18 -地竜-
竜。
この青空を統べる、天空の支配者。
その中で唯一、飛行能力が非常に低い地竜の幼体。
私は、心のどこかで相手をみくびっていたのかもしれない。
______自分ならどうにでも出来るだろう。
そんな甘ったれた考えが、あったのかもしれない。
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私は闇属性上級魔法《望遠》を使い、自分の視界を拡大する。
「アヤメ、見えるか?あそこのちっこい緑のだ」
深緑色で、四足歩行の生き物を指差す。
「ルミさん、ニンゲンなのに目がいいっすね〜。見えるっすよ。アレが今日のご飯っすね?」
別に昼食と思ってもらっても構わないため、否定もせずに話を続ける。
「可能ならあれの魂も欲しいが、アヤメの魂すらまともに御せないのにあんな化け物の魂を手に入れても持て余すだけだ。接敵、討伐、帰宅、就寝。わかったな?」
「む、帰宅の前にご飯が抜けてるっすよ!」
うるさいやつだ。
地竜の近くに寄ると、今までは感じていなかった魔力の圧を感じる。
______今まで感じた中で、アリー師匠に次いで強い魔力の圧だ。
これは想像以上に大変な依頼になりそうだと思いつつ、私とアヤメに防御系の魔法をかける。
「あのトカゲ相手には気休めにしかならないだろうが、とりあえずかけておく。壁役は任せたぞ」
「わかってるっす。アヤメも昂ってきたっす」
アヤメは珍しく、真剣な表情を見せている。
彼女も一応上位の魔物、危険な相手であることを本能的に感じ取っているのだろう。
「いくぞ。夢魔法・修羅の章《骸砕》」
親方がきっかり2日で仕上げてくれた円月輪を2つ放り、糸による後押しで速度を増していく。
回転する円月輪にどうやって糸をつけているか?答えは簡単だ。
指を入れる空洞の部分に、無数の柔らかく細い糸を張り巡らせている。
その中心に丈夫な糸を付ける事によって、多少の回転では千切れない状態にすることができているのだ。
その円月輪が地竜にまっすぐ向かう。
あちらも飛んでくる魔力に気付いた様子で、全長3mはあるだろう大きな身体をこちらに向ける。
______恐ろしい表情だ。
敵を見つけた地竜は即座に戦闘態勢に入る。
その顔に円月輪が刺さり、もう1つの円月輪が1つ目を押し込むように着弾する。
「グァアア!クウ!!!」
幼体だからか、知能が高いと聞いていた地竜から発せられた言葉には一片の知性も感じない。
地竜はまっすぐこちらへ走り、アヤメに向けて右前足を振り下ろす。
アヤメはそれを両方の剣で受け止め、そのままかち上げる。
「いかれた膂力だな……まあいい。《氷刃》」
水属性と風属性の派生属性である、氷属性の中級魔法を地竜に浴びせる。
地属性の魔力を多く持つ生き物は、地属性以外の直接身体に触れてダメージを与える魔法に弱いらしいからな。
地竜はかち上げられてあらわになった腹部に攻撃を喰らい、苦しげに呻く。
______アヤメが居れば問題ないか。
私がそう安心し、再び《氷刃》を放った瞬間だった。
「ばっ……!?」
アヤメが私の魔法の射線上に入り込み、もろに《氷刃》を背中から受けてしまう。
彼女は思ってもいない位置からの攻撃に体勢を崩すが、地竜の攻撃を受けようと左の剣を前に出す。
両手の剣で受け止めていた地竜の攻撃を、片手で受け止められるとは思えない。
「くそ、間に合え……!夢魔法・修羅の章《骸砕》」
円月輪に速度の上がる魔力を込め、地竜とアヤメの間に投げ込む。
「グオォォ!!!」
しかし、円月輪が届く前にアヤメは地竜の右腕による薙ぎ払いを受け、吹き飛んだ。
そして、地竜は僅かに発光した。
______あれはまさか、スキル______
私がそれを認識した頃には、地竜は私の背後で何かを貪っていた。
私の、右腕だ。
「ぐ、あぁぁ!!!」
柄にも無い叫びを上げ、痛みを和らげようと無意味にもがく。
しかし、瞬きをし終わる頃には自分の置かれている状況を思い出す。
咄嗟に糸で右腕をぐるぐる巻きにし、深く息を吸う。
「アヤメ、死んでも私を守れ。このトカゲは絶対に殺す」
私の指示に、いつの間にか声の届く距離にいたアヤメは頷く。
「これは、私の慢心が招いた失態だ。私の右腕はもう、ベッドの柔らかな感触を味わうことはない。この代償は、お前の魂で清算することとしよう」
未完成だが、夢魔法の真髄を見せてやる。
「眼を開いた愚かな童よ
隠り世の声を聞け
それがいましの鎮魂歌となるのだ」
グラフェノスの魂、魔石を3つ地面に放って詠唱を続ける。
「冥土の土産は用意した
安らかに眠れ
夢魔法・理外の章《安寧》」
放った魔石から魔力が抜け、近くの魂がその魔力を補充していく。
しかし、絶えず抜け続ける魔力に魂も限界を迎え、魔石が砕けるのと同時に己の形を失う。
グラフェノス3体分の膨大な魔力、それを全て使用して地竜を眠りに誘う。
アヤメが1人で抑え続けていた地竜は、徐々にその力が抜けていく事に気付く。
「グオォ、チカラ……」
「黙れ、トカゲが。永久に私の奴隷として使ってやるから覚悟しておけ」
地竜が眠りにつき、魂に触れることができるようになる。
いつ起きるかもわからない化け物をこのままにしておく理由もないので、急いで魂を抜く。
「……普通の魔物と同じように魔石になってくれて助かった。これ以上戦いたくない」
「あいつ強かったっすね!抑えるので精一杯だったっす!」
アヤメの純粋な笑顔を見て、力無く頷く。
「疲れたから、ギルドまで送ってくれ。少し寝る」
「わかったっす!帰ったらご馳走っすよね?……あれ、ルミさん、ルミさーん?」
私の意識はここで途切れた。
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