24 -ノワール-
ダグレスは、私にこの素敵な厄介者を預かれというらしい。
彼はこれも魔卵の一つと考えているらしいが、産まれた方法が違いすぎるので通常の魔卵ともいえない。
魔卵は、産卵系スキルあるいは通常の産卵器官によって魔物が産みだした卵の総称だ。
しかし、この玉っころはあのアラクネがこれに閉じこもったようなものだ。
「本当に私にこれを預ける気ですね?」
「そうだ。孵った時にお前達以外で対処できないだろう」
一理あるが、それならもっと専門的な機関か厳重な施設まで送ってしまえば良いだけだ。
......ふふ、いいことを思いついたぞ。
「では、私の物であるこの魔卵をどうしようと私の勝手ですね」
私は、この仮眠で少しだけ回復した魔力をこの魔卵に注入した。
「......うぉ!お前、何してんだ!?」
「さあ、孵れアラクネ」
魔卵が孵るのに必要なのは、特殊なケースを除けば規定量以上の魔力だけのはずだ。
一応夢魔法を使う魔力は残っているし、産まれたばかりならアヤメがどうにか出来るだろうと高を括ってここで孵すことにしたのだ。
これなら、ダグレスもこの事態に巻き込むことが出来る。
「何を考えてるかは何となくわかるが、時と場所を考えろ!!これで手に負えないヤツが孵ったらどうするつもりだ!」
______ピキ。
彼のその言葉が卵の中の誰かを起こしてしまったのか、あるいは魔力が足りたので早速孵っているのかは分からない。
しかし、今の音が件の魔卵から聞こえてきたのは間違いない。
「アヤメ」
「っす」
言わずとも警戒しているアヤメに、念の為確認をしてから魔卵の動きを待つ。
そのままピキピキと音を立て続け、魔卵の一部に穴が開いた。
そこから見えたのは、黒い眼のようなものだった。
______目が、合っている?
瞳孔だと思っていた黒い部分はどうやら結膜だったようで、瞳孔の部分は赤く輝いている。
殻が割れ続け、穴が大きくなる。
警戒を解く気は無いが、殻の中から感じる魔力量から今の私とアヤメでも十分制圧できるだろうと踏んで少し肩の力を抜く。
「さっさと出て来い、アラクネ。私は早く愛しの宝物に入りたいんだ」
私の声に反応したのかはわからないが、殻から飛び出した一本の脚が魔卵を砕いた。
______黒いな。
姿を現した小アラクネ。始めに目に入ったのは、星なき夜の闇のような真っ新な黒色だ。
人間部分にも薄い膜______衣服で例えるのならばタイツのようなもの______が張られており、蜘蛛の部分の毛が背中部分を覆っている。
肌が露出しているのは首から上だけで、より魔物のような風貌になっている。
「魔力源......」
「誰がマザーだ、誰が。記憶はあるか?」
通常の魔卵なら、当然親と子に記憶が引き継がれることは無い。
しかし、今回は親=子だ。記憶が引き継がれていてもおかしくはない。
「肯定する。魔力源、及びその血族と戦闘し敗北した。もう、突き動かされるような殺意や破壊衝動はない」
アラクネのその言い分に、ダグレスはいつも通りの怪しげな笑みを浮かべている。
「すまないな、立場上お前を信用する訳にも行かないんだ。ルミ、お前が縛ることは出来るか?例の魔法で」
なるほど、私を所有者にしたのはそれが理由か。
相変わらず私に面倒な事を押し付ける事が好きなようだ。
だがアラクネの魂が手に入るのはこっちとしても願ったり叶ったりだ。
「アラクネ、敵意がないのなら私の魔法で縛ってもいいか?これから生きるのなら間違いなく従魔として生きた方が得だと思うが」
「得......あの魂を縛っていた魔法?恐らく私にはあまり有効ではないけど構わない」
有効ではない......?
なるほど、例の魂をいじくる魔法か。
私も夢魔法を使えるようになってから、魂を意識的に保護するようになった。
すると、保護を解いても普通の人間より精神に作用する魔法が効きにくくなったのだ。
このアラクネもそうだとすれば、アヤメの数倍は効きが悪いだろう。
「仕方ない。保護を解け」
私の言葉に、アラクネは警戒もせず魂の保護を解いた。
そこに《夢傀儡》を使用し、私が許可した人間以外に攻撃できないように命令を刻んだ。
何を隠そう最近、《夢傀儡》だけは詠唱無しで使えるようになったのだ。
その上、耐性があろうとある程度無理やり刻めるようになってきた。
「なるほど。他人に魂を書き換えられる感覚は新鮮」
これで問題ないとダグレスに目配せをすると、彼は明らかに安堵するような様子で息を吐いた。
しかし、私にとってはこの後の話の方が問題だった。
「これで正式に従魔として認定出来るが、街にアラクネが迫っていたのは多くの人間が知っている。この姿のまま外に出ると間違いなく面倒ごとに巻き込まれるぞ」
......このいけ好かない男の言う通りだな。ひとまず従っておいてやる。
仕方なく魂を抜こうとすると、アラクネは魂に保護をかけた。
「問題ない。《贋者》」
『!?』
あまりにも唐突な事で、私たちは反応ができなかった。
何しろ、例の魔法を使えるのなら私達と会話をする必要すらないはず。
魂の形を変えるあの魔法なら、私の命令を改竄......あるいは消去出来るかもしれない。
その事に気づいていなかった。
即座に全員が武装を取り出そうとした時。
そこにいたのは、全身を漆黒のゴシックロリータ衣装に包んだ人型のアラクネだった。
「人間に見える筈。問題ない」
コイツは、人間世界に迎合する為にあの魔法を使ったようだ。
魂を変化させる魔法を、変装のために使うとは......。
「......用途がくだらなすぎて、笑えてくるな」
「ん?魂に命令を刻む魔法を持っていながら、寝たいだけだと言っている少女もこの場にはいた筈だぞ?」
私がアラクネに軽口を叩くと、ダグレスがふざけた事を抜かした。
睡眠と変装を同じ扱いにするとは......。まあいい。
今はさっさと話を終わらせて宿に戻りたい。
「では用事は済みましたね。ご機嫌よう、ギルドマスター。行きましょう、アヤメ......あ」
ほかの面倒ごとを押し付けられる前に、外行モードに切り替えて出て行こう。
そう思ったのだが、とある事を思い出した。
このアラクネに名前を付けていなかった。
「アラクネ、名前はあるか?」
「否定する。我々アラクネ種は群れを作らず、個々の名称を必要としない」
だろうな。
となると、また色から付けるとするか。
クロ......流石に安直か。
ヌレバ......今回は和風の名前では合いそうにないな。
服装からして洋風だし。
「ブラック......シュヴァルツ......ネグロ......ノワール。うん、ノワールにしよう」
「承認する。私の個体名はノワール。以後よろしく。魔力源、その血族」
「ぷっくくく......こんなちみっこがマザー......」
彼女の返答に、ダグレスが吹き出す。
「次その名で呼んだらお前をこうしてやる。私の名前はルミ、コイツはアヤメだ」
「イタタタタ!痛いっす!!糸を間接に食い込ませないで欲しいっす!」
「理解した。ルミ、アヤメ」
こうして、私のパーティに新たな魔物が参加する事になった。
出来ることやらなんやら、色々と聞くことにしよう。
当然、ぐっすり眠った後に。
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