38 -布石-
本編再開です。
お待ちいただいていた方、ありがとうございます。
「とても個性的な子になりましたが、感情が見えるようになったのは侯爵のご理解あってのこと。本当に感謝しております」
ノワールの様子を見た後、私は侯爵の下へ向かい感謝を伝えた。
予想よりかなりイロモノになってしまったが、それもこれからあいつらしさになるだろう。
「いや、私もあの娘の話を聞くのは楽しかった。いなくなるのが寂しいくらいだ」
侯爵のその言葉は、恐らく本心なのだろう。
普段は鋭い眼差しな彼が、いつもより少しだけ緩んでいるように感じた。
「して、ルミ殿よ。私はそなたに聞きたいことがある」
彼は改まった表情で、ティーカップを置いた。
......何かしたか?まさか、ナァナ様への治療中に仮眠をとっていたのがついにバレてしまったのだろうか。
しかし、アレは仕方なかったのだ。
大変な依頼の後だったし、眠ったら最高に気持ちのいい天気だった。
あんな状況で寝るなという方がまず無理な話、誰も責めることは出来ないはずだ。
「ナァナに魔法を教えるのはいつが良いと思うかね?」
......当然、その話題だと思っていたとも。
ナァナ様は着実に快復に向かっているし、錬金術にも真面目に取り組んでいる。
しかし、魔力を操作するという一点においては魔法を習った方が格段に身に付きやすい。
何せ、錬金術で扱う魔力は魔法に比べて小さく精密だ。
石を手で掴むのと、砂粒を箸でつかむのとどちらが難しいか、という話である。
ナァナ様は現在、石を掴む練習を飛ばして箸で砂粒を追いかけている段階だ。
つまり、侯爵は魔力操作で行き詰っている娘に成功体験を与えたいという事か。
素晴らしい試みだ。是非やろう。
「ルミ殿が何を考えているかは何となくわかるが、そういう意味で言ったんじゃない」
......そんなに顔に出ていただろうか。
「この間受けていた護衛の依頼があっただろう?」
護衛......最近受けたのはこの間のファーリア領に向かう為についでに受けさせられたアレだけだ。
それ関連という事は、間違いなく面倒事だ。
「お、お言葉ですが侯爵、その情報は私のような一端の冒険者如きが知ってしまってよいものなのでしょうか?」
「ほう、君は私が渡す情報の取捨選択も出来ないように見えるのかね?」
ぐ、語るに落ちてしまった。
情報を聞きたくないが為に、聞かなくてはならないという現実は変わらずに無礼だけ働いてしまった。
「滅相もございません。過ぎた事を申しまして、失礼いたしました」
私が出来るのは、可能な限り巻き込まれない事を祈ることだけだった。
「あの時の盗賊だが、アーコスト王国の刺客だということが判明した。以前より小さないざこざや不穏な動きはあったが、このように実力行使をされたのは初めてだ」
まあ、当然だろうな。
あのような事が今までにあったのなら、とっくに仮想敵国などではなくただの敵国だっただろう。
「これが何を意味するのか、分かるか?」
「......近々、大きな動きがあるかもしれないと?」
侯爵はおもむろに頷き、深く溜息を吐いた。
「モズーで出没したとされる、アラクネとの関係も話として挙がっている」
そういえば、あの時のノワールは魔物の癖に詠唱を用いる魔法を使っていたな。
ただ暴れさせるだけなら、そんな事をする必要は無い筈だ。
何か目標が......?
「ともかく、いつどこが危険になるかわからない状況だ。当然ナァナは私が命を賭して守るつもりだが、私の力が及ばずナァナが苦しい思いをするくらいなら、出来る事だけでもしておきたくてな」
「ふむ......確かに、仮に私レベルの相手なら侯爵はおろか、この屋敷にいる者全てを相手取ってもナァナ様をさらうくらいは出来るでしょう。自衛手段を持つというのは非常に良い手段かと」
私の例え話が気に食わなかったのか、侯爵はジトッと私を睨んで言った。
「先生を、やってくれるという事だな?いやあ、助かる」
______私では力不足です。
そんな言葉が出かけた。
身の守り方だけと言っても、私は帝国式の詠唱も教師をした経験も無い。
そんな私が、帝国の上位貴族の一人娘に魔法を教えるなんて、と。
しかし、侯爵の言った事が全て本当なら、今帝国に仕える騎士や魔法使いは大忙しのはずだ。
そんな中、ひ弱な身体を気遣いながら魔法のお勉強をする暇などあるはずがない。
「......よろしくお願いいたします」
私に断る選択肢はなかった。
普段から世話になっているし、いつも報酬の量には助けられている。
不義理な事は出来ないし、資金源を絶やすわけにはいかないのだ。
△▼△▼△▼△▼△
円卓の間。
彼は集まった人数を見て溜息を吐く。
「今日は絶対に来いと伝えてあるはずだが?」
「カカ、素直に言う事を聞く奴らじゃないことくらい、お前さんが一番知ってるだろうに!」
「ダロウニ!ダロウニ!」
甲高い声で言葉を繰り返す謎の生物を肩に乗せている彼の存在は、男の苛立ちすらも良い笑いの種だと機嫌がよさそうにしている。
そんな様子を見て男は余計にイライラしてくるが、思うツボだと分かっているので無視をして話を進める。
「そろそろ作戦を第二段階に移す」
「あら、アレの調整が終わったって事?かなり苦戦してたみたいだけど」
「あぁ、この間のアラクネの実験でデータが揃った。王国のアイツに作戦を進めろと伝えておけ」
「はいはーい」
指示を聞いた彼女は軽い調子で返事をし、円卓の間を後にした。
「我ら______の時代が始まる。もうすぐだ」
週3(くらい)投稿継続中です。
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