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28 -父親-

 給仕が持ってきた紅茶とお菓子を軽くつまみながら、ついに錬金術の基礎に触れていくことにする。

私は小さな銀色の球体を取り出し、先ほどの紙の上に置いた。


「これが、一般的な魔道具を作るのに必須の魔道具、素核(プール)です。チクの実と似た性質を持ちますが、魔力をより蓄えること、そして効率よく魔力が供給できます。魔道具を作りたいなら、まずはこれを完璧に作れるようにならなくてはいけません」


 私はチクの実から紋を引き、素核(プール)に繋ぐ。

少しずつ魔力がチクの実から素核(プール)へ向かい、充填されていく。


「このように、紋をつないで充填することも出来ますが、現代では充填用の受け口を素核(プール)に直接作成することが一般的です」


「ルミ様、自分の魔力を充填することは出来ないのですか?」


 かつて私がアリー師匠に聞いたような質問だ。

あれは自然に漂う魔力を自分の魔力に出来ないか、という逆の質問だったが、答えは一切変わらない。


「いい質問ですね。出来ないことはありませんが、私達のような平凡な魔法使いには不可能です。自然にあふれる純粋な魔力......いわゆる『純魔力』と、体内を流れる魔力は別物だと覚えておきましょう......話を戻します。その充填用の受け口に、魔石の魔力を純魔力に変換して取り込めるようにする機能を搭載するのが現在の流行のようですね」


 錬金術が人の扱う技術である以上、流行り廃りや技術の進歩が当然存在する。

その最たる例が、魔石から純魔力への変換技術だ。

数十年前に開発され、それまで燃費が悪く究める価値が薄いとされていた技術である錬金術の地位がグンとあがったのだ。

......と、偉そうに講釈を垂れてみたがこれは私が錬金術を学ぶのに使った本の受け売りだ。


「さて、いつまでも座学では面白くありませんね。最後に私の作品をお見せして、実践的な勉強に移りましょう」


 貴族とはいえ、私と同じくらいの年齢なら10歳前後だ。

実践と聞いて目を輝かせているのを見ると、やはりどの世界の子供も座学は嫌いなのだな。


「ルミ様の作品ですか?どのような睡眠グッズですの?」


 何故私の作品だと聞いて、睡眠グッズに限定したんだ。

まあ当然、睡眠グッズだが。

私は雑嚢の中から三角錐状の物体を取り出し、魔石をはめ込んだ。

すると窓から入る陽の光が弱くなり、外から聞こえていた騎士達の訓練の音や馬の鳴き声などがかなり小さくなった。


「闇属性中級魔法《暗闇(ブラック・アウト)》と《静寂(サイレント)》を応用した魔道具です。辺りから入ってくる音、光をいい具合にカットします。Dランクモンスターの魔石一つで、3日は持つ優れものですよ」


「ふふ、便利ですわね。ふふふ......」


 やはり睡眠グッズだったかと笑みを漏らすナァナ様に、返す言葉が見つからず私はぽりぽりと頬をかいた。


△▼△▼△▼△▼△


 時は戻り、ナァナ様の部屋を訪ねる少し前。

私はファーリア侯爵に例の頼み事をしていた。


「これはノワールです。この間モズーの近くで暴れていたアラクネを手懐けました。侯爵様に従魔を近づけるのもどうかと思いましたが、これからお願いする事には必要な事ですので無礼をお許しください」


「私はノワール。人間を学びたいと思っている」


 彼女の言葉に、珍しくファーリア侯爵は目を剥いたように見えた。

酷く抽象的な発言の補足をするため、私は口を開く。


「彼女の目標は、人間のように生きる事です。それを手助けする為に、とあるものをお借りしたいのです」


「ほう、教師か?それとも、暫くここで暮らさせてやるかね?」


 ......正直、私が求めている以上の事を提案してきた。

当然100%本気ではないだろうが、仮に私が望めば侯爵は口に出した以上否とは言わないだろう。


「いえ、彼女に本を読ませてやりたいのです」


「なるほど、情操教育といったところか。そなたの冒険者としての活動に差し支えないのならば、それこそ離れに住まわせてやるといい。文字を教えるところからこちらで教育しておこう」


 侯爵は、何が何でもノワールを近くに置きたいようだ。

何が狙いだ?ノワールの力?それとも......私の力か?どちらも侯爵ほどの人間がここまでする価値はないはずだ。

彼の地位ならエクソーバーに依頼を出す事も出来なくはないだろうからな。


「何故ここまでするのかと、疑っているな?」


「まさか。どうするのが正解かと考えているだけでございます」


 彼の慧眼には全てが映っているのか。

私の考える事など、火を見るよりも明らかだと言わんばかりだ。


「ふん、まあいい。ここまでするのは、娘に良くしてくれている礼だ。ナァナが眠れず、様々な医者にかかっていた頃のことを思い出すと、今でも腸が煮えくり返るほどの無力感に襲われるのだ。そんな娘を、今では魔法が使いたいと駄々をこねるほど元気にしてくれたそなたにどうにか報いたいのだよ」


 彼は初めて、ファーリア侯爵ではない、グロストフという父の顔を私に見せた。

......父か。ナァナ様は良い父を持った。


「分かりました。ではファーリア侯爵、改めてお願い申し上げます。ノワールを預かっていただけませんか?」


「任せると良い。娘のように可愛がってやるから、ナァナの治療は頼んだぞ」


 侯爵に頼まれたからには、全力を尽くさない訳にはいかないだろう。

と、そういえば今回新しく持ってきたものを見せるのを忘れていた。


「そういえば侯爵、ナァナ様にお教えしたいものがあるのです。錬金術なのですが......」


 丸一日ファーリア侯爵の屋敷で過ごすのは、何年も治療をする中で初めてだった。

週3(くらい)投稿継続中です。

次回から21時投稿を基本にしようかと思っています。

それと、私事ですが右手首を負傷いたしまして、執筆に影響が出るかもしれません。

投稿が遅くなる日、投稿する日はX(旧Twitter)にて通知いたしますので、よろしければフォローお願いします。

読んでいただき、ありがとうございます。

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