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36 -スキル-

「ところで、どうやって布を作っているんですか?」


 それを聞いたのは、ちょっとした好奇心だった。

しかし、それは私にとって非常に大きな転機となった。



 彼女は机の上にあった何かの皮に左手を触れる。

すると、その皮が少しずつ糸のようになっていく。

糸は彼女の右手に乗り、少しずつ布のように織り重なっていく。

これは......特殊なスキルか?魔力操作があまりに緻密すぎる。


「《製織》っていうスキルなんですけど、ご存知ですか?」


「待ってください、《製織》スキルは糸から布を作る手助けをするスキルの筈です。皮から直接布を作るなんて......」


「え?スキルって出来ることが決まっているんですか?」


 ......青天の霹靂だった。

スキルというものに、レベルを上げてその効果を高める以外の成長法があったとは。

確かに、一度考えたことがある。

スキルは、自分が動かしていないだけで魔力の操作が行われる。

魔力操作を自分で出来るなら、他人のスキルを真似する事も可能なのではないか。

しかし、ここで問題になるのはスキルの魔力操作の精度だ。

自分で出来るとは思えないような、緻密で正確な操作を彼女は行っている?

......いや、それはない。彼女にそこまでの魔法への習熟を感じない。


「魂の無意識な魔力操作......であるならキーとなるのは感情のコントロール?」


「あ、あの......?」


「すまない、黙っていてくれ」


 私は彼女の言葉を遮り、思考に耽る。

一度自分のステータスを見てみるか。


名前 : ルミ・ユースデクス


種族 : 人間


称号 : なし


スキル : 《魔糸使いLv9》《超睡眠Lv5》《魔導Lv5》


 糸を用いて腕まで作っている影響か、魔糸使いはかなりレベルアップした。

超睡眠も魔導も、何年か前に比べれば上昇しているな。

一番試しやすい糸でやってみよう。

不可能だと思っていた、私の魔力ではなく魔石からの供給を。


______普通に糸をだすだけなら、スキルではないなら簡単なんだ。


 私は夢魔法を訓練する中で、魔力を魔石から使用する術を幾度となく使用してきた。

足りないのは、私の固定観念を疑う事だけだ。

目を瞑り、心を落ち着かせて息を吸う。


「《魔糸使い》......ふむ」


 結果で言えば、半分成功で半分失敗だ。

魔石から小指の爪ほどの長さの糸が伸びている。

つまり、私の魂はまだ固定観念にとらわれているという事だ。

しかし、私にも彼女のやっていた芸当が出来ることが判明した。

今まで不可解だった、スキルというものの本質を理解した。


 スキルというのは、産まれた瞬間及び過度な訓練などで魂に刻まれた魔力操作の”クセ”だ。

だから、本来当人にできない事は出来ない。

レベルがあるのは、身体や魂の限界がここだという事なのだろう。

やりたくて出来なかった、糸の様々なカスタムを思い返しながらニヤリと笑う。


「レレィナさん、貴女、製織スキルがそんな風になったのがいつ頃からか、覚えていますか?」


 私が突然話を振ったことと、質問の内容が意味不明だったことであわあわと私の言葉を噛み砕く彼女。

しばらくうんうんとうなって、自信なさげに口を開いた。


「小さい頃から布を作っていますけどぉ......成人する頃にはこんな感じだった気がしますぅ」


 成人か。

......そういえばこの女性、耳が少し長いな。

肌は白く、髪は黒か。


「ハーフエルフの成人とは、どのくらいでしょう?」


「え、えと、人間と変わりません。私はほとんどエルフの血を受け継いでいませんので」


 思った通りの種族だったようで何よりだ。

ともかく、物心ついた頃からスキルに触れて成人までとなれば、少なくとも10年は経過していることになる。

魔力操作を意識せずとも、その速度でスキルを成長させられるわけだ。


「《魔糸使い》カスタム、ボルケイノタートル」


 試しに魔石を取り出し、糸を生成する。

その糸は少しずつ伸び、上腕程の長さになった所で停止する。

そして直後、ゆらゆらと落ち着いた炎が糸から上がった。


「わ、わっ!ひひ、火が!」


 屋内であることを忘れていた。

即座に糸を消し、実験が成功したことに思わずガッツポーズをする。

これは革命だ。私はさらに強くなれる。


「レレィナさん、あなたのおかげでとても有意義な時間を過ごせました。ありがとうございました」


「え?こ、こちらこそ......?」


 彼女はどうしてお礼を言われているのか理解していなかったが、そんなことはどうでも良かった。

何か礼がしたいな......何か。

あ、そういえば一つあったな。


「そういえば別件で布が買いたいのですが、ありますか?」


「え?は、はい。どういったものですか?」


「食べられる布なんですが」


 アヤメとの約束も、守ってやらなくては。

......ノワールにも何か土産を買っていってやるか。

私は久しぶりに、すっきりした気分でレレィナの店を後にした。

週3(くらい)投稿継続中です。

読んでいただき、ありがとうございます。

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