29 -求めるもの-
とある日、私は情報を求めて彷徨っていた。
私の求める情報を持つ者の所在をギルドで聞くと、この辺り......モズーから南西に行った貧民街にあると聞いた。
私が足を進めていると、周囲の奇異の視線が刺さる。
この容姿から見られるのは慣れていると思っていたが、こんなに粘度の高い視線を一斉に浴びせられたのは初めてかも知れない。
「ここは初めてだね?白肢」
私が適当にブラブラしていると、すぐそこで座り込んでいた路上生活者のような格好をした女性が突然話しかけてくる。
「これっきりにしたいところではありますね。ここの空気は澱みすぎている」
「カッカ、違いない。元貴族のアンタにゃ、毒でしかないよ」
こいつ、私を知っているようだ。まあ、目立つ容姿であることは間違いないからな。
そして気付くのが遅れたが、この女性は恐らくこの辺りである程度の地位にいる存在だ。
今まで私に人々が向けていた多種多様な視線が、ピタリと止んだのがその証拠だ。
「何しに来たね。この掃き溜めに」
「探してもらいたいものがあります」
「ほう、探し物かね。呪いの魔道具か?珍しい魔物の情報?それともお洒落な宝石かね?」
私の二つ名候補まで知っているということは、Aランク冒険者だということを知っているはずだ。
にも拘らず、随分つっけんどんな態度だ。舐められているのだろうか。
こういう輩をつけあがらせておくと、あとが面倒だ......仕方ない。
私は魔力を体内から垂れ流し、かわいらしい声ながら最大限の冷たい声で言った。
「言葉での挑発ならいくらでもしていただいて構いませんが。仕事を依頼すると言っているのにその態度では、程度が知れますね」
「威勢がいいのは良いことさね。で、それならどうする?」
この婆を威圧するのは、無駄の極みだということだけは今分かった。
いい加減帰ろうかと思いつつ、わざわざ半日かけてここに来たという事実が私を婆の前に縛り付けていた。
彼女は新たなAランク冒険者の品定めをするように、私の言葉を待っている。
「どうもしませんよ。使えないぼんくらを紹介された、と悪態付きながらモズーに帰ります。敵になるのなら容赦せず実験の相手にしますし、問題はありません」
「尊大な小娘だねぇ......まぁいい。こっちだって、Aランク様と好き好んでドンパチするほど馬鹿じゃない。ただ、この街にいるのは私のように理性的な奴ばかりじゃない。口の利き方には気をつけな」
「お気遣い感謝します」
どうやら、少しは認めてもらえたようだ。
先ほどのこちらを舐め腐った視線は、やはり挑発だったのだろう。
「話を戻しましょう。私が欲しいのは、軽く、柔らかく、暖かい布です。それも最高級の物を」
私の求めていたものが思わぬ方向の物だったからか、婆はただでさえ多いシワを深めて目をぱちくりさせた。
「布?......布ねぇ。ここに来たってことは、一般に流通しているものを求めてるわけじゃあないんだろう?ふゥん......」
婆は深く考え込み、やがて手を打った。
「あいつなら、知ってるかもしれないね」
婆は服からしわくちゃの紙を取り出し、何かを書き込んだ。
「鬼梟からの紹介だと言ってこれを渡しな。邪険にはされないだろう。ついでに案内もつけてやる」
「ご丁寧にありがとうございます。では」
私がさっさとその紹介先とやらに向かおうとすると、婆は「ただ」と続けた。
「アレは金だけで動く奴じゃない。気に入られなきゃ無駄足だが、それでも行くかい?」
この貧民街で、人を選んで仕事が出来る存在か。
かなりの大物か、かなりの変わり者かのどちらかだろう。
「無論です。私には絶対に最高級の布を手に入れなくてはならない理由がありますので」
そう、私の布団の為に。
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「ここだ」
10分ほど歩き、案内の男が指し示した場所は小さな納屋のようだった。
扉を開けると、やけに黴と埃の臭いが鼻をつく。
誰かがいるのなら、もう少し掃除してあってもいいものだが......と思っていると、そこには土を押し固めた階段があるのみだった。
「地下ですか......。陣営の規模を掴みかねますね。かなりの手練れかもしれませんね」
案内の男は何も答えず、案内はここまでだと言わんばかりに立ち去った。
まあ、何があろうと逃げおおせる自信はあるが、あまり知らない土地で積極的に揉め事を起こす気にはなれない。
面倒事が起きないよう、信じてもいない神に祈りながら階下へ進む。
階段を降りきった先には、重厚感のある扉があった。
甘い香の匂いが扉から漏れている。伽羅か......これだけ焚くと、香としての良さが消えているな。
トントン、とドアノッカーを叩く。
中からごそごそと音がして、やがて扉が開いた。
「その容姿......濃紺の長髪、健康的だが白い肌、胸はないが全身に程よく付いた筋肉......確かに若くて美人な女を注文したが、少し若すぎないか?あんちゃん、幾つだ?」
扉を開いたのは、犬耳を揺らし失礼な物言いをする男性だった。
週3(くらい)投稿継続中です。
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