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35 -覚悟-

「まままま、魔物の布をお求めの方だったんですねぇ!?」


「え、えぇ。求める質の布が魔物の布だっただけですが」


 明らかに目が輝いている。

仕事だから仕方なく普通の布も作っているが、好きなのは魔物の布だといったところか。


「とと、とりあえず中へどうぞぉ......少し臭いますけど」


 少しなはずが無いが、彼女がもう中に入って行ってしまったので後ろをついて行くことにした。




 作業場であろう部屋の扉を開けると、彼女の言った通り意外と臭いはしなかった。

いや、もう鼻が慣れているだけか?

ともかく、部屋の外よりはだいぶマシな臭いだった。


「部屋にあんまり臭いが籠ると、布にも臭いがついてしまいますから......あ、ごめんなさいぃ!聞いても無いことを!」


「いえ、実際気になっていましたし、お話を聞くのも勉強になりますから気にしないでください」


 挙動不審な彼女は、汗で湿った額を拭って私の前に幾つかの布を置いた。


「説明の前に、お名前を教えていただけませんか?私はゴルドー辺境伯領のモズーの街で冒険者をしています、ルミと申します」


 これから永い事世話になるのだ、礼は尽くしたい。

かつて嫌となるほど練習させられた、王国式の礼儀作法を披露した。


「あ、あわわ.....レレィナと申します......」


 恐縮した様子のレレィナは、改めて布についての説明を始める。

左からトレント系、スパイダー系、ブル系、バード系の4つの布らしい。


「トレント系は色が入りやすくて、乾燥しやすいですね。スパイダー系は一番しっとりしてます。ブル系は少し硬めで重め、バード系は軽くて柔らかいですが、かなり手入れが面倒です」


 ふぅむ。この4つならバード系以外は無いな。

トレント系は乾燥するらしいが、そんな必要は無い。スパイダー系なら私の糸の方が質が良いだろう。ブル系は私の求める質とは真逆とくれば、バード系になるだろう。

私が欲しいのも軽くて柔らかい布なわけだし、消去法とはいえ問題はなさそうだ。


「では一旦バード系で。その中で布団や毛布に適した素材はありますか?」


 枕は何かしらの魔物の羽毛を使っていたが、布団や毛布には使われていなかった。

あれだけ部屋の質にこだわっている宿屋が使わないという事は、何か理由があるはずだ。


「う、うぅん......さっきも言った通りですねぇ、バード系の布は手入れが面倒です。毛布や布団といった大きい布には、向かないのですぅ......が、いくつか可能性が」


「可能性があるのですね?お金ならいくらでも出しますので最高の物をお願いします」


 私が布を持ってレレィナに詰め寄ると、汗をダラダラと流しながら顔を背ける。

しかし、彼女は私の切実な願いに首を振った。


「もも、申し訳ないんですがお金の問題ではなくてぇ、えっとぉ......素材自体が無いのです」


 なるほど、そういう事か。

最高のものとなれば、金では買えない素材を使う事も多いか。仕方ない。


「な・ん・で・も、獲ってきます。指定してください。手に入り次第送りますので、追加でほしい物などは私の宿を教えますのでそこに手紙を送ってください」


 私が何のために冒険者という道を選んだのか。

それは自由に国を移動でき、希少な魔物の素材を手に入れることが出来るからだ。

貴族ではそうはいかない。

金は手に入るかもしれないが、このように金では手に入らないものも数多くある。


「わ、分かりましたから離れてェ......」


 顔を真っ赤にして、ダウン寸前と言わんばかりのレレィナの胸倉を掴んでいる事に気付き、急いで距離を取った。


「失礼しました。つい興奮してしまって......ひとまず、初めに必要な素材だけでも教えてください」


「初めにと言いますか、やはり布を作るなら元となる魔物の素材が必要ですので。それを何種類かお願いします。清老鳥、煉鳥、ホロウバードが最高級の布を作る上での候補ですが、さらにレアそうなバード系の魔物の素材が手にはいったら、それも試してみたいです」


 確かに、清老鳥以外は見た事すらない素材だな。

気合を入れて探す必要がありそうだ。

......と、その前に依頼料か。


「分かりました、では手付金をどうぞ」


 私はあらかじめ準備していた貨幣袋を雑嚢から取り出し、まるまるレレィナに手渡す。

彼女はずっしりと重みのある袋を受け取り、中を確認する。


「ありがとうござ......えぇ!?この袋全部金貨ぁ!?」


「何を言ってるんですか。私は最高級の物を、と言ったんです。この程度のお金で驚かないでください」


 私の”最高”という言葉をやっと理解したようで、彼女は爛々とした眼で私を見た。


「失礼しました。私には覚悟が足りてなかったようです。さっきの3つは実験用の最低限の素材として、私の知る最高の素材を集めてもらいますよ」


 ふふふ、やっとこの店に信頼する価値が出てきた。

彼女の顔は、私と同じ”求める者”の顔をしていたから。

週3(くらい)投稿継続中です。

読んでいただき、ありがとうございます。

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