える損切のしやすさ。
全てを解決する、素晴らしい案だ。
......私の面倒が増えるという、最悪の事態に目を瞑ればな。
「......皇帝のご慈悲に感謝いたします」
「まあ待て、そのような顔をするでない。貴様がこんなもので喜ばないことは分かっている。他に欲しい物があれば、まだ融通してやる。だから機嫌を直せ」
やはり私は、感情が顔に出てしまうらしい。
しかしそのおかげか、更に褒賞を貰えるらしい。
「身に余る光栄に、感謝いたします。では2つ伺いたいことが」
「ほう?言ってみろ」
正直、私にとってはここからが本番だ。
領地については降伏出来た時点でどうにかなると思っていたので、上手くいくか不安なのはここからなのだ。
「1つ目は、この城のまつろわぬ者についてお聞かせ願いたいという事」
「だろうな。むしろこの質問は間違いなくあると思っていた」
まあ、冒険者のような”力こそ全て”という身分の者が気にならない訳も無い。
上手くいけば、己の強化につながるのだからな。
「そして2つ目は、一旦端的に申し上げます。皇帝として、力をつけたいとは思いませんか?」
______キィン!!
そう問うた瞬間、アヤメの剣と先ほどのメイドの短剣が私の首元でぶつかる音がした。
......ひやひやさせてくれる。
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