20 -白肢-
「アヤメ、後ろは任せた」
「はいっす!」
私は迫り来るバジリスクの魔眼を真っ白な右腕で受け、石化しつつあるその腕でバジリスクを殴打する。
それは勢いよく吹き飛び、大きな岩にぶつかって活動を止めた。
それと同時に、アヤメが背後にいたもう一匹を縦に両断するのが目の端に映る。
「……もう、3年になるのか」
「何がっすか?……あ、ルミさんが緑のドラゴンに右腕食べられちゃってからっすかってイタタタタタ!」
一言余計な彼女の関節を糸で締め上げながら、あの絶望からの事を思い出して感傷に浸る。
「完璧な右腕を糸で作るのに半年以上、それから冒険者としての知識や戦い方を詰めるのに1年。その途中で他の部位も糸で覆った方が力が出ると気付いて両腕、両脚を糸で覆った。その結果、Aランクとして認められる。それで暫定的に付けられた二つ名は……」
「お帰りなさい、『白肢』のルミちゃん」
名前などどうでも良いが、戦い方や使う魔法ではなく、容姿から付けられるのはどうなのだろうとも思う。
正式にエクソーバーとしての二つ名を貰う時に別の名前を打診してみるか。
「討伐証明です。片方はアヤメが半分にしてしまったので不恰好ですが」
「でも、切ったほうが食べやすそうっすよ?」
こいつは全ての生き物が自分の飯に見えているんだろうか……まあいい。
バジリスクの舌を入れた雑嚢を机に置き、確認などの手続きを近くの壁にもたれて待つ。
「おい、見てみろよ!帝国ってのはガキを冒険者にしなきゃ人が足りねえみたいだぜ?」
「ゲハハハ!これは俺たちがこのギルドのエースになる日も近そうだなァ!?」
その言葉が私を指している事に気付くのに、少々の時間がかかった。
私がモズーの街に来てから大分背丈も大きくなったし、あのガキども______『勇者の剣』だったか?______との一件でBランクだということがこのギルドには広まっていたからだ。
しかしまあ、私が幼いとはいえこんな典型的な馬鹿共がいるとはな。
間抜けな3人に帝国流の挨拶を教えてやるとするか。
「おいガキ、ここは遊び場じゃねえぞ?仕事の邪魔になるからすっこんでな!」
「自己紹介も無しに失礼な奴らだな。帝国は初めてか?お前らの村ではどうだったか知らんが、帝国では初対面の相手にはアイサツをするんだ。覚えておくといい」
一番前の男は私の挑発に、青筋を立てて剣を抜こうとする。
流石にそれはまずいと思った他の二人が、彼を止めようとするが一歩遅かった。
「動かない方が良い。糸がお前たちの仕事道具をバラバラにしてしまうぞ」
私の糸は既に、彼等3人を取り囲んでいた。
当然、触れただけでスッパリいくほどの殺傷力は持たせていない。
が、一番前の男だけは冷静さを欠いており、糸でぐるぐる巻きになった挙句小さな傷が身体中についてしまう。
「ぐ、おお!なんじゃこりゃあ!」
男がのたうちまわりながら軽傷を増やすのを眺めていると、見知った魔力が近づいてくるのを感じる。
「やりすぎだ、『白肢』」
そんな声と共に、私の糸が全て切り払われる。
剣を振る速度がまた上がっているな。
「『勇者の剣』、邪魔するな」
「僕達は『勇なる剣』だ!何度言えば覚えるんだ!」
「レイン、今大事なのはそこじゃないでしょ」
『勇なる剣』のレインと、魔法使いの女......ジェーナだったはずだ。
2人が私に対峙していた。
「難癖をつけられたから退治していただけだ。Cランクになってしばらく経つんだ、いい加減融通を利かせることを覚えろ」
「それがやりすぎだって言ってるんだ。君こそAランクなんだから、か弱い人間をいじめるのをやめたらどうなんだ?」
そう、彼等『勇なる剣』の面々は、パーティー単位ではあるがCランクの冒険者として認められた。
私のような例を除けば、相当なスピードでの昇格らしい。
そんな彼ら......というか、レインが事あるごとに私に突っかかってくる。
鬱陶しいが、言ってることが間違っていないだけに暴力での排除がしにくいのが悩みの種だ。
そんな中、私たちのランクに関する会話が聞こえていたのか、男たちはどたばたと逃げていった。
あれだけ脅かせばもう何もしてこないだろう。
暇つぶしにレインをおちょくっていると、珍しく真剣な表情をしたダグレスが大急ぎで私たちのもとへやってきた。
「お前達、緊急依頼だ!街の外に急げ!」
面倒事がまた舞い込んできたみたいだ。
私は溜息を吐いて、アヤメと共に門に向かった。
△▼△▼△▼△▼△
走りながら得た情報では、街の近くにモンスターが突如出現したとのこと。
本来ここらに出現する魔物でもないし、街を目指して進んでいる事から緊急で私達に依頼を出した、と。
そして一番の問題は、そのモンスターが最低でもAランク級のモンスターという事だ。
その名は、アラクネ。
上半身が人型、下半身が大きな蜘蛛のようなモンスターで、全長は2mほどと魔物にしては小さい身体をしている。
しかしその力は本物で、最も厄介なのがとても高い知能を持つことだ。
人間を遥かに上回る膂力と、人間と遜色ない知能を合わせ持つことから、生まれたばかりの個体でもAランク扱いをされている。
「あそこにいるのは『月華』か。アヤメ、先行して助けてこい。あのアラクネはおかしい」
「了解っす!」
アラクネの姿が見えてくるにつれ、その異常さに気付く。
普通のモンスターというのは、魔力をある程度垂れ流しにしているのだ。
だから魔力感知で見つけることが出来るのだが、あのアラクネにはそれがない。
人間のように、魔力を体内にとどめておく術を身に着けているのだ。
いくら知能の高い魔物といえ、自力で手に入れられる能力ではない。
私は急いでアヤメを向かわせ、アラクネの様子を伺った。
「矮小な人間共、私の力にひれ伏せ。《*;@・」-》」
______詠唱を伴った、魔法?
言いようもない不快感と、理論に基づかない不安が私の背中から這って回る。
私に理解できる言語ではなかったが、間違いなくあのアラクネは詠唱をした。
魔法を体系化する為だけに発明された詠唱を、一魔物がだ。
刹那、辺りを暗闇が覆った。
闇魔法に準ずる何かだろう。
ルミは思い切り息を吸い込み、あらん限りの声で叫んだ。
「総員聞け!あのアラクネは人の手が入った希少種だ!死にたくなければ死ぬほど警戒しろ!」
「なんだいそりゃ、穏やかじゃないね」
アリアンナの呟く声が聞こえた。
この魔法は音を封じるものではないようだ。
「死なない為に死ぬほど警戒って......むちゃくちゃだ」
レインの奴がくだらないことで文句を垂れているが、あとでぐるぐる巻きにしてやれば良い。
つまり、そんなことは後だ。
私は急いで苦手な光魔法を詠唱した。
読んでいただき、ありがとうございます。
ブックマーク、いいね、評価、感想、レビューなどなんでも励みになりますので気が向いたときにお願いします。




