33 -戦い方-
隊長の男が詠唱を始めて、アヤメはまた《十戒・神速》モドキで右側の剣士を切ろうとしたっす。
でも、左側にいた剣士がアヤメの剣に剣を添わせて、軌道を逸らされたっす。
「横から割り込む分には、隊長の支援魔法込みなら対応できる!互いにカバーしあうぞ!」
「驚いたっすね。アヤメのこれに対応するなんて、人間では初めてっす」
もっとも、ルミさんの受ける依頼が魔物討伐に寄ってるからっていうのもあると思うっすけどね。
最後に戦った強敵であるノワールも、《十戒・神速》モドキには対応できてなかったっすし。
でも、対応されるならこうするだけっす。
「っな!?」
アヤメのはちゃんとしたスキルじゃないっすから、ちょっとした改造が出来るっす。
もう一度《十戒・神速》モドキを使って、隊長に向かってすぐ急停止、後ろから追ってきていた剣士二人の方に向けて横一文字に剣を振るったっす。
上手い具合に二人に剣が入ったっすけど、反応されない為に剣を短くして戦っているから、片方の剣士の傷は浅いっす。
もう片方?そりゃ、真っ二つっす。
それに、傷が浅いと言っても太い血管を切ってないだけだから、まあまあな深手だと思うっす。
「《爆ぜ散る大地》......お前達、犠牲は無駄にしないからな」
隊長が詠唱を終えたようっすね。
何かが起きたわけじゃないから、考えられるのは身体能力向上か遅れて起動する魔法だと予想したっす。
隊長の身体を覆う魔力が変化してないことを見ると、これは後者っすね。
それなら早く行動した者勝ちだと思って、アヤメは隊長に向けて走り出したその時っす。
______ドォン!!
「のわぁ!」
アヤメの足元が爆発して、身体が宙に舞ったっす。
そこにすかさず、魔術に対する防御を貫通しやすい属性の地属性魔法を畳み掛けてきたっす。
確かに今のアヤメは魔術に対する耐性が上がる《石楠鎧》しか使ってないっすから、選択としては悪くなかったっす。
「相手がアヤメじゃなかったらっすけどね!」
アヤメは剣を最大限伸ばして、コマみたいに回転しながら振り回したっす。
警戒しなくちゃいけないのは、アヤメを直接突き刺そうとしてくる岩だけ。
それ以外の、横から捕まえようとしてくる岩や雨のように降ってくる岩は回ってればどうにかなるっす。
問題は下から生えてくる、剣山みたいな岩をどうするかっす。
「母なる風よ、我の歩みを助けたまえ!《風乗り》!」
空中にいる時限定で、風を吹かせて身体を少しだけ押してくれる風属性初級魔法。
少しだけ身体を逸らして、下の岩を避けることにも成功したっす。
そう、アヤメも魔法をルミさんに習い始めたっす。
剣術を支援する魔法が良いからって、風魔法から教えてくれたのは流石ルミさんって感じっすね。
アヤメは、カッコよく炎とか出してみたかったっすけど。
「魔物が、魔法だと......!?奔れ!焔よ!」
隊長が攻撃に使っている岩に手を置くと、地面から岩に向けて魔力が送られているように感じたっす。
でも、追加で岩が生えたりはしなかったっす。
地面に着地するまであと数秒、何も起きないこの状況、そして先ほど爆発した地面......。
「これが爆発の元っすね!」
アヤメは、魔力が膨れ上がっていた岩を出来る限り根元の方から切り落としたっす。
すると、根元が小さく破裂しただけで魔力が霧散したっす。
「爆発する魔力を、地続きになった場所に送り込める魔法......っすかね?ルミさんが使ってなかったってことは、無形魔法でもありそうっすね」
「見事だな。殺すなら殺せ」
隊長はあきらめた様子で、身体の中の練った魔力を解いたっす。
これじゃあの爆発する地面も使えないっすから、さっさと気絶させて連れて行くっす。
「ッシ!」
アヤメが隊長に近づいた瞬間、殺し損ねた方の剣士がアヤメの顔に向けて突きを放ったっす。
剣士の処理を完全に忘れてたっす。
ルミさんが見てたら、こっぴどく叱られるところだったっす。
______ガキン!
「むぐむぐ......質の良い剣っすね。もしかして高級品だったっすか?」
アヤメ以外なら顔を狙うのも良かったかもしれないっすけど、アヤメはグラフェノスっす。
本来鉱物を主食とする、両手から剣の生えた、れっきとした魔物っす。
突き出された剣を口で受け止めて、そのまま貪ったっす。
ついでに剣士を思いっきり蹴飛ばして、何処かの木に激突した音が聞こえてからまた隊長に拳を振り下ろしたっす。
「完璧な奇襲かと思ったが......無念」
結果としてアヤメは、地面が爆発したときの脚の軽傷以外は問題なくルミさんからの指示を遂行したっす。
何かご褒美をもらいたいっすね、久しぶりに質の良い無機物とか。
△▼△▼△▼△▼△
ある程度の人数を処理した後、残りの暗殺者共が退却したことを確認する。
アヤメが捕まえてきた部隊のリーダーも、気絶させてあるので地雷を誤って起動する危険性もない。
《要塞》をコンコンと叩き、戦いが終わった事を伝える。
少しずつ《要塞》が崩れていき、無傷の馬車が現れる。
「ありがとうございました。お二人ともご無事で?」
「ええ。こちらが頭領です」
気絶した男を放り投げ、依頼主の男に対応を任せる。
どうするのかと思ったが、馬車に積んであった箱に男を入れるようだ。
「盗賊を入れる為に持ってきたのですか?」
「ええ。馬車にそのまま乗せるわけにはいきませんし、馬に乗せるのも危険ですから」
どうしようもなければ私の硬化糸荷車に乗せる事も考えたが、対応策があるなら私がでしゃばる必要も無いだろう。
そのまま目的地である、ファーリア侯爵領への旅路についた。
「アヤメ!最高級の布が近いですよ!楽しみですね!」
「食べられる布とかあるっすかね?」
「あったら買ってあげますよ」
「やったっす~!」
△▼△▼△▼△▼△
アーコスト王国・玉座の間。
帝国より命からがら逃げかえった暗部の男の報告を、王は信じられないといった様子で隣の風魔公に問うた。
「葬嵐の魔女よ、王家直属暗殺部隊が不思議な魔法を使う冒険者に返り討ちにされたようだが?」
「帝国にも優秀な冒険者がいるのですね。魔石から魔物を呼び出すなど、まるで禁術ではありませんか」
風魔公は飄々と、王を小馬鹿にするように報告を再度声に出した。
王は眉間にしわを寄せ、溜息を吐いた。
「......我は、どうすればあのユースデクス家の娘を取り込めたと思う?」
分かりきった質問に、風魔公も分かりきった答えを返す。
「最初から、無理だったのでしょう。アレは人だとか、そういった枠組みに生きておりません」
逃した魚は大きい。
王はままならぬこの世に改めて溜息を吐き、男に命じた。
「一旦作戦は中止だ。帝国の動向を探りつつ、部隊の再編を進めろ」
「御意」
男はそう言うと、音も無く部屋を去った。
「くくく、ルミはどんどん成長しているようサ。楽しみだ」
「本音が漏れているぞ、葬嵐の魔女」
「おっと、失礼いたしました。王」
失礼な物言いを王が窘めるが、風魔公の口元は緩んだままだった。
週3(くらい)投稿継続中です。
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