23 -仲間-
「《絶一門》……」
これで、火・水・風の3属性を封じたことになる。
自分の魂の一部分を切り取って発動するこの魔法は、おそらく多重発動に向いていない。
基となる魂の力が弱まり、切り取られた魂が帰る場所を見失うからだ。
これ以上使うとなると魂の修復に多大な時間を要するが、それが相手に効果的ならいくらでもやってやる。
しかし、物理的な現象が多く、アヤメにもどうにか出来そうな地属性を封じるのは無駄だ。
また光属性は、私の魂に刻まれた光属性が他の属性に比べて薄い為、魔法を無効化する力がしっかりと発動しない。
そして闇属性を封じれば、一応闇属性の応用を含む夢魔法の効力は激減する。
つまりこの3つを封じるのが最適なのだ。
私は痛みに叫ぶ魂を押さえつけながら、アヤメの成功を......いや、無事を祈った。
△▼△▼△▼△▼△
アヤメはアヤメっす。
冷徹マスターのルミさんと冒険者をしてるっす。
初めは美味しいものをくれそうな、強そうな人間だったから仲間になったっす。
「ルミふぁん、たまには美味ひいものも食べまほーほぉ」
「口にものを入れたまま話すな。それに、眠る時に気にならない程度に腹を満たせれば味なんてどうでも良い」
ルミさんはそう言って一番安いセットをお行儀よく食べてたっす。
「食べることで睡眠の質が上がる料理があるかもしれないっすよ?」
アヤメにとっては美味しい物ならなんでも快眠っすけど、ルミさんはそうもいかないっす。
でも何故かアヤメの意見にひっかかる部分があったみたいで、追加でアヤメの食べてるものからいくつか選んで注文してたっす。
「今日はアヤメが前に食べてた……なんだったか……そうだ、グレートオックスの幼体を食べようと思ってる。十中八九食べきれんから任せるぞ」
「肉は別腹っす!任せてくださいっす!」
夕飯に何を食べるか話すルミさんは、少し楽しそうだったっす。
「……ッチ、まだ思うように動かないか。バランスもガタガタだ。いっそ義手に逃げるという手もありか……?」
「ルミさん、お茶を淹れたっす。少し休憩するっすよ」
アヤメがお茶を淹れたことに驚いたのか、ルミさんは眼を白黒させながらコップを受け取って口に運んだっす。
「ふふ、ははは!アヤメ、これは傑作だぞ。今まで飲んできた中で一番不味い紅茶だ」
「……えーと、疲れてると不味く感じるお茶っす」
「この宿の格を考えろ、馬鹿め。来い、淹れ方を教えてやる。これから私の腕が出来るまでに、誰にも負けない紅茶を淹れられるようになれ」
ルミさんが嬉しそうに笑っているのを見て、アヤメの胸があったかくなったっす。
色んな思い出があるっす。
あの魔物が本気を出したら、アヤメたちが逃げる暇なんてくれないっす。
なら、ここで倒すしかないっす。
ルミさんはもうギリギリまで魔法を使ってるっす。
だから、アヤメがどうにかしなきゃ……。
2人で、生きて帰るために。
「《華刃・菖蒲》」
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一度目の太刀で、発動しかけてた魔法を斬る。
本来であれば警戒や、動揺がいくらか行動に現れるだろう。
しかし、アラクネは全能感に満ち溢れていた。
ニンゲンへと至り、今の自分を止める者などいないと、本気でそう思ったのだ。
動揺するでもなく魔法を再展開しだしたアラクネに、アヤメは二度目の太刀を振るう。
その太刀は腰を一文字に断ち、お辞儀するような形で上半身が力を失って垂れる。
「貫け」
アラクネは腕をアヤメに向け、純粋な魔力を光線状に放った。
上半身を無くしたことでバランスを崩し、少なくともある程度の威力の減衰は出来るはずだった。
しかし、彼女の精神は一切の歪みを見せなかった。
凪いだ海そのものともいえる、圧倒的な静寂。
その集中によって、彼女の魔力はアヤメの左目を貫いた。
「っつ、まだっす!咲け!」
アラクネにとって驚きだったのは、アヤメの精神もまた彼女と同レベルの集中状態にあったという事だ。
痛みを排し、全てを敵を倒す事にだけ注いだ。
これは、アラクネが望んでいた人間とは真逆の状態。
野生の極致だ。
アヤメは飛び上がり、三度目の太刀を突き刺す。
アラクネの魔石を上から串刺しにし、腕の剣を分離する。
それは菖蒲と呼ぶには不揃いな、不細工な肉の華の雄蕊となる。
ルミに軽口をたたく余裕があれば、なんて悪趣味な技だと罵った事だろう。
「ともあれ......勝ったっすよ、ルミさん」
そう、勝ったのだ。
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「で、この玉ころは何だ?」
ルミ達が街に静かな凱旋と決め込むと、頼んでもいないのに出迎える姿があった。
当然、ダグレスを含むギルド関係者だ。
体力は限界だと言うのに、有無を言わせずにギルドの奥の部屋へ連れられるルミ達。
抵抗する気力すらも湧かず、運ばれるままになる。
「何と言われましても、アヤメが持ってたものですので」
事実であると同時に、思考を放棄した彼女の発言にダグレスは眉を顰める。
アヤメにそれが何か語るように視線で指示し、ルミは目を瞑った。
「あの魔物が死んだ後、まず死体から歪んだ魔力が抜けてったっす。その後、死体に残った魔力が魔石を覆う殻みたいに集まっていったっす」
通常であれば、何故そこで破壊を試みなかったのかと叱責する所だが、2人揃って極限状態にあった事は想像に難くない。
呆けたままその様子を眺めるのもそれほどおかしな事でもないだろう、と続きを促す。
「その魔力が固くなり始めたタイミングで、復活のために閉じこもってるって気付いたっす。でも、今のアヤメ達に残った力じゃ壊すことも出来ないし、壊して何が起きるかも分からないっす。だからとりあえず持ってきたっす」
隣の少女なら間違いなく面倒くさがって放置していただろう事を考えれば、動けるのがこちらの魔物で良かったと言うべきか。
______まったく、魔物に感謝することになるとはな。
目頭を抑え、最も街が不利益を被らない対応を考えるダグレス。
ギルドで預かるとなれば、仮に中から出てくる魔物が完全に回復していなくとも対応するのは難しいだろう。
かといって、壊すのは危険だ。
アヤメの言う通り壊したことで発生しうる問題がいくつも考えられる。
「本来のルールに則るのが一番上手くいく......か?よし、ルミ。起きろ」
ぺしぺしと頬を叩かれ、鬱陶し気にルミは目を覚ます。
辺りを見回し、自分が置かれている状況を思い出してまた目を閉じようとする。
「この魔卵はお前に預かってもらう」
「......は?」
今回の話で、一旦毎日投稿は終わりです。
今後は、週3くらいのペースで上げる事を目標に頑張っていきます。
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