34 -ウリア-
「訪問の理由は......な、ゴルドー辺境伯の家紋!?し、失礼いたしました。お通りください」
「ええ、ありがとうございます」
執事風の依頼主が関所で対応を受け、家紋を見せて驚かれている。
今聞こえた家名は、冒険者の私には関係ない......関係ないんだ。
ちなみに、硬化糸荷車は目立つので少し前に解除してある。
「そちらの護衛、隣の魔物は従魔だな?」
「はい。ファーリア侯爵からこれを見せろと伺っております」
「ん?......これはファーリア侯爵が懇意にしている方にのみ渡すと言われている紋章!?失礼しました!お通り下さい!」
二度も対応の仕方を間違えて、この衛兵は冷や汗が止まらないだろうな。
気の毒になってきたので少し優しくしてやるか。
「大丈夫ですよ、私はただの冒険者ですから。親切な対応ありがとうございます」
横を通る時に、こっそり衛兵の手に銀貨を握らせてやった。
これで今夜は贅沢をするといい。
「ルミさん、機嫌良さそうっすね?見ず知らずの人にやさしくするなんて」
「......心外ですね。本来なら縛り付ける所ですけど、今は布が近いですし許してあげましょう」
手触りが最高で、柔らかく、軽い布。
想像するだけで垂涎ものだ。
しかし、ギルドに依頼達成の報告もしなくてはいけない。
「冒険者殿、これで護衛は終了となります。依頼達成の報告書はこちらです」
「ありがとうございます。では」
報告書を受け取り、そそくさとギルドに向かおうとする私に意外な声がかかる。
「ま、待て!冒険者!」
はじめ、何処から声が聞こえたのかわからなかった。
辺りを見回してもその声の主が見つからず、アヤメの指さす方向で気付いた。
その方向は、私が護衛していた馬車のある方向だ。
「......何かございましたか?」
「な、名前!名前を聞かせろ!」
名前?......私の?後で執事に聞けば分かるだろうに、何故直接聞いてくるんだ。
しかし、この命令を無視する訳にもいかない。
一応家名も聞いてしまったわけだし、敵を増やしたくはない。
「ルミと申します。しがない冒険者ですので覚えていただかなくて結構ですよ」
「そんなことない!ルミ......覚えた。また、な」
また、なんてことは無くて良い。
貴族からの依頼なんて、面倒事でしかないのだ。
馬車の中から覗く誰かに向けて、無言の笑顔を向けて馬車が過ぎ去るのを待った。
△▼△▼△▼△▼△
「こちらが報酬です。お疲れさまでした」
「ありがとうございます。それと、ウリアという地域に行くにはどちらから向かえばよろしいですか?」
「それでしたらまっすぐ行って突き当りの乗合所でウリア行きの馬車が出てますよ。......そういえば、ウリア側に一つ高ランクの方に受けていただきたい依頼が......」
「結構です」
高難度依頼などをやって、これ以上お預けを喰らうのはごめんだ。
私は報酬を雑嚢に放り込んでギルドを後にした。
「アヤメ、さっさと行くぞ」
「その前にご飯食べたいっすよ~」
そういえば、まだ食事をとってなかったな。
仕方ない、適当にとるとするか。
「何が食べたい?」
「そうっすね~、質の良い魔導金属とか食べたいっすね!」
珍しくグラフェノスのような事を言うアヤメに、何処かに良い武器屋があったか思考する。
ファーリア侯爵領ではメンテナンス以外で武器屋に足を運んだことが無いからな......そこに行ってみるか。
「ミスリルとか食べたいっすね!」
「馬鹿、今回の依頼料をどれだけ持っていく気だ......少しだけだぞ」
「やったっす~!!」
△▼△▼△▼△▼△
ウリアの街、件の布職人の家に到着した。
すえたような臭いが家の外からでも分かる、入る事を躊躇わせる雰囲気だ。
しかし、布の為ならばこの臭いも薔薇の香りに感じるといったものだ。
「すみません、オーダーメイドをお願いしに来たのですが」
ドアをコンコンとノックしながら、中にいるであろう家の主に呼びかける。
暫く待ってみると、人の動きを家の中から感じる。
たっぷり数分ほど待たされた後、やっと扉が開いた。
「あ、あ、お客様!いらっしゃいませぇ!」
中から出てきたのは、だらしない服装をして、髪も伸びっぱなしの女性だった。
これが良い布を作れるのか?臭いとかつかないのだろうか......。
「あ、あの......」
私が考えに耽っていると、彼女は不安げな表情で私に呼びかけた。
「あぁ、すみません。魔物の布を取り扱っていると聞いたのですが?」
私がそう問いかけた瞬間、彼女の眼の色がギラリと変わった。
週3(くらい)投稿継続中です。
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