49 -経験-
父上が負けを認め、次は母上とノワールの模擬戦だ。
ノワールは《贋者》を使用して蜘蛛形態になると、近接戦がアヤメに匹敵するため今回の趣旨的に禁止することにした。
「よろしくね、ノワールさん」
「よろしくお願いしますわ!わたくし、手加減には慣れておりますのでご安心くださいまし!」
ナチュラルに母上を見下しているノワールだが、私の見立てではこういう戦闘において母上は強い。
本来魔力量、魔法の威力を考えれば母上に勝ち目はない。
しかし、ノワールの言うように寸止め(魔法戦なら致命的な怪我をしない程度の威力)の場合、ノワールは手加減をしなくてはならない。
つまり、母上はある程度耐えられる威力の魔法しか受けることはないのだ。
その上、ノワールは技術が求められる模擬戦の経験は無いに等しい。
私は模擬戦を滅多にしないし、アヤメとしている時は魔法を意識する必要がないからだ。
母上は恐らく、かつて魔法を用いた模擬戦を幾度となくしてきただろう。
その経験が、ノワールを苦しめる結果にならなければ良いが。
「では......始め!」
ノワールはまず、《贋者》を使用して翼を生やす。
なるほど、上空から魔法を撃ちまくる作戦か。
確かに、地面を這う魔法や地面から生える魔法は数多くある。
罠を張る魔法もあり、それも地面を参照することは多い。
2つを同時に無効化しつつ、視界を広くとって戦う良い手だ。
「流石ね、ルミが連れてる子が普通なはずなかったわ。《岩弾》」
どういう意味かは後で聞きたいところだが、とにかく母上は地属性の攻撃を選択した。
魔力量に大きな差がある相手には、この上なく良い選択と言える。
相手の防御によって魔力を失っても一定時間物理的な攻撃として使えるからだ。
実際ノワールも、防御することは無く避けることで対処している。
「ではこちらからも行きますわよ!」
ノワールがまず選択したのは、《暗闇》による視界的有利の確保だ。
ノワールはアラクネ、暗闇の中も問題無く活動できる。
「《照地》」
母上の対応が早い。
視界がなくなった事を理解するのと同時に、光属性魔法で辺りを照らして対応した。
正確に言えば、ノワールの魔法は学術魔法に見えるだけで魔物の使う全く別の魔法なので、闇属性魔法による攻撃だと気付くのにも時間がかかるはずなのだが。
「凍て、舞え、粉雪。《寒波》」
母上は氷属性すら使えるのか。
氷属性は、水属性と風属性の魔力を合わせた魔法である。
この魔法は......なるほど、流石母上だ。
辺りの気温を著しく低下させる魔法のようで、よく見ると雪が降り始めている。
つまり、空を飛ぶノワールの身体を冷やして動きを封じようという訳だ。
ノワールも炎属性魔法を使ってどうにか対処しようとしているが、母上はこの魔法の維持にかなりの魔力を注いでいる。
短期決戦に持ち込まなくてはいけないが、飛んでいるノワールを封じるにはかなり良い手だろう。
「まだまだ行くわよ」
次は《風刃》が連射され、ノワールは避けるのに必死になる。
母上としては先ほどまで使っていた《岩弾》を撃ちたいところだろうが、恐らく《寒波》を使いながら使える魔法は適性属性の魔法だけなのだろう。
私には一応光属性という苦手属性があるが、ノワールにはそんなもの無い為に気付いていないようだな。
その上、ノワールの奴ムキになって上空から降りようとしない。
どうにか上空から降りずに勝とうとしているように見える。
「鬱陶しいですわ!」
ノワールは闇属性の上級魔法《闇玉》を使い、一気に戦いを決めるようだ。
《闇玉》は、闇属性魔法の中では特殊な攻撃用魔法だ。
速度が遅い代わりに、対象を追いかけ続ける。
母上はそれに即座に反応する。
「《聖波》」
確か、光属性上級魔法だったか。
目には見えない光の魔力が、《闇玉》に接触して消えていく。
《闇玉》も、少しずつ魔力を失って消滅した。
そこに間髪入れず、《風刃》を連射する。
ノワールは回避が間に合わず、母上の放ったほぼすべての《風刃》に被弾してしまう。
「まあ、ダメージは無いですけれど......悔しいですわね」
......悲しいが、そういうことだ。
ノワールの魔法耐性は、スキルを使用していないアヤメを優に上回る。
何せ、Aランク冒険者であるアリアンナの最大火力の攻撃を腕一本で受け切ったのだから。
しかし、だからこそノワールの目標だったのは被弾することなく勝利する事だった。
「エリア様もお分かりになった通り、わたくしには貴女の攻撃は通りません。ですから、アヤメ様と同じことをしようと思いますわ」
「好きなだけ待ってやるから、全力の攻撃を......ってことね。分かったわ、やりましょう」
結局、ノワールは一度もまともな攻撃をすることなくアヤメと似たような提案をした。
恐らく、やることなすこと無効化されたのにいっちょ前に攻撃する気にもならなかったのだろう。
この失態を胸に、ノワールが成長してくれることを祈る。
「じゃあ、行くわよ。主よ、世に蔓延る悪を裁く力を今ここに。貫く光《聖線》」
聞いたことのない魔法......無形魔法か?
そう思った直後、母上は両手を重ね合わせて輪を作る。
そこに膨大な量の魔力が集まり、輝きを増していく。
「発射」
______ゴオオオオオオオ!!!
その言葉と共に、ノワールに向けて放たれる尋常ではない量の光。
あの膨大なエネルギー量が、ノワールを覆い隠さんばかりに注がれ続けている。
白んでいく視界に、眩しくて目を閉じると......。
目を開けた時、ノワールにはわずかな傷しかついていなかった。
煙が出ているのは、彼女の身体ではなく服のような部分からだ。
一応アレも彼女の身体のはずだが、ダメージと呼ぶには程遠いだろう。
「ううーん、これで無理ならもう無理ね。降参よ」
「......わたくしも、学ばせていただきましたわ」
降参したのは母上だったが、ノワールには納得のいかない結果だったろう。
後で、声を掛けておくか。
とにかく、これで残るは私と兄上だけだ。
ノワールのような醜態をさらすわけにはいかないので、全力で望むこととしよう。
週3(くらい)投稿継続中です。
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