64 -情報収集-
馬車に揺られる。
私が帝都に来るまでに使っていた馬車とは品質が段違いだな。
私は既に例のドレスに着替えているので、馬車の質も相まってまるで貴族だ。
「そういえばノワール、さっきはどうしたんです?」
私が言っているのは当然、組合で私に話しかけてきた男性への対応のことだ。
ノワールが攻撃的な面を急に見せるなど、初めてだった。
「あそこに"例の方々"がいる可能性を考えたら、思わず手が......あるじ様の顔に泥を塗ってしまいましたわ」
例の方々......『凶星』か。
確かに、私やノワールの索敵を掻い潜る術を持っていてもおかしくは無いな。
私も少し無警戒が過ぎたかもしれない。
「そのノワールの警戒のおかげで、助かる事があるかもしれません。あれだけ露骨にやるのは控えてほしいですが、私に足りない部分を補ってくれるのは助かっていますよ」
私の言葉に、感極まった様子のノワールはアヤメの胸に顔をうずめた。
わんわんとアヤメの胸で泣いている。
「わ、服が濡れるっすよぉ」
アヤメは嫌がりつつも、ノワールの頭を撫でてやっている。
とりあえず任せておくか。
2人は置いておいて、私はわざわざ連れてきた女性を見る。
馬車の隅で、カチコチに緊張して座っている。
「さて、受付嬢さん......名前を知らないと不便ですね、お名前は?」
「ミェンジェン、です。ミェンと、良く呼ばれます」
一言一言を間違えないように、まるで地雷原の上を歩かされているかの如く慎重な言葉遣いだ。
しかし、私はこんな対応をしてほしいわけではないのだ。
「ではミェン、過剰に私を怖がる必要はありません。ただ反省していただければそれで良いのですよ」
実際問題、これ以上何かをする気はないしな。
無駄に怖がられても面倒だ。
「申し訳、ありませんでした。以後あのようなミスはないように注意します」
「ええ。私と違って、情報を出されたら困る人だって居ますからね。冒険者組合にいるなら彼等を守ってあげてください」
ユースデクス家に少しいただけで、貴族のようなおためごかしの言葉がつらつら出てくるようになった。
私としても、ここで恩を売っておいて損はないからな。
心なしか、彼女の緊張した表情も真剣な表情に変わった気がした。
「これでこの話はおしまいです。次の話に移りましょう。今から向かう皇帝のこと、帝都で働く方なら色々知っているでしょうから教えてください」
そう、ミェンを連れてきたもう1つの理由はこれだ。
私は余りにも帝国の歴史や皇帝について疎い。
帝都で働いている受付嬢なら、色々な情報を持っていてもおかしくないだろう。
「分かりました。では、千剣城に到着するまで何でも答えさせていただきます」
千剣城?まずはそこからだな。
「ローザル帝国の帝都に位置する、皇帝の住まう城の名前です。初代皇帝が名付け、建てた城だと言われています」
ほう。
物騒な名前だと思ったが初代皇帝のセンスか。
何か由来があったりするのだろうか。
「そうですね。千剣城は意思を持っていて、力を持つ者に何かを与えるとかなんとか......といった都市伝説が信じられています」
貰えるものの中に、剣があったという訳だな。
さらに、初代皇帝がもらった物が丁度剣だった......とかか。
「良くお分かりで。そういう事です」
なるほどな。
しかし、何がどうなって城が人間に物を渡すんだ?
どんな魔法、どんなスキルが使われているのか見当もつかない。
だとすれば考えられるのは......。
「私は力を持っていますが、何か貰えるのでしょうか?」
「さあ、そこまでは。ですが、何か特殊な工程を踏まないといけないとかなんとか言いますよ」
だとしたら、普通に何かを貰うのは無理だな。
城でダメもとで頼んでみるか。
「そういえば、皇帝はどんな人物なんです?」
城の話ばかりで、肝心の皇帝について聞いていなかった。
正直、こちらの方が大切なのだから。
「とある理由があって呼ばれていませんが、名君だと思います。民の事を大切にする良い皇帝です」
それは素晴らしい。
侵略国家のローザル帝国のことだから、民に我慢を強いる苛烈な皇帝の可能性もあると思っていた。
しかし、とある理由とはなんだ?そんな皇帝なら文句なく名君だろうに。
「10年前に父である皇帝が崩御なさったのですが、彼の皇帝はあまりにも全てに長けていました」
知略、戦闘、カリスマ。
全てにおいて優秀な、天賦の才というのはいつの時代もいるものだ。
現皇帝の父親はそういう人間だったのだろう。
「ここまでローザル帝国が大きくなったのは、間違いなく前皇帝の手腕でしたから。そして、その後に即位した現皇帝は戦闘があまり得意ではありません」
ここでいう戦闘とは、単騎戦闘のことだろう。
皇帝にそんなものが必要なのだろうか?
どうせ国内から出ることなどないだろう。
「前皇帝は自らが最前線に立ち、魔公とも戦ったそうです」
恐ろしい話だ。
魔公と戦える皇帝だと?
その上知恵も回るなど、無敵ではないか。
「ですので、Aランク冒険者程度の力しかないと言われている現皇帝は少し物足りないと言われています」
いや、Aランク冒険者も弱くはないのだが。
ヴェンやアリアンナに匹敵するのであれば、間違いなく強者と言えるはずなのだが。
現皇帝は前皇帝の影にずっと追われているのだな。
「なるほど。良く分かりました」
私がやるべきなのは、皇帝から城の秘密を聞き出す事。
そして、上手く気に入られたら《認識》で強くなる術を伝えてやる事だな。
「そろそろ着きますよ。準備は出来ていますか?」
私が2人に目配せすると、静かに頷いた。
アヤメの胸はノワールの涙で濡れている。
馬を止める音が聞こえ、少しずつ揺れが収まっていく。
千剣城、到着だ。
毎日投稿挑戦中です。
読んでいただき、ありがとうございます。
ブックマーク、いいね、評価、感想、レビューなどなんでも励みになりますので気が向いたときにお願いします。




