50 -気に食わない奴・前編-
最後の模擬戦だ。
普通にやればまず負けないだろう。
私は能力向上系の魔法以外を縛り、糸と円月輪だけで戦うことにした。
「じゃあいくわよ......始め!」
母上の合図で私は糸を張り巡らせる。
目には見えない糸も、目に見える糸も足の踏み場がないほどに。
「《火弾》!」
流石に対策がないわけではないようだ。
兄上は糸を燃やしながら進んでくる。
つまり真っ直ぐ一本の道を作りながら進んでいる状態だ。
そこに円月輪を投げ、正面からの相対を強制する。
横に跳べば糸の餌食だからな。
「んらぁ!」
なるほど、最低限の能力はあるようだな。
兄上は飛んできた円月輪を弾き飛ばし、走り続けた。
ならばこの攻撃を続けてもただの時間稼ぎか。
私は戻ってきた円月輪を手に、兄上の元へ走る。
「つくづく思います。私は近接戦が弱すぎる」
「あの威力の円月輪を投げた上で、本気でそう思ってるところが恐ろしいね。本来魔法使いは近づかれたら負けだよ」
そんな明確な弱点を、私が許容するはずないだろう。
糸による外的強化、魔力による内的強化を駆使してやっとこれだということにため息が出るのだ。
私は両手の円月輪を振り下ろし、兄上は剣で受ける。
「やはり、重いね......でも、僕はこれを待ってたよ。《迅雷》」
______バチバチバチ!!
「......っぐ」
私は咄嗟に兄上から距離を取り、辺りを見回した。
何が起きた?
簡単だ、攻撃を受けた。
迅雷......雷?なるほど、剣に雷を纏わせたか。
小細工をするタイプではないと思っていたが、父上と母上が次期当主として育てた男だ。
そんなはずはなかった。
「次は本気で行きますよ」
「あれ、さっきのが本気じゃなかったのか......キツいね」
私が構え直し、兄上に向かう瞬間だった。
見覚えのある魔力が私たちのすぐ近くまでやって来ていることに気がついた。
「ルミぃぃぃ!!!殺しテやるゥうう!!」
「「「ロイド!?」」」
やはり、ロイド兄上か。
父上達は驚いているようだが、私はこの可能性も念頭においていた。
この数年の間で、何処まで『凶星』が暗躍していたのかが分からなかったからだ。
ロイド兄上の右腕には、じゅくじゅくとむき出しの筋肉のようなものが混ざり合っていた。
その先には、大きな剣。
刃渡りだけで1m以上は確実にある。
アヤメの使う剣より少し長いくらいで、横幅は段違いだ。
「ロイド、それはなんだ!」
「父上ェ、国に背イた反逆者を殺しまスので見てテ下さいィィィ」
そういえば、私はまだ国を追われた存在だ。
言い含められていたのかは分からないが、誰もそれに触れなかったので忘れていた。
「魔物か何かに寄生されていますね。父上、あの魔物に見覚えはありますか?」
「ミラトという、王国の一部にしか生息しない魔物が近い......が、あの大きさ、そしてロイドの様子がおかしいのは説明がつかない」
あれが『凶星』の仕業なら、改造されたミラトの能力ということだろう。
試しに《睡眠》を撃ってみたが、全く反応がないのを見るにまた魂が暴走させられていると考えるのが妥当だ。
「ライ兄上、私がサポートします。王国が背負おうとしているものの一端を感じてきて下さい」
「ルミ、君は......分かった、これが次期当主としてここに立つ責任ということだね」
「いえ。私がロイド兄上の腕をぶった斬るより、ライ兄上が斬った方が遺恨が残らないと思ったからです」
ライ兄上が当主になろうが、ロイド兄上が当主になろうが私には関係ない。
今のユースデクス家を救うことが私の目的なのに、次期当主候補に恨まれるのが面倒なだけだ。
というか、貴族家の事は貴族家の人間に始末してもらいたいのだ。
私はもう、ユースデクス家では無いのだから。
「《骸砕》......これで剣の斬れやすさが上がりました。兄上でも一般兵士を真っ二つに出来る位には」
「......嫌な表現だな。だが分かった、これでロイドのあの腕を斬り落とせば良いんだね?」
そう言う事だ。
アヤメがやった方が圧倒的に早いのだが仕方ない。
「アヤメ、ライ兄上が危ない時だけ手を出してください」
「了解っす〜」
アヤメもそれを分かっているようで、貴族の面倒くささに眉を顰めている。
まずロイド兄上だが、操られる本人の身体が未成熟なせいで改造煉鳥に比べると圧倒的に弱い。
それに、腕を斬り落とせばミラトとの繋がりが切れるのだから簡単だ。
「行くぞロイド!!」
「兄上、何故邪魔ヲするノですウぅ!!」
2人の剣がぶつかる。
やはり、ライ兄上のレベルでは《骸砕》無しの打ち合いは出来なさそうだな。
私はロイド兄上の足元に《泥包》を発動し、移動を封じる。
そこにライ兄上が攻撃を繰り出すが、ミラトは使用者を無理矢理動かしているのか常人離れした速度で防御する。
ロイド兄上は奇声を発しながらも、《泥包》から脱することができていないようだ。
「ロイド、何故だ!ルミは僕たちを救ってくれようと......」
「僕よリ利口な妹など、いらナいノです!!!」
ロイド兄上は、私を睨んで叫んだ。
きっと、貴族らしくあるべく隠してきた本音がミラトによってあらわになったのだろう。
思う存分、聞いてやろうではないか。
天才の妹を持った、平凡な兄上の独白を。
週3(くらい)投稿継続中です。
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